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バロッサヴァレーというワイン産地と、その多様なスタイル

こんにちは、Ichihopです。普段ワインを扱う仕事をしています。

オーストラリアのワインについて知る際に、バロッサヴァレーをスキップすることはまずありません。それはこの産地が長く良質なワインを生産してきた歴史があることや、国内でも有数の生産量があることに理由があるといえます。

今回はそのオーストラリアの中でもとりわけ著名なワイン産地、バロッサヴァレーについて取りまとめてみたいと思います。

地理と気候

バロッサヴァレーは南オーストラリア州に位置し、州都アデレードから北へおよそ70kmの場所にあります。車で一時間ほど、公共交通機関だと鉄道とバスを乗り継いで行きます。以前はアデレードから中心のタナンダまで鉄道が通っていたようですが、現在は途中から廃線になっており、放置された線路を今でも見ることができます。

ワインツーリズムも盛んで旅行者向けのホテルや、レンタカー、レンタサイクル、様々なワイナリーツアーが充実しています。また、セッペルツフィールドのワイナリーには六つ星の高級ホテルが2022年に完成予定で、新たなランドマークの一つになります。

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観光客向けのセラードアを併設するワイナリーも多い

広大な産地で、およそ12,000haものブドウ畑が広がっています(南オーストラリア州全体で約65,000ha)。海抜100~300mに位置し、土壌は乾燥した夏に耐えるのに効果的な地下水を蓄える粘土質のロームや、砂質土もみられます。

ブドウの生育期間中の降水量は少なく、日照時間が長いためブドウは完全に成熟するものの、この降水量の少なさと豊富な日照は干ばつに繋がるリスクもあり、しばしば灌漑も行われます。

そしてこの土地の大きな強みの一つに、高樹齢のブドウの多さが挙げられます。乾燥し、周りから隔たれた土地ゆえフィロキセラの被害を受けず今日に至っています。この古木に実る凝縮した果実が、この土地のワインのスタイルに大きく寄与します。

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樹齢100年を超えるようなブドウが多く現存する

シラーズ|Shiraz

この地域にはいくつかの個性あるワインのスタイルがありますが、最も重要な品種はやはりシラーズです。1840年代の入植初期から植え付けられた品種であり、170年以上この地で生産されてきた歴史があります。現在およそ7,000haの作付面積を誇ります。

その典型的なスタイルとされてきたものは、プルーン等の黒い果実やチョコレート、デーツが感じられ品種特有の黒コショウのアロマを伴います。またココナツやヴァニラ様の甘やかなフレーヴァーをワインに与えるアメリカンオークの樽で熟成され、よく成熟したタンニンと、14~15%の高いアルコール度数の大柄なワインです。

果実味豊かなワインがもてはやされたトレンドもあり、80年代後半からバロッサ・シラーズは世界的により認知度を増しました。しかしそういったスタイルはクラシックとして尊重されつつも、近年のライトなワインへのトレンドの変遷もあり、バロッサ・シラーズは多様化します。

酸を残すためのより早い収穫や、フレンチオークの割合が増えたりなど、より繊細でエレガントなシラーズが生産されています。

生産者の世代が代わったこともあるでしょうが、オーストラリアの人々は旧世界に比べダイナミックに変革できる風通しのよさがあるようにみえます。

カベルネソーヴィニヨン|Cabernet Sauvignon

つづいてカブサヴ(Cab Sav)こと、カベルネソーヴィニヨン。バロッサヴァレーにおいては比較的冷涼なヴィンテージに成功するとされています。品種単一での素晴らしいワインもありますし、しばしばシラーズとブレンドされることで優れたワインを生みます。

この品種も歴史は古く、オーストラリア最古のカベルネソーヴィニヨンの区画であるペンフォールド(Penfolds)社の「ブロック42」は1888年に植えられました。

この地のカベルネソーヴィニヨンは、充実した黒い果実が主体です。この品種に現れがちなピーマン様の青いニュアンスは、ユーカリやメントールのアロマに置き換わり、ワインに清涼感を与えます。長い熟成に耐える骨格のあるワインで、果実味と酸、タンニンが高いレベルでバランスをとっています。

複雑で落ち着いた印象のボルドーや、リッチでパワフルなナパのスタイルでもない固有のスタイルを持ったワインです。

グルナッシュ|Grenache

そしてグルナッシュについても1850年代の区画が確認されており、それ以外にも多くの古木を見つけることができます。この地域の温暖な気候によく適応し、現在700haほど栽培されています。

元々繁殖力が強い多産な品種であることから、古くはトウニータイプの酒精強化ワインや、安価なブレンドワインに多く用いられていました。しかし近年では、ブドウの収量を抑え品質を高めた単一品種のワインも高く評価されています。

様々なベリーやチェリー、甘草やシナモンのような甘苦系のスパイスのノートがあり、優れたテクスチャーを持ちます。ふくよかな果実味のおおらかなワインです。

加えて忘れてはならないのがGSMです。これはグルナッシュ、シラーズとムールヴェードル(Mourvèdre)の3品種をブレンドしたタイプで、それぞれの頭文字をとってGSMと呼ばれています。それぞれの割合に応じてMSGやSGMなどと表記が変わります。ちなみにムールヴェードルのことをオーストラリアではマタロ(Mataro)とも呼びます。

このブレンドにおいてムールヴェードルは、これまで紹介したグルナッシュとシラーズのキャラクターに、濃厚な果実味と力強いタンニン、そして獣のような動物的なニュアンスを加えます。

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ブドウの破砕に伝統的に用いられるバスケットプレス

セミヨン|Semillon

バロッサヴァレー生産されるワイン10本のうち9本は赤ワインですが、一部白ワインも生産しており、とりわけセミヨンが標高の低い区画で成功しています。

以前はふんだんにオークの風味を帯びた、ふくよかで熟した果実味のスタイルが主流でした。しかしながら現在ではハンターヴァレーでのアプローチを模倣し収穫を早め、オークの使用を抑えたピュアなワインが増えています。

このようなモダンなセミヨンは若いものでも楽しめ、ポテンシャルのあるものは良い熟成を経ることでハチミツやトーストのニュアンスも生まれ、複雑なワインになっていきます。

さいごに

バロッサヴァレーにおける主なワインのスタイルを紹介してきました。しかしこの地には歴史ある名門から、小規模で運営されるガレージワイナリーまで150以上の生産者が存在し、無数のワインが生み出されています。全てを網羅することはとてもできません。

しかしこの記事がこのバロッサヴァレーという土地のワインを理解するきっかけになれば幸いです。




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