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ショートショートの王様

小雨が降る商店街を歩いていると、少年が傘を傍に置いて、しゃがみ込んでいた。

「キミ、風邪ひくよ」

濡れないよう頭上に傘をさすと、少年は振り向き、足元を指差した。なんだろうと覗いてみると、レンガ敷の歩道にできた小さな水たまりには文字が連なり、ショートショートが浮かんでいた。

ーー東の山を超えてくる雲は、ショートショートの王様の空想なんだ。山の向こうには海。その向こうで暮らす王様は、毎日ハンモックで寝っ転がりながら、モクモクと空想してるんだ。

そんな、祖父の言葉を思い出した。
夢中で読む少年の背中を微笑ましく見ていると、いつしか雨は上がった。

「あ」

太陽の光が水たまりに差し込む。すると、水たまりはさらさらと蒸発して空に昇っていった。最後まで読めなかったのだろう。少年が言った。

「ねえ! おじさんはさっきの続き、どうなると思う!?」

ワクワクした瞳を向ける少年。その頭からモクモクと煙が浮かぶと、虹がかかる空を昇っていった。

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