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乳腺炎③

いや、大丈夫だろう

処置はよくわからず進んでいった。
とにかく痛いのを我慢するだけだった。

帝王切開の方がマシじゃないか、だって手術中は痛くないのだから。

ぐっと我慢していた、手も強く握っていた、涙がどんどん溢れてくる。

手を握っていた看護師さんが見かねて先生に言った

「先生、麻酔、追加されますか?」

心の中で「よく言ってくれた」と思っていた。
お願いだから、麻酔を追加してください、早く、もう痛すぎて意識とびそうです…

私の顔をちらりと見た先生が言った

「いや、大丈夫だろう」

は!?何が!?この状況の何を以って大丈夫なの!?
こんなに全身に力が入っているのに!?こんなにも泣いているのに!?
声を出して泣かないのは、いい大人が、と思われたくないちょっとした見栄だよ!
本当は声を上げて、わんわん泣きたいのに!!!

看護師さんの提案と、私の涙の訴えは散った。


痛かったね

処置が終わって点滴をしたまま横になっている。
息子は寝ていたので、私の横に転がしてもらった。

看護師さんが来た。

「痛みはどう?点滴に抗生剤と痛み止めいれてるけど、効いてきたかな?」
「いや、全くです、さっきごめんなさい、痛くなかったですか?」

私がこれでもかと手を握りしめた看護師さんだった。

「いちざきさんの方が痛いに決まってるでしょ!」


2週間

切開から2週間、毎日付け替えに来るよう指示があったため、実家ではなく自宅に戻った。
実質、3週間の里帰りが終了した。

毎日病院に通い、メスを入れたときと同じくらい痛いガーゼの付け替えを麻酔無しでおこなった。

膿が少しずつ減ってきて、抗生剤が終わり母乳も再開された。

通院中に息子の1か月検診があり、体重の増えが思わしくないと指摘された。
すると先生が、分厚い本を出してきた。
赤ちゃんが載っている本だ、ペラペラとページをめくって開かれたページにある名前が載っていた。


舌小帯短縮症

舌と下顎がつながっている舌小帯が、短いことで、舌がうまく動かない、よって母乳を飲むのが下手なのかも、ということだった。

「先週、乳腺炎になって切開したんです」
「なるほど、それは痛かったね。今日舌小帯切ってあげるから、飲みが良くなると思うよ」

こうして乳腺炎になった原因の一つが(たぶん)解消された。
現に、体重の増えは少し良くなり、それ以来乳腺炎にはなっていない。


お腹痛い

タクシーで通院することも可能だったが、息子がいるのでチャイルドシートがないタクシーに乗るのはどうしてもいやだった。
タクシーは良しとされているのだが。

何より旦那さまが嫌がった、それなら僕が送り迎えをする、と。

処置が終わって旦那さまが待ってくれている車に戻ると、旦那さまは焦っていた。

「どしたん?」
「いや、お腹痛い」

ああ、すぐそこのコンビニ寄っていいよ、と言っていると

「うー…お腹痛いー代わってー」

と言うのだ。
代わって?私とお腹痛いのを代わって、だと?

「麻酔効いてないまま、おっぱいにメス入れられて、膿が出やすくなるように傷口をピンセットみたいなので突かれる痛みと代わるの?」

と聞いた。

「ごめんなさい!!!!!」

コンビニの駐車場に車を停めた旦那さまは、飛び出してトイレへ走っていった。


脅しすぎた。

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