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日本版FIRE超入門


概要


FIREというと40代ぐらいでアーリリタイヤするための投資術・・・のようなノウハウを紹介した本やYoutube動画が溢れているがこちらの書籍はキャッチコピーとしてFIREで人目を惹きつける工夫をされてはいるものの本質はFIREの入門書に留まらない。
著者は、日本の税制、転職事情に詳しいFP(ファイナンシャルプランナ)である。
本の章立ては、稼ぐ、節約、増やす、知識、実行、メンテナンスとなってる。
投資系Youtuberの両@リベ大学長の「お金の大学」の章立てを参考にして、FPの専門的な立場からより日本企業や公務員の慣習や税制を踏まえながら個々人の自己責任とされている公的年金に頼らない個人資産を如何にして築くべきかについて普通の会社員が実践できる具体的な方法を整理しているようだ。

本書を読んで得られた気づきを自身の知見も踏まえて本書の章立てに沿って整理する。

「稼ぐ」

個々人の能力とスキルにふさわしい職種、職場への転職を如何にして実現して年収アップを狙うかについてそのノウハウが紹介されている。
現在勤めている職場とより良い関係を保ちながら、自分のスキルを正当に評価してもらえる次の職場への転職活動の進め方にも言及している。
秘訣は「堂々とコッソリ」と。転職文化が普通で出入りの激しい外資系企業やI T企業では当たり前の感覚であるが、多くの日本企業や公務員のような安定した職場文化だった人にはとても刺激になり参考になる内容だと思う。
また、賃金の上昇が数十年前よりも見込めない現代においては、「夫が稼ぎ妻が家を守る」タイプのライフスタイルではなく、「夫婦それぞれが専門を極めて正社員として共稼ぎする」タイプで家計収入として1000万円を目指すほうが現実的であり誰もが目指せるライフスタイルとして紹介されている。この考え方は是非若い人たちが参考にすると良いと思う。若い人たちの親世代の多くは、「夫が稼ぎ妻が家を守る」タイプだ。
自分が子供時代から慣れ親しんだこのライフスタイルを無意識に選択をすることがないように願う。
親世代の常識が、子供世代には全く通用しない一つの良い事例として本書はよくまとまっていると思う。

「節約」

自身の望むライフスタイルを犠牲せずに自身が無意識に浪費していることを止める方法が整理されている。
自身の望むライフスタイルを犠牲にして修行僧のように我慢しながらひたすら安いもの、買いたいものも買わない行動は、「もっと貴重な自分の人生の無駄遣い」という視点を持つことが重要である。
その上で、本書で整理されている視点を時々「節約・解約Day」を設けて集中的にチェックして無駄な大きな支出を止めるのは有効だと思う。
日々の行動の中でチリも積もれば・・的な節約は、「それが人生を送る上での好きな事、趣味」と思える人以外は程々にした方が良いだろう。
多くの人には、それで多くの時間を使うことは、「人生の無駄遣い」になることは意識した方が良い。「時間を使う=人生の無駄遣い」ではなく、「お金をうまく利用して時間を買う」感覚を身につけることが節約に繋がることに注意を払うと良いだろう。

「増やす」

その具体的なテクニック、ノウハウを紹介した本やYoutube動画は巷に溢れているので取り立てて真新しいことはない。
銀行の普通・定期預金は、「元本割れしない安全性」だけに目が行きがちであるが、経済成長率(インフレ率)に及ばず「資産が目減りすることが予め確定している商品」であることにも気を配るべきだ。
これを意識すれば、「インフレ超過リターン」の必要性が理解できて銀行の普通・定期預金以外の投資が必須であることが理解できると思う。
基本は、「インデックス型投資信託へ長期積み立て投資」。「iDeco(確定拠出年金)、NISAの満額投資」。「一度設定したら日々のチェックはせずにほったらかし。年に数回程度状況を見てルール変更や資産配分が崩れていたらリバランス」。
これら言葉の意味するところは奥深いが、その具体的な解釈、実践ノウハウは個々人が置かれている状況と考え方によって様々。
個々人にとって安全な投資行動をするために本書は指南書として参考になると思う。
もっとも本書にかぎらず個々人のレベルに応じた優良な書籍やYoutube動画は他にもたくさんある。

「知識」

FIRE以前に日本国に住むすべての人が知っておくべき基本的・普遍的なものだ。
社会保障制度(国民・厚生・共済年金、健康保険、高額療養費制度、介護保険、雇用保険)に関する最低限の知識を得ることで、民間保険(生命保険、医療保険、障害保険、地震保険、火災保険)など無知であればセールストークに煽られて不安になり多くの保険に入りがちであるが正しい知識があればこれを防ぐことができる。
また、相続税も数十年前は一握りの金持ちだけに必要な知識だったが持ち家を持った一般的なサラリーマンでも正しく知らないと相続時に想定外の税金がかかることを知る必要がある。
住宅についてもローンを組んで持ち家を購入するか?賃貸にするか?どちらが自分にとって最適なのかは判断は難しいとはいえ、知った上での判断ならその後の結果についても自己責任を意識できる。
ローンについても様々な物がある(住宅、自動車、学生のための奨学金)。人生における様々なイベントに対して必要な支出を全てを貯蓄や過去の投資成果からだけで賄うのか?それともどのローンを選択しどのローンを選択しなければより豊かな生活が送れるのか?
そして学生や若い人なら大企業、中小企業、フリーランスや自営業、公務員などのどれを選択するべきか?
もちろん、自分のやりたいこと、夢を最優先することは言うまでもないが、それぞれの選択に置いて活用できる福利厚生を知ることは必要だ。
それぞれの企業や団体が用意する社会保障制度以上の有利な制度は、全く違う。
それを意識して活用したものには大きな恩恵をもたらすので「稼ぎ、節約し、増やす」ための基盤として何を選択するのかはとても重要なことになる。
選択できることは多く、何が個人にとって正解かを判断することは未来を見通すのと同じくらい難しい。
だから、正しい知識取得しアップデートを継続し、時々の状況に応じて意識的に軌道修正をすることが良いと思う。
本書は、最初に取得すべき最低限の基礎知識の指南書としてとても整理されている。


「実行」

FIREするタイミングを計画することから始まる。ポイントは「何歳でFIREして仕事を辞めるか」ではなく「FIREしてから年金受給が開始される老後になるまでの若い間の自由な時間で何をしたいか」を明らかにすることだ。
これにより「年金受給開始までに必要な活動資金としていくら必要か」が明らかとなる。
そしてこの計画はFIREに至るまでに何度も軌道修正されるものである。稼ぎ、節約、増やすが計画通りにいかないことは常にあるし、「若い間の自由な時間で何をしたいか」の考え方も変わる。
様々な要因を踏まえながらFIREするタイミング、その時に必要な標準的な必要資産額などがモデルケースとしていくつか紹介されている。
本書でもっともお薦めしているのは、現代に置いての標準的な退職年齢の65歳より、5年早い60歳での完全リタイヤを行うプチFIRE。
体力的にも精神的にもまだ余裕のある5年早くの完全リタイヤは人生の選択肢を広げるのに十分な時間となるし、また逆に「長すぎない」と言う点でも悪くない選択肢だと主張している。
長すぎると時間を持て余し、メンタルのバランスを崩したりするリスクも大きいと言われている。
この標準的な退職年齢は時代と共に少しずつ遅れる傾向がある。
健康寿命がのびて人生100年時代と言われ始めた現代では70−75歳まで現役と言われ始めているので今後も標準的な退職年齢は引き上がっていく傾向にあると思われる。
そのような場合でも標準的な退職年齢ー5歳のプチFIREをベースとして目標にするという考え方は十分に通用するのではないだろうか?
まずは、このプチFIREを目標に実行し個々人の働き方や資産状況に応じて数年プラス、マイナスで調整することで日本における税制や会社制度に適合した成功するFIRE後のセカンドライフを目指せるのではないだろうか?
また本書では、他の書籍やYoutubeなどで多く話題になっている40代でのFIRE達成についての難しさ、危うさを日本の社会保障や会社制度を踏まえた上で警鐘を鳴らしているので本気で目指すつもりでも考慮漏れがないかを確認する上でも有用だと思う。

「メンテナンス」

FIRE達成した直後の手続きやFIRE後の資産管理方法などを具体的にイメージできる構成になっている。
個々の手続きや勘所は今後も変わると思うしFIRE達成直前に最新の情報を確認をすれば十分である。
一番重要なのはFIRE後の「生きがい」の設定だ。
FIREを実践できなかった標準的な退職をする65歳の人たちでもサンデー毎日となり、毎日が暮れる前にビールを空けずに過ごす方法を真剣に悩む人などFIRE目標に邁進していざFIREを達成した後に自由な時間の使い方がわからず精神、体調のバランスを崩してしまう人もいるそうだ。
実施中の仕事やプロジェクトが多忙すぎて精神、肉体的にも疲弊してようやく完了して閑散期に入る状況を想像してみよう。
1−2週間は「何もしなくていい時間」はとても快適で、寝たいだけ寝て、昼間からビールを開けてほろ酔い気分で、忙しく働いている人々を眺めて自身の幸せな状況を噛みしめることもあるだろう。
でもこれが数ヶ月続くとしたら今の自分は耐えられるのか?自問自答してみるとよい。
完全リタイヤすればこれが一生続く。残りの生涯を通してやりたいことを見つける自信や覚悟がないなら、無理に完全リタイヤを目指すのではなく、セミリタイヤなどで一定の社会貢献をしながら膨大な自由時間の活用を自分ですべて考えるのも骨が折れる。それよりもある程度限られた自由時間をありがたく感じながら趣味に打ち込むなどが誰もが実践できる幸福感の高いセカンドライフなのかもしれない。

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