2005年にゲーム攻略サイトで「正義」を気取っていたら管理人に怒られた話
インターネットには不思議な魔力がある。
パソコンに初めて触れたのは小学校3年生の頃。親のノートパソコンでおもしろフラッシュ倉庫を見たのが始まりだ。
おもしろフラッシュ倉庫とは、Flashを活用したアニメーションをまとめたサイトである。ご存知の方も多いだろう。
今でこそ動画といえばYouTubeだが、当時はYouTubeもサービスが始まったばかりで、動画サイトらしい動画サイトはなかったし、そもそもパソコンで動画を見るという発想自体がなかった。
当時のインターネットの娯楽は、掲示板とチャット。
顔も名前もわからない相手とテキストだけで話すのは楽しい。そこに余計な遠慮は必要ない。
掲示板とチャットに青春を注いだという方も少なくないだろう。
そして、私も漏れなく掲示板とチャットにハマったうちのひとりだ。
インターネット沼の入り口は、ゲーム攻略サイトの掲示板
小学生5年生の頃、初めてパソコンを自由に使えるようになった。
おもしろフラッシュ倉庫は相変わらず見ていたし、いわゆるフラッシュゲームもよく遊んでいた。
ただ、そのように一人で楽しんでいるだけでは、インターネットにハマることは難しいだろう。
インターネットの沼に浸かることになったきっかけは、とあるゲーム攻略サイトとの出会いである。
当時の私は、ニンテンドーゲームキューブの「ソニックアドベンチャー2バトル」というゲームが好きで、よく遊んでいた。
この「ソニックアドベンチャー2バトル」というゲームは本当に神ゲーで、間違いなく人生で5本の指に入るゲームである。
このゲームはいろいろと隠し要素があって、「何か面白いことはないか」とYahoo!(Googleではない)で検索して回っていたところ、あるゲーム攻略サイトを見つけた。
それは、ワッツアップというゲーム攻略サイトである。
※名前はボカしているが、少し調べればわかると思う。
ゲーム攻略サイト「ワッツアップ」
ワッツアップは各ゲームの裏技・攻略情報が集まるサイトで、ユーザーが好きに投稿できるシステムを備えていた。
また、ユーザー同士が交流できるようなコミュニティがあり、各々が好きに掲示板(スレッド)を立てることができる。
スレッドの中には自己紹介のスレッドもあれば、通信相手を募集するスレッド、雑談スレッドもあった。とにかく自由なのである。
ただ、各々がスレッドを立てるとフォーラム内が見づらくなってしまうので、徐々に「自己紹介専用スレ」「通信相手募集専用スレ」など、専用スレッドに統合されていった。
これは運営者が意図したものではなく、ユーザーの自治によるものである。
そのサイトのユーザー層は小学生から中学生がメイン。まだ発展途上のインターネットで小学生か中学生がルールを作り、守っていたと考えると、すごい話だと思う。
おいでよどうぶつの森の発売
少し話を戻すが、おいでよどうぶつの森とはNintendo DSで2005年11月に発売された人気ソフト。通称おい森。
無印・どうぶつの森+・どうぶつの森e+と続くどうぶつの森シリーズの4作目であり、初の携帯機用ソフトであった。
大きな特徴は、Wi-Fiを使った通信プレイ。
今でこそ当たり前なWi-Fiだが、当時はゲーム以外にWi-Fiという言葉を聞かなかったように思う。
おいでよどうぶつの森では、ニンテンドーWi-fiコネクションというサービスを通じて通信プレイをすることができた。
ちなみに私は自宅のネットワークのポート設定か何かがうまくいかず、通信プレイをすることがほぼできなかった。USBコネクタまで買ったのに。
おいでよどうぶつの森が人気すぎてサイトにアクセスできない
おいでよどうぶつの森はとても人気のあったゲームだ。
ゲーム攻略サイト「ワッツアップ」では多数の裏技や攻略方法が投稿され、かなりの盛り上がりを見せていた。
また、おいでよどうぶつの森のフォーラムも大いに盛り上がった。スレッドは乱立されたものの、ほどなくしてユーザーによる自治が機能するにまで至ったのである。
しかし、おいでよどうぶつの森というゲームは人気すぎた。
ワッツアップのフォーラムにユーザーが集まりすぎて、まったくアクセスできなくなってしまったのである。
サーバー周りに詳しくないため、これは憶測になるが、ユーザーが同時にアクセスしすぎて、サーバーに相当な負荷がかかっていたのだと思う。
どれくらいアクセスできないかというと、画面が遷移して5分表示されないことがザラにあり、コミュニケーションなどできない状態だった。
ただ、当時の私はワッツアップ内のスレッドに相当のめり込んでいて、表示されるのかされないのかわからないリロード画面を眺めてばかりいた。
今風に例えるなら、通信制限のかかったスマホでYouTubeを見るような感覚だろうか。もしくは、人気アーティストのチケットが発売された直後のe+を想像した方がわかりやすいかもしれない。
とにかくなかなかアクセスはできないものの、そのサイトは楽しい場なので、繋がるのを待つしかなかったのである。
行き過ぎた自治の始まり
繰り返しになるが、おいでよどうぶつの森は人気すぎた。ワッツアップにアクセスできなくなるほどに。
11歳の私はどうしてもワッツアップに快適にアクセスできる環境を作りたく、考えた結果、ひとつのアイディアが浮かんだ。
「この多すぎるスレッドを何とかすれば、アクセスしやすくなるのでは?」
サーバーが重くてアクセスできないなら、データを減らせばアクセスできるようになるはず。そう考えたのである。
「データが多いくらいでアクセスできなくなるわけはない」、今思うと確かにそうなのだが、当時の自分には本当に知識がなかった。
そこで、フォーラム内にいるユーザーに向けて呼びかけるスレッドを立てたのである。
スレッド名は今でも忘れない。「皆さんの意見を」だ。
呼びかけた内容は、以下のとおり。
「スレッドが乱立しすぎていて、アクセスできなくなっている」
「無駄なスレッドは削除して、アクセスできるようにしよう」
ロジックとしては、こうだ。
①スレッドを削除して、整理する
②スレッドの数が減る
③サイトにアクセスしやすくなる
ちなみにワッツアップはユーザーが他のユーザーが立てたスレッドを削除することはできない。
なら、どのように削除するのか?
削除の方法については、ワッツアップ内のシステムを知る必要があるので、簡単に説明したい。
ワッツアップのポイントシステムと特権
ワッツアップは、ポイントシステムを採用していた。
ワッツアップ内の活動・アクティブさに応じて、ユーザーにポイントが蓄積するようになっており、そのポイントによってランキングされたり、特権が与えられたりするのである。
例えば、裏技や攻略を投稿すると5ポイント、スレッドへの投稿が1ポイントといった形だ。
裏技や攻略には審査制度がなく、ただ投稿するだけでポイントが付与される。
このポイント欲しさに中身のない裏技や攻略を投稿することを「ポイント稼ぎ」と呼ばれていた。子供ながらにモラルの意識があったと言えるだろう。ちなみにポイントを稼ぐのであれば、スレッドで雑談するのが一番早い。
そして、そのポイントが400を超えると、特権が与えられる。
その特権とは、「投稿・スレッドの削除申請権」だ。
削除申請権を持っていると、「この投稿は有益でない」「このスレッドは既出(きしゅつ)だ」と感じると、その投稿やスレッドの削除申請を運営に出すことができる。
ただし、削除申請を出したからといって必ず削除されるわけではなく、実際に削除するかどうかは運営の采配にゆだねられる。
「削除申請権」、今思うと何のメリットもない権利だが、当時の小学生・中学生ユーザーに正義感を焚き付ける上では、抜群の効果があった。
特権を使った自治
「皆さんの意見を」というスレッドを皮切りにして、フォーラム内の自治が始まった。
自己紹介・通信相手募集・物々交換といったスレッドは、既存のまとめスレッドに統合するよう、スレッドを立てたユーザー(スレ主)に案内し、削除申請を出す。
削除申請を出したら、その日の活動状況を「皆さんの意見を」スレッドに報告する。
当然、削除申請をしているだけなので実際に削除されるかどうかは定かではないのだが、正義じみた行為をしているというだけで満足感があった(ような気がする)。
「〇〇売ってくれませんか?」「一緒に通信しましょう!」というタイトルのスレッドが並ぶ中、「皆さんの意見を」というスレッドは変わった雰囲気を持っていた。
そして、その正義活動はエスカレートしていった。
また、「皆さんの意見を」ではタイトルがわかりにくいということで、ある程度活動が進んだところで、「スレッド整理対策本部」のようなスレッドが新たに立ち上げられた。
(新たなスレッドの名前を覚えていないのが本当に悔やまれる)
そのフォーラム内では、スレッドの投稿数が一覧から確認できるようになっていた。
例えば、通常のスレッドは精々100も行けばいい方なのだが、「皆さんの意見を」は800くらいの投稿数があった。
そして、「スレッド整理対策本部」は最終的に3,000くらいにまで投稿数が膨らんだのである。
当然、そのスレッドへの投稿が増えていけば、自然とポイントは増えていくもので、私のアカウントのポイントは1,600くらいまで行ったという記憶がある。
なんとなく「ポイントを持っていると偉い」という感覚があったので、正直私とそのスレッド内のユーザーは天狗になっていた。
一方で、サイトはいつまでも重いままでスレッドの数は減らず、その活動には何の意味もないことが明白であった。
管理者からのアナウンス+スレッドの削除
しばらくスレッドの削除申請活動を続けていたのだが、ひとつの転機が訪れる。
管理者がサイト内のお知らせ欄に、「スレッドの数を減らそうという動きがあるようですが、スレッドを減らしてもアクセスしやすくなることはありません。」と掲載したのだ。
そして、ほどなくして「スレッド整理対策本部」は管理者によって消されてしまったのである。
居場所を失った我々はパニックになり、以前の「皆さんの意見を」スレッドに集まり、「なぜ消されてしまったのか」を話し合った。
結局、どういう経緯で消されたのかはわからなかったが、内内では「スレッド整理対策本部そのものに削除申請が出されていたのでは」という結論になった。何とも皮肉な話である。
今考えると、その「スレッド整理対策本部」の活動は何の役にも立たないどころか、ユーザーのアクティビティを下げるものであり、良くない活動だったように思う。
自分達でできないことをしようとして、結果として他のユーザーに迷惑をかけてしまった。行き過ぎた自治と言えるだろう。
結局、「皆さんの意見を」から始まったスレッド整理対策本部は解散し、私はそれを機にワッツアップから離れることになった。
ふと思い出したが、最後の方は「ポイント稼ぎ」「荒らし」としてリストされていた。
返す言葉もない。
そして、新しい居場所を見つけた
ワッツアップからは離れることになったが、以前としてインターネットは心地よい場所だった。
そして、私は新しい居場所を見つけたのである。
サイトの名は「まったり楽しむおいでよどうぶつの森」。おいでよどうぶつの森の攻略サイトだ。
そのサイトには、「もりチャット」というユーザー間で交流できるチャットが用意されており、そこもまた楽しい場所であった。
現在はそのサイトもなくなってしまったが、確かに存在したという証拠があったので、スクリーンショットを貼っておく。
※まったり楽しむどうぶつの森となっているが、「まったり楽しむおいでよどうぶつの森」が正しい名称だったと思う。指が覚えている。
そのサイトの話は、またいつか書きたいと思う。
まとめ
ワッツアップでの活動から学んだことは、「意志にかかわらず、行き過ぎた自治はコミュニティの治安を悪化させる」ということだ。
ユーザーが管理者に意見を寄せるのは別に構わないが、ユーザーが自治を行おうとしてもうまくいかないケースが多い。権限があまりにも限られているからだ。
プラットフォームの治安は管理者が調整する。調整が効かないプラットフォームは生き残れずに終わる。
ユーザーが作るべきは文化であり、コミュニティの制度ではない。
プラットフォームを利用する際は、プラットフォームと共存していくという、マナーとモラルが必要なのかもしれない。
長くなりましたが、最後まで読んでいただきありがとうございました。
インターネットは楽しいですね!