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おうちかえるー

食事や生活リズム・パターンにこだわりを持つ彼が、いぶきに通所を始めたばかりの頃のお話。
強いこだわりがあった彼は、当時いぶきが実施していた宿泊体験にも参加できませんでした。

宿泊が中止になり、急遽お迎えにくることになったお母さん。「みんな帰っちゃうからねぇ。自分だけ帰らないのはわかんないよね。よくがんばったね。一緒に帰ろう」といつでも彼のことを励ましながら温かく受け止めていました。

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そんなお母さんが急遽入院することに。

突然始まったショートステイ。今度ばかりはどれだけ帰りたくなっても帰ることができません。お迎えに来てくれるはずのお母さんは入院中。
彼がどれだけそのことを理解できていたのかは分かりません。

平日はお泊まり、休日は自宅。そんな新しいリズムができても彼はとても不安でした。ご家族の都合で急に帰省がなくなってしまうこともあったので。職員が「今週はお泊まりです」と伝えに行っていると、いつしか彼はその職員の顔を見るだけで不安を感じ、パニックになるようになっていました。


そして、そんな『辛い』生活は、お母さんがお亡くなりになることでさらに加速しました。

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「おかーさーん、おうちかえるー、おかーさーん!」
そう叫びながら激しくパニックになる彼と、それに応じる職員と、そのどちらにも辛い、でも堪えなければならない時間が始まりました。

これは、まだ彼が20歳の頃の出来事でした。それまで当たり前にできていたこと、それまで当たり前に隣にいてくれたお母さん、それらを突然に失う現実。ここから彼は、それらを時間をかけて少しずつ少しずつ受け止め、新しい生活を作っていきました。


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