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他者の存在が美しい方向に影響する世界をつくること。

この記事について

ひとつ前のイレギュラーな記事が予期せず微妙にバズってしまったので、ものすごく続けにくいのですが、このマガジンでは武蔵野美術大学大学院造形構想研究科修士課程造形構想専攻クリエイティブリーダーシップコース(以下「本研究科」といいます。)の科目である「クリエイティブリーダーシップ特論」(以下「CL特論」といいます。)のエッセイを投稿していくというのが平常運転でございます。前記事は本研究科の内外を問わず私のこれまでの経験に基づいていますが、基本的には、マガジン内では本研究科における特定の授業のエッセイを書いていくスタイルなので、読者の皆様におかれましては、あらかじめご了承ください。

ところで、CL特論でご登壇される皆様、企業様には各々に大切なヒストリーや価値観があり、(特に現物を観に行かずに)私から何か批評をしたり、ご講演内容から特定の手続を公式化して引っ張り出したりというのはやや躊躇いがあり、一部の例外を除いて「感じたこと」や「私の中の位置づけ」を淡々と記述する方向になってきております。ちょっとまだ距離の掴み方を把握しかねており、素朴な子供っぽい感想に近くなっておりますが、こちらもあらかじめご了承ください。

ということで、前置きが長くなりましたが、この記事は、令和3年5月17日(月)に開催されたCL特論の第6回のエッセイです。最前線でご活躍される方の連続講演イベント第6回のスピーカーは、チームラボ株式会社(所在地:東京都千代田区神田小川町2丁目12番地)の発起人のひとりであり、取締役である堺大輔様です。ちなみに、ご紹介にあたり長谷川先生は「みなさんご存じだと思いますけど…」と入りましたが、少なくとも私はデザイン業界自体に対してはまるで無知なので、そのあたりはご容赦ください。良くも悪くも先入観は皆無です。いや、良いことではないですね…

講演内容について

デザイン業界としては珍しく(私内比率ですが)、ご講演中では、けっこう「合理的に」、「効率的に」という言葉が頻繁に出てきたことが印象的でした。会社としては、トップダウンではなく、自律的・合理的にやっていく文化とのことでした。エンジニア比率は7割とのことで、ソフトウェアの中でも様々なエンジニアがいて、サーバーサイド、フロントエンド、3Dなどが専門としてあるほか、そのほかにも AI、数学、建築、UI・UX、編集者など、色々な専門家の集合体としてつくっているとのことです。現在でも、基本的には出社により対面でやりとりしているそうで、このほうが合理的である旨おっしゃられていました。

また、ご講演中ではオフィスのご紹介がありました。オフィス内が相当工夫されており、かなり独特な印象を受けました。オフィス内にホワイトボードがないそうで、メモデスクと呼ばれるメモ帳様のデスクとテーブルごとに設置されたディスプレイを用いるそうです。これは「正しいことを書かないといけない」みたいなことを思ってしまわないように、「ちゃんとしない」ようにするという意味があるとのことで、発言しやすく、集まりやすく、アイデアを出しやすいオフィス環境を目指しているとのことでした。ほかにはマッサージボールが大量に敷き詰められているテーブルがあったりしましたが、パソコンであれば何かを書けなくても関係がないということもあり、インプットとしての刺激を重視しているとのことでした。オフィス内に仕切りがないのも同様の理由のようです。

事業としては、よく知られているデジタルアートのほか、BtoB のデジタルソリューションも提供しているとのことで、個別具体的に企画やアプリをご紹介くださいました。前者については、没入型の常設展を国内外でやっているとのことで、基本的には光を用いつつ、触覚や香りを利用した展示もあり、味覚以外のすべてを用いているとのことでした。「鑑賞者の方々に作品に完全に没入していただく」がテーマとのことで、「没入体験をポジティヴにする」ということが信念としてあるとのことでした。

〔滝と花の作品を示しながら〕僕たちの作品は、他者がそこにいていただくおかげでどんどん内容が変わっていきます。他者の存在自身が作品に影響を美しいほうに与えてくれるので、他社の存在が嫌にならない、というのが僕たちのアートの特徴だったりします。子供が走り回れば普通だったら怒られたりしまけど、怒られずにむしろすっごい(作品の花が)咲いてくれて嬉しいねということになったりしますし、それによって花が咲いてると言って写真を撮ってくれる人も出てきます。すべての存在をポジティヴにしてくれる。ほかの人と一緒に体験してもらうことで、ほかの人の行為自体がすごいポジティヴなものになるというのがコンセプトになっています。それがデジタルのよさでもあります。
〔強調引用者〕

そのほかに、自然の美しさに気づくことができるプロジェクトなどをご紹介くださいました。また、ゼロイチも大切だけれどとの前置きの下で「クリエイティヴとはアップデート、積み重ねだ」といったこともおっしゃられていました。作り方の概念としてとても重要視しており、いかにクオリティを上げるかということを目指されているとのことでした。

他者の存在が美しい方向に影響するという発想について

他者の存在が嫌になるというのは私としてもとても実感があり、これをコンセプト中で他者の存在を好意的に転換させたところがとても興味深くありました。これもある種のネットワーク効果と呼ぶのでしょうか、他者の存在自体が作品世界を美しい方向にもっていくという考え方は新鮮でした。通常は他者の行動をどのように(場合によっては自社に都合よく)変容させるかについて色々考えるわけですけれども、他者の存在自体が別の他者によい影響を与えるというのは世界観としてとてもよいものだと感じました。

全体として個人的にはデジタルアートのほうに関心が向きましたが、デジタルソリューションのほうではよく知るアプリも紹介され、同じ会社でやっているというのが面白いなと感じました。クライアントサイドの法務担当者が体験実現の障害になるという趣旨のお話もあり、企業の法務を担当している私としては、とても耳の痛いところでした。何かうまくやっていく方法を見つけたいと強く思いました。

(執筆者:平塚翔太/本研究科 M1)

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