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We're in December








 いつの間にか、夏は雪になる。

 金木犀が地面に落ちて、綺麗なオレンジのカーペットを創ると、雲が落ちてくる。

 霜が地表を覆い、樹々は眠りについて、星が冴えてくる。

 それは小さくて、ぎゅっと結晶した、神様の祈りだ。

 そして、私達は、

 この季節を迎えるんだ。







「佳生、この窓にキャンディーを入れるの?」

「そうだよ、南弦」佳生は水色の透明なキャンディーを綺麗な指で持ちながら、微笑んで言った。「これをこうやって」

 そしてそれを、クッキーでつくった家の一部の、ひとつの窓の上にそっと置いた。

 赤、ブルー、色々な色のキャンディーをクッキーの窓の上に置く。そして焼き上げると、それはそれぞれのカラーの、透明な窓になる。

「すっごく綺麗」
 私は言い、佳生と微笑んだ。


 明日はクリスマスだ。

 街は飾られ、家の中にもツリーが。
 私の部屋の中のクローゼットにも、クリスマスプレゼントがある。
 小さい頃みたいだなあ。


 私は私の部屋だった部屋の、ロフトに登って、ベッドに横たわった。
 天窓の空は青くて、グレーの影をお腹に飾りつけた雲が流れてゆく。

 私はそっと眼を閉じた。
 そして、サンタさんを想いながら、睡りに落ちて行った。



「わーごめん佳生」私は慌てて階段を降り、キッチンの佳生に言った。

「いいんだよ」佳生は言って、微笑んだ。ローステッドポテトをローズマリーの枝とベイクドヴェジタブルでぐるっと囲んだものや、ソイミートのローストチキンや、ガーリックブレッド、いろんなものがテーブルを取り巻いている。


「お母さんは出かけたの?」

「ああ、クリスマス・イヴ礼拝に行ったよ」佳生は言った。

「佳生は洗礼を受けないの?」

 佳生は、ちょっと考えてから、優しく言った。

「何回か考えたことはあるんだ。でも僕は、もう宗教団体に所属する時代じゃないと、個人的には思っているんだ」

「そっか」私は言った。

「他の人がどのような信仰をしていてもいいと思うんだ。自由だしね。母の事も尊敬しているし。でも、僕の在り方とは違うんだ」

 私は頷き、テーブルに着いた。佳生はキャンドルを灯し、私達はお互いを見て、無邪気にプレートに、料理を取り分けた。




「久々に佳生の部屋に行っていい?」
 私が言うと、「もちろんいいよ」と言い、グリューワインを手に持ちながら2人で佳生の部屋に行った。


「幼い頃みたい」

 私達は、天窓の下のロフトのベッドにねころんだ。

「本当だね」

 佳生は言った。

「ねえ、南弦」

「何?」

「来年からどうするの? 就職、決まったでしょ?」

「うん。家を出るよ」

「なら、一緒に暮らそう」

「佳生も家を出るの?」
 私は飛び起きた。

「ああ」

「また佳生とくらせるの?」
 私達の親は、別の相手と離婚した後、お互いと再婚して、また別れた。
 私達は、魂の双子だった。

「ああ。やっと」

 私達は抱き合った。私は涙を流した。
 佳生も、ぎゅっと私を抱きしめた。

 私は言葉が無かった。


 雪が降ってきた。もし積もったら、外へ出て、スノウマンをつくろう。
 シチューに使う小さなにんじんを、鼻にするんだ。


 束の間、睡っていた。


 ふと起き上がり、深く睡った佳生を置いて、ベッドを出る。

 明るい夜の薄光りに照らされた、美しい寝顔。ギリシャの彫刻家が大理石で彫り上げた天使みたいだ。


 自分の部屋へ行き、プレゼントをクローゼットから出し、1階に降りて、ツリーの下に、それを置く。


 ティーを飲もうと、キッチンに行こうとすると、テーブルの上に、プレゼントが置いてあるのをみつけた。


 私の名前の書かれたカードがさしてある。


 すごく静かな夜。
 思わずプレゼントを解いた。


 私の大好きな、コクトーの本。ペン画で緻密に描かれたばらの画。そして……


 小さな、小さな箱。サファイアのリング。
 夜明け前の青い空気みたい。

 小さい頃夢見た全てが、そこにあった。

 あんなに泣いていた子供が、幸せになるんだ。


 佳生の部屋に戻って、間隔を空けて、再び睡った。


 夢が叶うのって、どんな気分だろう。

 佳生と海外の海を歩く夢を視た。
 つるつるした石をひろう。

 空がすごく広くて、どんどん雲が流れていく。

 何度か目覚める度、佳生に何か言おうとする。言おうとする度、睡りが波の様に意識の上をすべる。

 でも、きっと。

 明日以降になれば、その夢は叶うんだ。






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