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一億円の低カロリー

『おかえり』
家に帰ると、見たことのない量の札束が畳の上に積まれていた。無数の諭吉さんが私を見つめてこう言った。
『俺だよ、俺』
諭吉さんの正体は三年前に亡くなった夫だった。夫は閻魔様に転生先を聞かれた際、よりにもよって一億円になりたい、と答えたそうだ。
『これでようやく、お前を支えてやれる』
好きなものを食べに行こうと促され、私は三枚の諭吉さんを財布に入れると近所の喫茶店に入った。
『もっと高い店でもいいんだぞ』
「ありがとう。でもダイエット中だから」
テーブルの上の諭吉さんは、私がサンドイッチを頬張るのを嬉しそうに、体をヒラヒラさせて眺めている。
食事を終えると、私は諭吉さんを一枚、レジの前の店員に差し出した。
「ごちそうさま」
夫にさよならを告げ、私は店員からお釣りを受け取った。
『財布が太ったじゃないか』
財布の中で、二人の諭吉さんが九人の英世さんと笑い合っていた。
まったく。この人とダイエットするには、まだ時間がかかりそうだ。

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