おせちLPのこと
おせちLP おしながき
01 Musicに染まっていく(昆布)
02 かまぼこかまほろかまことか(かまぼこ)
03 めいくらぶくらぶ(いくら)
04 筑筑筑筑筑(筑前煮)
05 削いで、 (ローストビーフ)
06 妄言(黒豆)
07 かたまるたまご(伊達巻)
08 いのち20000個(数の子)
09 アルゴナウタイ(鯛)
10 雑煮ZONE(雑煮)
11 伊勢海老.wav(伊勢海老)
12 なますなます(なます)
13 ルサンチマンフィッシュ(田作り)
15 天下黄金(栗きんとん)
ことのあらまし
※読まなくてもいいですが、読んだほうが『おせちLP』をもっと楽しめる!かも?
あけましておめでとうございます。副主催のappyです。この「おせちコンピ」こと『おせちLP』のリリースにはとても複雑な――しかしながら、appy自身にとっては真っ当な――経緯というものがございます。それについて、書き記していくことにしましょう。
今作主催いちいいずと他数人のボカロPで通話をしていたときの話です。僕たちには時折、食べ物について熱く語り合う夜があります。例えばそれは、冷麺であるとか、餃子巻きであるとか。
その日の話題は袋ラーメンについてでした。
僕がラーメンを茹でながら「袋ラーメンって安ければ安いほど美味いし、全然具とか要らないよね」とか、そんなようなことを口走りましたところ、全員に変人扱いを受けてしまったのです。
僕はこう返します。「一度に味わうものの種類が多すぎると混乱する」
「例えばだけど、祖父母が家に来たときに食卓が料理だらけになることがあって、そのときめちゃくちゃテンション下がる」
「何から食べていいのか分からなくなる」
それを聞いた彼らはこう返します。
食べ物がいっぱいあるの、うれしいじゃん、と。
うれしくないけどなぁ。
「ご飯とおかずだけでもうペース配分いっぱいいっぱいなのよ。それに漬物とか付いてると本当に困る。どのタイミングで食べるのか分からない」
「定食にサラダ付いてることあるでしょ。あのサラダは最初に空にして“無かったこと”にしてる。混乱するから」
「だから幕の内弁当とかも嫌いだわぁ。コンビニでお昼買うときはおにぎりか、具の一種類しかない焼肉弁当とかがいいね」
「中華料理のターンテーブルのやつ食べたことないけど、めちゃくちゃテンション下がるんだろうな。チャーハン食べてお腹いっぱいです」
食べたいものから食べたらいいのに、ということも言われました。
「例えばご飯とおかずのペース配分みたいに、ベストな食べ順やペースがあるんじゃないかと思うと、脳内に全通りの途方も無い景色が広がってしまって、どうしようもなくなっちゃうんだよな。結果“分からない”という結論になる」
「おせちなんかちっちゃく沢山具が入ってて最悪だな」
このように僕が捲し立てておりますと、その場にいたとーずが記憶の扉を開き、証言をします。
そういえば、俺がappyたちと焼肉に行ったとき、appyは自ら金網で焼かれた肉に手を付けることをほとんどせず、俺に幼児のようにを焼き肉を振る舞われていた、と。あれは食べる順番が分からなかったのか、と合点を得ておりました。
僕もそのときの様子を思い出して、確かにそうだったなぁと思いつつ、それと同時に「分からない、とはいえ、考える時間を与えられたら完璧な打順を組んで、その通りに上手に食べられるけどなぁ」といったようなことも同時に思いました。
「そうそう、ご飯とおかずは経験でなんとかその場で対応できるけど、いっぱい料理が出てくることなんて正月とかイベント事の限られたタイミングだけだから、不慣れなんだよな。対策できれば、まぁ、いいんだけどなぁ」
そう言いながら……なんでやってこなかったんだろう。ふと、そう思いました。
そのとき、自分の中に広がった雲が晴れていく感覚がありました。段々と暗雲に切れ目が入り、光が差し込むが如く、自己催眠が溶けていくような感覚です。
そう、やればできることはやればいいんです。そんな当たり前のことにずっと僕は目を塞いでいました。
つまり、
“おせちの完璧な食べる順番”を作り、その通りに食べればいいのです。
今まで何十年、むず痒かった問題意識が一瞬にして晴れやかになったのを覚えています。
自分で自分を縛ってしまっていた。本来の僕たちはもっと自由なんだ。
グルメ元年。
年の瀬、僕たちはベストな年明けを迎えるべきだと思いました。
皆でおせちの具をリストアップしながら、討論が始まりました。たしか、夜中の2時を過ぎていたかと思います。
おせち。最初に全体の雰囲気を感じ取るために、出汁の味が分かる昆布……魚介類が多いので前半と後半に分けて、甘味は中間地点かな……などと数時間。
長い時間があっという間に感じられるほど濃密な時間の末、遂に完成しました。
我ながら完璧なルートです。波もあって単調にならず、かと言って相性のあまり良くないものが隣合ってるでもなく。
今まで難攻不落の迷宮に思われたあの四角形の奇妙な連なりが、今では見事なハーモニーを醸し出す宝石箱のように思われました。なんなら、早くおせちを食べたいよ、とすら思わされました。
我々の年始は完璧なスタートが切れる。そう確信しました。
そんな中、いちいいずがそのリストを見て言い出しました。
これ、アルバムだなぁ、と。
「確かに。フルアルバムみたいだね」
これ、実際にボカロのコンピにしたら面白くないですか。と彼は言います。
そう思って見てみると、その、完璧な食べる順番が、段々と完璧な曲順に見えてきました。
先程、自分でお墨付きをを与えたほどのリスト。その綺麗なさざ波から、ハーモニーが聴こえるようでした。
綺麗な流れ、フルアルバムにも必要不可欠なものでした。
その後はみんなして、理想の担当ボカロPを無責任に挙げ連ねて、こんなアルバムができたらおもしろいなぁと妄想を膨らましました。
あの人を呼んでこの料理を担当してもらって……、こんなすごいアルバムできるのかよ、なんて自嘲しながら。
しかしながら、
やればできることはやればいい。そんな結論に辿り着いたことは、言うまでもありません。