『ESORA』の感想

『ESORA』観劇してきました。感想をTwitterに書くと長くなるので、ここに吐き出そうと思います。1回しか見れなかったのに、妙に残るものがありました。ちょっと文字にして落ち着こうと思います。


なんとかしようとする人と、それを眺めている世界A


その近くで、静かに本屋を営む男「バートン」。
花売りの女「ソフィア」との出会いは、彼の止まった時間を、ゆっくりと動かしていく。
男と女、海賊と村人、愛と憎しみ、笑いと涙で繰り広げられる、運命の数日間。
―なんとかしようとするのを、世界は許している。

(ESORAのパンフレットより抜粋)


上記がこの作品のあらすじというか、テーマのようなものなのだと思うが、この最後の「なんとかしようとするのを、世界は許している。」という一文。この一文から、作品の持つメッセージがありありと浮かんでくるように感じた。

ESORAには色々な登場人物が出てきて、それぞれが色々な希望や理想や願いを胸に抱きながら生きていた。

あるものは、自由を求めて

あるものは、平穏を欲して

あるものは、カッコいい将来を夢見て

あるものは、欲を満たすことを求めて

あるものは、罪を償おうとして

あるものは秩序を守ろうとして

あるものは、世界を変えようとして

それら全ての想いを、そしてそのために何かを成そうとする行動を、世界は許している。この物語は、そういうメッセージを形にしようと描かれ、演じられていたのだと思う。

それはつまり、バートンが愛する人を救おうとすることもそうだし、ギリアムたち海賊が自分らしく生きて行くこともそうだし、リドリーがいかなる方法を使っても世界を変えようとすることだって、なにもかも全てを、世界は許しているのだ。

ここで重要なのは、人が「なんとかしようとすること」を世界は許しているというだけで、世界が「なんとかしてくれる」というわけではない、ということだ。

現にあの作品でも、なんとかしようとする人々の前で、世界は非情だった。 全然なんとかならないことは幾らでもあった。

バートンは結局死んじゃうし、キャスリンは足を失くしちゃうし、ブライアンは視力を失うし、海賊もみんな死んじゃうし、ウディもガイも死んじゃうし、リドリーだって結局どうなったかよくわかんないし、ソフィアも自由な生き方を出来ているのかわからない。

そう考えると、けっこう辛い終わり方だなぁと、正直感じる。世界はあまりにも大きくて、いちいち全員の願いを助けてはくれない、そんな真理をありありと感じる。それはなんて憎たらしい世界なんだろうとも思うし、なんて懐の深い世界なんだろうとも思える。

『ESORA』を見ている最中、きっと観客は色んな倫理観を頭に浮かべたはずだろうと思う。「この海賊はなんてひどいんだ」「自分の父親を殺した人を許すとは、なんて素晴らしいことだ」「世界を変えるために、小さな世界を壊すことは間違っている」こんな風に色々な倫理観を、各個人が頭に浮かべ、その答えを求めようとしたのではないだろうか。それは全然間違ったことではないし、僕もそんな感想を酒を酌み交わしながら夜通し語り合いたい。

でも世界はそういう、人が決めた倫理観とか、正義とか、そういったものを全て抱きしめて(あるいは全て無視をして)、ただそこに存在し続ける。僕らがどれだけ語り合っても、その成り立ちは変わらないだろうと思う。

それは本当に救いが無い話だけど、見方によっては希望に溢れた話だ。この矛盾性というか、どうにもならなさというか、そういうものが、この『ESORA』という演劇を根底から支えるテーマなのではないか。あぁなんて手に負えないテーマなんだろう。考えていると、なんだか自分が縮こまっていくように感じる。

でもそんなテーマだからこそ、バートンが最後に、自分の命と花を散らしながら、空に絵を描いたシーンでは、胸を打つものがあった。

あれはバートンなりに、どうにもならない世界に対して「してやった」という気持ちなんだろう。絵空ごとを形にして、世界に自分の想いを描いた。その瞬間バートンは初めて、世界を前にして対等に笑えたのではないかと思う。あのシーンは僕にとって、とても希望に溢れるものだったし、大きなカタルシスを感じる瞬間だった。


というように、ここまでつらつらと書いてきたけれども、この『ESORA』をハッピーエンドと捉えるのか、どういう物語として捉えればいいのか、やっぱり僕にはまだよくわからない。それは見た回数が少ないのかもしれないし、僕の人生経験が足りないのかもしれないし、そもそも世界を見る視野が狭いのかもしれない。

でも、この物語を思い返した時、きっとある種のやるせなさと、ぼんやりとした希望を思い出せるはずだと思う。そしてその度に、この『ESORA』という物語を少しずつ理解できるのではないかと期待している。今はその日を楽しみにしていようと思う。



あと最後に書き忘れたので書いておこうと思うのですが、楠田亜衣奈さんはとてもとてもとても素敵でした。輝いてました。惚れ直しました。僕も刺してください、後ろから刺した後、ニッコリ微笑んでください。おねがいします。お疲れさまでした。ありがとうございました。








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