見出し画像

眼の手術 その3

いよいよ手術

手術の1週間前から眼の中の雑菌を殺すための目薬を入れる。
子どもの頃から 右 左がとても苦手で、視力検査や道案内も指差しになってしまう。今でも右ってこっち?って聞いてしまう。ので慎重に。

そして手術当日。
手術する方の目の上にシールを貼られ、瞳孔を開く薬を入れられる。
そのために 眩しく白く見えにくくなってくる視界。もしかしたらこれまでの世界の見え方ともこれでお別れかも と、感慨にふける。

待合室には安楽椅子に座る手術の順番を待つ人たち。6、7人いる。多いな。そしていよいよ手術室へ。青っぽく薄暗く冷んやりしている。天井の大きなライトがいかにも手術室。顔いブルーのシートが被せられ目の部分のみ開けられる。
麻酔も点眼薬。昔は注射針を眼球に刺されるイメージがあって恐怖だったけどそうじゃない。  眩しくて、よく見えない。 メスが近づいてくるのがチラッと見えるというか感じるというか あったけど不思議に恐怖感はない。
小さな切り口(2.数ミリ)から、器具が差し込まれ、「水晶体を砕いて吸引します」の声。 水晶体が何分割かにされるように見えて、すぐゼリーが細かく壊れていくようなものが見えた。
そのゼリーのかけらは、光をいろいろな角度に反射して、その細かい角度の面が異なった透明な色に光って、この世のものとは思えないくらい綺麗。
長い間生きてきたけど、初めて見る色彩の光がゼリーの万華鏡のように動いている。水晶体を粉砕するなんて初めてだから、今まで見たこともないというのも当然。ドラッグとかの幻影ってこんなのだろうか。虹を細かい欠片にしてグニョグニョにして動かしているような感じ。
いつまでも見ていたいぐらいうっとりする映像だった。
でもすぐにその美しいゼリーは吸引されてしまう。
眼の手術といえば今でもこの映像を思い出す。

「はい、レンズを挿入します」
小さな切り口から 丸められた?折りたたまれた?(見てないからわからない)が入れられて、眼の中で勝手に開いていく感触がわかる。
ドクターが1回だけちょっと目を軽く押さえた。位置直し?

眼の表面を洗い流されたり、覆われていたシートをはがされたりして、あれよあれよで 「はい、終わりましたよー」
あっという間に終了。 親知らずを抜いた時も一瞬だったなあ。
痛みはなかった。

手術室から歩いて別室に移動。
そこで看護士さんから術後の注意事項の説明があり、はい、お疲れ様ーで終わり。しばらくは座って休憩するのかと思っていた。
眼帯もなく、保護用のゴーグルのみ。このゴーグルは、今でもDYIや掃除などに活用している。

直後は瞳孔を広げる薬の影響もあり、ぼやっとしている。徐々に見えてくるのであるが、電灯の光が観覧車のような形に光って見える。大丈夫かなあ。
ゴーグルをつけたまま寝る。でも寝ぼけて手で払いのけないか心配でぐっすり眠れない。

当日は入浴もせず。翌日からは、顔から下は お風呂にはいったりできるが、洗顔洗髪はしばらくできない。なのでヘアサロンで洗髪だけしてもらった。極楽極楽。

あとは滅菌のための目薬をさし忘れない、眼を触らない、水などが入らないようにする などに気をつけるだけ。

一週間後に反対の眼。

2回目は気持ち的には余裕。
でも2回目は、
ドクターの「はい、左見て」の指示に、反対側に眼を動かして「ちがう、それ反対」って緊迫した声で怒られる。あと「あっ」というドクターの小さな声がものすごーく気になった。大丈夫だったかなあ。
あとで聞いたら その日は何十人も手術したから覚えていないということだった。

次の日の見え方。
おおー。よく見える。
クリアに見える。よかった。
ベッドから見える天井板の節とトイレ壁の漆喰の押しピンの穴を見ては検査代わりにする。毎朝、今日も見えて良かったと感じる日々。それは今でも。

その後

これで眼圧を下げる薬もささなくてよくなったのだが、
驚いたことに、この薬にはまつ毛を濃くする働きがあるのだ。
数ヶ月さしていたためにまつ毛がくっきりと濃くなっていた。目がぱっちりはっきりするので 少し嬉しかった。マスカラ不要になる。そのために、この成分が入った美容液が売っているらしい。まつ毛が濃くなるとはいえ眼圧などに影響があったら怖いのになあ。
この薬を使わなくなったら数日でうっすいまつげに戻った。ちょっと寂しい。

その後見え方は最初の頃は少し不安定であったが、概ね良好。左目は裸眼で1.2〜1.5でよく見える。術後初めて電車に乗った時 車内の広告が細かい字まで全部読めて感動した。右眼の視力が0.3であまり良くなっていないと思ったが、近くが右眼でよく見えるようになった。
左の焦点が少し遠めで右が少し近くというふうに、少しずれているようだ。わざとそうしてよく見える範囲を広げるモノビジョン法とかいうのが以前はあったらしいが、今回の場合そうではなくたまたまそうなったみたい。ドクターにいうと「よかったんじゃないですか、遠くも近くも見えて」

ひどい場合は再手術もあるらしいが、リスクもあるし一ヶ月以内にしないとレンズがくっついてしまうらしい。
今のところいい方に転んでいる。近くも遠くもよく見える。メガネなしでいけている。6〜7mあたりがゆらゆら見づらい感じはあるが慣れてきた。
手術して間もない頃は電灯の周りに光の輪が見えるのが気になった。特に夜の運転がしにくかった。
また、下の方を見ようとすると三日月状の黒い影が見えるのが気になった。「陰性異常光視症」Negative Dysphotopsiaと言うらしい。それらのことをドクターに報告したら「若い頃の見え方には戻りません」ときっぱり言われた。そりゃそうだ。

2年経って、脳も今の眼に慣れてきたようで、当初気になったハロも気にならなくなった。中間距離の気持ち悪さも減った。黒い三日月も見えなくなった。体の対応力すごい。
レンズになってから車のバックが苦手になった。見えているのに少し脳がワチャワチャする。(なぜ?)

手術前はっきり見えていなかった隅々の汚れがよく見えるようになり、掃除をしまくるようになった。こんなに汚かったって知らなかった。

人生で一番頑張った今回の手術(の前のジタバタ)。ドクターにうるさい患者とうっとうしがられながらも粘ってよかった。(のかどうか本当のところはわからないけど)
偶然にも助けられて良いように終わってよかった。それからは目をものすごく大切にしている。
手術して2年経過した今でも散歩の時に木の葉を見たり、雲を見たり、本を読んだり、その度に 見えることに感謝している。ほぼ毎日。

最後にまた。以上のことはたまたま私に起こったことで、他の人には当てはまらないと思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?