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世界首都は駿河屋の夢を見るか?


「模型の世界首都」。

言葉の意味は分からんがなんだかすごい自信のこの言葉は、静岡市が「ホビーのまち静岡」と並び口にしているまぁぶっちゃけていえばシティプロモーションとしての標語である。


タミヤがある、バンダイがある、アオシマがある、フジミがある、プラッツがある、ウッディジョーがある、RCベルグがある、シモムラアレックがある。

だから世界首都なのだ、という論法は整合性があるような破綻しているような微妙なラインではあるが、東京から180キロ離れたこの地でプラモに励む私とその自尊心にはそれなりにヒットした。


さて、首都とは何か。

例えば緑茶に関して言えば静岡県が首都を名乗って良かろうと思う。生産量で鹿児島に遅れをとっているとはいえ、消費量と購入額で首位にいること。

生産し、購入し、消費する。そのサイクルがあって、その交流があって、初めて首都というのではないのか。目指す世界首都というのは東京・ワシントン・パリなのか、オタワ・キャンベラなのかという話なのだ(無礼)


翻って、静岡市にプラモを消費、購入する風土はあるのか。

あった。かつてはあった。幼少のみぎり、清水市で育った私に確かにそれはあった。

いつもは親もよく買い物に行く割引率の大きいヤオハンがあった、西友があった。少し駅から離れたところには清水模型センター(なんて素晴らしい店名!)があった。そこにはBB戦士からラジコン飛行機まで、すべてがあった。

静岡市に足を延ばせばレインボーテンがあった。模型店とは思えぬ天井の高い、開放感のあるかっこいい建物だった。国内外ありとあらゆるプラモがあった。作品が展示されている部屋もあった。ジオラマのかっこよさを知ったし、世の中には作り切れないほどプラモデルがあると知った。


今はそのすべてがなくなった。


模型店が無いわけではない。郊外の電気店、特にコジマ静岡店は消耗品も含めよく揃えてくれていると思うし、個人経営の小さな模型店はまだ頑張ってくれている。

駿河屋紺屋町店も狭い店舗面積の中でシタデルも扱ってくれている。


しかしながら。

ホビーショーで、タミヤフェアで、クリスマスフェスタで。

沢山の人にプラモデルを意識させ、では購入は、駅から遠くの店に行くか狭い店に入るかネットでポチって下さい。

これが世界首都のやり方か。

そう歯噛みし続けていたある日。駿河屋が駅近くの元丸井のビルを買収し、自社ビル兼旗艦店とするというニュースが流れた。


涙した。静岡市がイベントをするたびに、補助金出していいからプラモデル屋を開ける街にしてほしいとアンケートを出し続けていた。2010年、実物大ガンダムを誘致するのにバカみたいな予算をとった剛腕をもう一度と願っていた。逆にいうとそういう裏道でもない限り静岡に大きいプラモデル屋ができることはないのだろうと思っていた。

それが覆された。


駿河屋という店に対し思うことは愛憎ともに溢れている。がっつりプレミア分を乗っけた価格で中古の販売をしていること。世の中の多くのグッズに値段をつけてくれていること。通販の発送がふるさと納税と同じくらい遅いこと。清水エスパルスのスポンサーをやってくれていること。地元静岡が誇る企業であるということ。

最近まで、家の一番近くのプラモ取扱店が駿河屋だったこともあり、駿河屋に払った金額は計り知れない。

流石にMGドムの発売日10時30分に行って、中古コーナーにドムが3機定価以上の値段で並んでいた時には思うところもあったがそれはそれである。


旧丸井の1階から3階までを店舗とする、という報道を受け、プラモデルコーナーはどれくらいかなぁと妄想していた。現在近くにある紺屋町店のプラモデルコーナーからしたら、1階分の4分の1くらいあれば御の字かなぁ、それで、今は什器もなく並べられている塗料なんかがもう少し見やすいといいなぁ、などと考えつつ、開店して間もなく、駿河屋本店に向かった。


涙した(二度目)。エスカレーターを上がると目に飛び込むのはうずたかく積まれた新商品の数々。うずたかくといえば「フルヘッヘンド」の単語がターヘル・アナトミアにないと知った時は衝撃でしたね。

閑話休題。

新商品は見やすい場所に並べられ、新品はメーカーごとに分けられて多くの棚を埋め尽くしている。静岡市内で一番新品プラモの在庫数が多いのはコジマ静岡店かと思うが、そこを上回る規模の在庫。レベル、イタレリ、エアフィックスなどまでもがそれ用の棚を用意されている。エアフィックスの赤い箱を静岡で見られるという事に強い感銘を覚えた。この異国の匂いはかつてのレインボーテンのそれだ。秋葉原のイエサブのスケールモデル店にいった時の異国の匂い。あれを中国の匂いとすれば精々中華街くらいの異国ではあるが、静岡にも確かにこの匂いが感じられる空間ができたのだ。

タミヤの棚に目を移せば1/48MMからビッグスケールのプラモまでが棚いっぱいになっている。タミヤの洪水。これからの人生をかけてもこれらすべてを作ることはできないのだろうと思わせる物量の暴力。


ふと後ろを見渡せば膨大な量の中古のプラモデル。

発売直後のものが1.5倍の値段で売られているのをみれば思うところは当然ある。他方、10年前のプラモが定価以上と言われればそらそうか、と腑に落ちたりもする。

個人の善悪の感情などを無視して、ここには中古のプラモが並んでいる。

買いやすいものもある。とんでもないプレミア商品もある。遥か昔のものもある。先週出たばかりのものもある。

ただ、プラモがある。

ここに来れば、プラモがある。

その空間があるということの前に、中古に関して思う事などは些事なのであった。


工具や塗料も溢れている。これまでの静岡市内ならちょっとしたプラモ売り場と同じくらいの売り場面積に工具と塗料が整然と置かれている。

何だったんだ駿河屋。以前の店舗の、塗料が6個1パックのケースで入荷したそのまま適当に並べてある陳列方法は。


模型の世界首都という言葉を聞くたびに、行政がプラモデルを訴えるたびに、薄ら寒い思いをしていた。

でもそれここで買えないじゃん。

道端にランナーの銅像建てる前にプラモ買わせろよと心の中で呟いてヨドバシでポチる日々だった。


今までの嫉妬にさようなら。

世界首都には駿河屋がある。

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