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プロのバナナ

茜色に染まる河川敷を歩いていると、後ろから子供達が駆け抜けた。彼らは草むらに生えているバナナを一つもぎ取ると、夕飯を待ちきれず黄色いバナナを分け合って食べ始めた。

苦労が報われた瞬間だった。

『バナナをもっと皆に食べてもらいたい!』

幼少からバナナを愛していた私はそんな使命感に溢れていた。ある日、父さんのツルツルした額を見て閃いた。

「どんな不毛な土地でも育つバナナを作ろう!」

たんぽぽのように皆の傍に当たり前にバナナがある世界。そんな想いでバナナの種子の綿毛化を進めてきた。大学や企業に協力してもらい、綿毛種子の第一号を風に飛ばしたのが昨年。今では道端のあらゆる所でバナナが育ち、足元が黄色で溢れる世界となった。

「ただいま」
家に帰ると父さんが迎えてくれた。私は目を見開いた。
「バナナ......」
「ありがとう」
父さんの頭にバナナの房が生えていた。完熟だった。

ーーどんな不毛な土地でも

気がつくと、私の目には涙が溢れていた。

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