ギターアンプシミュレーター比較 ブラックフェイス・デラリバ系 プラグイン 4種。
真空管ギターアンプが大好きな「市くるた」です。
デジタル化が進む中、私の部屋には真空管ギターアンプがゴロゴロしています。多い時には十数台のチューブアンプを(無駄に)所有していました。
日本の住宅事情を考えると使いにくい代物ですが、ついつい増えてしまいます。そんなアナログ人間の私ですが、昨今のデジタル・アンプシミュレーターの目覚ましい発達により…
かくいう私もデジタルのギター・ガジェットに手を出して早数年…。
楽しくギターを弾くには、もちろん「真空管アンプ」が好きなのですが、
DTMでレコーディングをする場合などは、シミュレーター・プラグイン無しでは生きていけない体になってしまいました。
そこで今回は、結局購入して増えてしまった…主要アンプ・シミュレーター4製品のサウンド比較「ブラックフェイス・デラリバ編」です。
サクッと観たい方へ「比較の動画を作ってみました」
比較用に簡単なデモ曲を作ってみました。オケの中でどの様に聴こえるのか?の参考になればと思います。4分弱で視聴できますので良かったらどうぞ。
モデリング元となった「ギターアンプ」について
この記事にたどり着いてしまった様な…情報収集が大好きな「意識高い系ギターリスト」の方達には、基本的に説明の必要は無いかも知れませんので読み飛ばして頂いて大丈夫なのですが、軽く「フェンダーアンプ」にも触れておきます。
今回比較している音色は全てシミュレーターですので当然、元となったギターアンプが存在します。皆さんご存じ「fender」という大手ギター製造メーカーが1960年代に販売していたコントロール・パネル部分が黒色のシリーズです。(現在でもリイシューが販売されています)そうです!パネルが黒いから「ブラックフェイス」と呼ばれています。
フェンダーのアンプは年代により音色の特徴が変わってくるのですが
私が大雑把に分けるとしたら、その特徴は3種類。
1950年代のツイード期
外装がツイード生地に覆われていて、コントロールパネルがアンプの上面に設置されたモデル。音色の傾向は「いなたい」サウンドで、ローミッドの太さが特徴的な少し暗めのダーティーなサウンド。古き良きブルースなんかで太っとい存在感のあるリードギターを弾くには最適なサウンドです。中でも「ベースマン」というモデルは伝説的なギターアンプで、最初期のマーシャルアンプは、このフェンダーアンプの回路を元に作られました。(フェンダーが無かったらマーシャルも存在していなかったかも知れませんね。)
1960年代のブラックフェイス期
今回の主役。ツイード期とはだいぶ違い、煌びやかな高音域が美しいモデルが多いです。この頃からフェンダーアンプの特徴でもあるスプリング・リバーブが搭載されます。中低域にも「ふくよかさ」がありセンシティブ過ぎないコンプレッション感が色気を感じさせるので、少しドライブさせても品のある質感を保つモデルが多く人気が高い年代です。フェンダーを象徴するサウンドと言っても過言では無いでしょう。
1970年代のシルバーフェイス期
その名の通りコントロールパネルがシルバーのシリーズ。ざっくり70年代と書きましたが、活躍したのが70年代だからで、人気のあるモデルは68年製が有名です。音色の傾向としてはブラックフェイス期よりもソリッドな印象で、良い意味でアタックにパンチがあります。ハードロック全盛の時代だったからこその音色と言うべきでしょうか。しかしながらこの時期はフェンダーがCBSという会社に買収されていた時期でもあります…その影響か70年代後期になるにつれてシルバーフェイスは音が硬く、あまり音楽的ではないサウンドを出す個体も多くなる印象です。
という感じで…だいぶ大雑把に分けてみました。本当はもっと色々あります。50年代~60年代過渡期のブラウンフェイスや、80年代のポールリベラ期、近年ではデジタルのトーンマスターシリーズや、ハイゲイン対応のベースブレイカーシリーズなどなど…ギターサウンドを作ってきたと言っても過言ではない歴史の長いメーカーですので色々な製品がリリースされています。
今回比較したシミュレーター
ik multimedia amplitube 5
音楽系のデジタル製品を多く手掛けているイタリアのメーカー。
ソフト音源からモニタースピーカーまで、クオリティーの高い製品が多く、比較的リーズナブルな価格から製品をラインナップしているのでアマチュアでも手を出しやすい為、広く普及しています。
「amplitube 5」は様々な実機、真空管アンプブランドとライセンス契約をしている事も特徴で、今回比較している「fender」アンプなんかも実際のギターアンプ名がそのまま使われているので、実機のアンプを使ってきたギターリストには機種名が分かり易く、シミュレートされたアンプモデルを選びやすいのが嬉しいところです。
またキャビネットのマイクシミュレーションも拘って製作されていて、マイク位置を細かくプロファイリングしてあるので、収音位置を無断変化の様に滑らかにマイクを動かす事が可能となっています。
こちらも実際にマイク録音を経験されてきたギターリストには嬉しい仕様だと思います。
気になる音色の傾向としては、意識的に「太いアナログ感」を演出している為か、出来るだけデジタル臭さを感じさせない様に中低域に重心を置いた音作りがされている様に感じます。
誤解を恐れずに表現するならば「フルアコ」や「セミアコ」の様な少しメローに聴こえる音色がデフォルトの設定では多いです。
もちろん数種類イコライザーも搭載されているので自分好みの周波数バランスに整える事も可能です。逆に言うとエッジの効いたソリッドなサウンドや、煌びやかで軽快なサウンドをメインで求めるのであれば、他メーカーのシミュレーターを使った方が音作りの手間は少なくて済むかも知れません。
しかしながらリードギターがメインになる様な、存在感のある「音像の大きな」ギターソロが必要な楽曲などには魅力的な選択肢になると思います。
Positive Grid BIAS FX 2
今回紹介する中では比較的、新しいアメリカのメーカーです。
音楽系のソフトウェアやハードウェアを開発していますが、上記のik multimedia社とは違い「ギターサウンド」に特化した製品をリリースしています。
ギターサウンドに特化している為か「ギター脳」には分かり易く使いやすい製品が多い印象で、多機能ではあるのですがマニュアルを見なくてもざっくり使えてしまうギターリストは多いのでは無いでしょうか。
姉妹製品に「BIAS AMP2」という更にアンプ部分に特化したアプリケーションも開発されていますので、細かくアンプをカスタマイズしたいマニアな方なんかはBIAS FX 2と併用して音作りをするとかなり満足度が高いのではないでしょうか。
しかしながら私の環境ではバグが多く、所有しているプラグインの中で唯一不具合が発生してしまいます。(私の環境ですとレコーディング中に突然クリーンサウンドに戻ってしまう不具合が発生しています。PCとの相性とかもあるのかも知れませんが…誰か似たような不具合に見舞われている方が居たら教えて下さい。)
さて肝心の音色の方ですが、バグが発生してしまう事が惜しいくらいには魅力的なサウンドが飛び出して来る印象です(笑)。本物の真空管アンプに近いサウンドと言うよりもデジタルが得意とする領域でより音楽的に聴こえるサウンドを目指している様に感じます。もちろん実機のアンプの特徴も良く捉えているので相当生のアンプに拘りのあるギターリストとかでない限りは、モデリングされた実機を知っていても気持ちよく演奏できると思います。
周波数特性もバランス良く再現されている音色が多い印象で、オケの中でも使いやすいのではないでしょうか。程よく立体感を感じられる様な絶妙なバランスになっていると思います。
Native Instruments Guitar Rig 7
ソフト音源の開発で有名なドイツのメーカーです。ほかにオーディオインターフェースやMIDIキーボードなどのハードウェアにも力を入れています。
「Guitar Rig」は息の長いシミュレータープラグインで私の記憶では、かれこれ20年くらい前から存在していた様に思います。当時は音がガサガサで…「やっぱりデジタルはダメだな。」なんて偉そうに…まだ見下していた記憶があります。(ごめんよGuitar Rig若気の至りです。)
元々ソフト音源を作っていたメーカーだけに「complete」という音源のシリーズに搭載されているエフェクターが移植されていたり、近年ではiZotopeと供にSoundwide傘下に入った影響もあり人気が高いiZotopeのマキシマイザーが搭載されるなど進化を続けています。
サウンドの傾向としては、ギター単体で聴くと少し平面的で奥行きに乏しいサウンドに聴こえがちですが、長年ソフト音源を作ってきたメーカーだけあってオケの中で他の楽器と合わせて使った時にはサウンドを前に出しやすく埋もれにくい音作りになっている印象です。
特にトラック数の多い楽曲では使いやすく、逆に生っぽいサウンドでは出せない様な「印象的なリフ」なんかに使うと効果的です。また打ち込み音源メインでMIXする事が多いギターリストには、曲中での馴染みも良いのではないかと思います。
余談ですが、サードパーティー製の良質なIRと組み合わせると埋もれないながらも立体感を感じられるサウンドが手軽に作れてしまうので、もっとリアルな質感のソフトに乗り換えを検討している方は、その前に1度手軽で評判の良いIRを購入して試してみるのも良いかも知れません。
UNIVERSAL AUDIO UAD Dream '65 Reverb Amplifier
高価なレコーディング・スタジオ機器を製造しているアメリカのメーカーです。泣く子も黙る1176やLA‐2Aなどのコンプレッサーは憧れますが…予算の多くをギター系の機材に回してしまう私には…一生手に入れられない気がします(笑)
最近のイメージはApolloなどの高機能オーディオインターフェースを作っているメーカーという側面の方が認知されているのかも知れません。
この「UAD Dream '65 Reverb Amplifier」は上記でご説明した他社のシミュレーターとは違い「マルチエフェクター」の様な感覚で使う事は出来ません。アンプは3種類、キャビネットは6種類 搭載していますが基本的に「fender DeluxeReverb」のモデリングで年式違いやキャビネットのサイズ違いなどのバリエーションが収録されています。その分、操作系もシンプルで誰でも素早く欲しい音にアクセスできる様に上手くまとめられています。
(例えばゴリゴリのヘビーメタルの様な深く歪んだサウンドが欲しい時には、そもそもこのプラグインを選ぶ事は無いと思いますし、このプラグインをを選んでいる時点でもうサウンドの方向性が決まっているハズなので音作りの時短にはかなり貢献してくれると思います。)
さて肝心の音色ですが、流石「fender DeluxeReverb」に特化してデザインされていますし、UNIVERSAL AUDIOは「OX」という高品質なキャビネット・マイクシミュレーター搭載型の真空管アンプ用リアクティブ・ロードボックスなんかのノウハウがありますので、ギターを弾いた感触がナチュラルで、手持ちのコンパクト・エフェクターと組み合わせて弾いてみようか?なんて気持ちにさせられる魅力的な音色に仕上がっています。
ただ1つのアンプの音色に特化しているからと言って他社のシミュレータより音質が圧倒的に優れているか?と言われると…デラリバの音が欲しい時にファーストチョイスにはなり得るが、演奏する曲調によって他社製のプラグインを選ぶシチュエーションも出て来そう。という感じでしょうか。
最後に。(まとめ)
最近のアンプシミュレーター系プラグインは、どれを使っても合格点を狙えるクオリティーがあると思います。実際のギターアンプを現実世界でマイク録りした事があるギターリストならご存じかと思いますが、マイクセッティングは難しく…理想としているサウンドに追い込むのは至難の業です。宅録環境ならなおさら限界がある様に思います。実機を「SM57」1本で宅録するくらいなら今回比較したシミュレーターでライン録りした方が簡単に良い結果が得られるかも知れません。そのくらい各社のクオリティーは高くなっています。
ある一定のクオリティーは確保されているものの、各メーカーごとに音色の個性を感じる事も事実です。音色には好みがありますし、合わせる楽曲が違えばまた印象も変わるかも知れません。
独断と偏見で私が個人的に選ぶとすれば(今回比較したサウンドに限って)クリアで少しモダンな質感が欲しい場合には「Positive Grid BIAS FX 2」、リアルにマイクで収音した様なザラっとした質感や、ちょっとイナタイ雰囲気が欲しい場合は「UNIVERSAL AUDIO UAD Dream '65 Reverb Amplifier」をファーストチョイスにすると思います。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
誰かのアンプシミュレーター選びの参考になれば幸いです。
市くるた
P.S.
さて次回は、アンプシミュレーター比較
「マーシャル・プレキシ編」を予定しています。
良かったらそちらの記事も読んでみて下さい。
※記事書きました ↓