諸悪莫作

先日、坊主バーにいったときに僧侶の方のお説法で聞いた言葉

「諸悪莫作、諸善奉行、自浄其意、是諸仏教」

について。

ある種、指針としたい言葉であるので、記しておく。これは「七仏通誡偈」と呼ばれていて、釈迦を含め過去七仏が共通して説いた教えとされる。
原典を探すと、ダンマパダの一節であるようだ。

すべての悪しきことをなさず、善いことを行ない、自己の心を浄めること、ーこれが諸の仏の教えである。

(中村元、ブッダの真理のことば・感興のことば(岩波文庫)、183偈)

英語経由の文献だと次のような訳がある

悪行をやめ、善をよく実行し、自分の心を制御せよ。
これがブッダの教えである。

(ダライ・ラマ、至高なる道(春秋社)、序章)

仏教というより、世の中を渡っていく上でのHow toみたいなところがある。例えば、アンガーマネージメントもこの一種だろう。

自分の心の制御というのは、ほんとうに難しい。制御しているつもりで、できていない。そもそも、行動するのも言葉を発するのも、心がまずはじめにある。制御するということは、適切にフィードバックを行い、現実に即して行動を調整することが必要だということだ。「浄める」という訳も、そういったフィードバックがスムーズに行えるようにすべきということと考えられる。

X界の海をみていたら、頂き女子りりちゃんの言葉が流れてきて、大変印象深かったので、言及しておく。

Q.騙しやすい男性は?
りりちゃん: 自分さえよければいいと思っている人ではなく、こっちの気持ちを気遣ってくれる人

困っている他人を助けるのは、基本的には善いことである。しかし、詐欺師も困っているふりをするし、実際の困窮者だって、助けてもらえるのを見越して、その状況に陥っている人が多いように思われる。

そういった人に平等に手を差し伸べると、自分のリソースが持たないので、普通、人は、助ける人を選ぶ。自分にとってメリットがある人・ない人で選別が行われる。例えば、ホス狂の若い女性には支援する人が多くいるが、小汚い中年男性は、屋外で寝ていても見て見ぬふりをされる。困ったときの助けられやすさには、男女間で差異があることは最近よく指摘されるようになってきたが、それが是正される兆候はない。助けてもらいにくい属性の人は、自分の身は自分で守らなければならない。

そこで大事になるのが、「自己の心を浄めること」であり、よく「制御する」ことなのであろう。

他人を助けるという行為は、何かリターン(返報)を期待しているものである。親切にしたのにそれに対して、ありがとうの一言も言われないと、ムッとするのが普通であるし、感謝してもらいたい人に対して選好的に親切を施したがるのが、心の性質としてあるのだろう。
しかしこれが、結局のところ貧乏くじを引いてしまう原因なのであろうと思う。こういった心の性質をよく見極め、返報を期待できる人にだけ親切をするということは避け、むしろ誰にでも親切にする。
これができれば、きっともっと生きやすくなるのであろうとは思うし、それが「諸の仏の教え」ということなのであろう。

他人の気持ちを気遣うことは、善いことであるには違いないだろう。しかし。そこに入るバイアスが、きっと人を不幸にしている。それを取り払うことで、きっと幸せに近づくことができるのだと思う。

言うは易く行うのは難しい。

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