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ニュータイプ@発達編11

お医者様が言うのなら、そうなのだろう。

正しい情報を父さんが伝えていれば、だが。

これまでも、父さんの友人の奥さんたちと家族ぐるみで会った時に「父さんすごいイクメンなんだよね、うらやましい」なんて異世界転生でもしたかのような返答に困る会話や、「父さんから、母さんってもっとひどい人って聞いてたから、印象と違ってびっくり」と聞かされたこともあるので、可能性はある。

でも、まだ大丈夫。発達検査がある。

「わかりました。同行します。日程調整してください」

発達検査前に事実ベースで診断されているか確認したい。

息子をご実家で預かってもらい、動揺する父さんと久々の対面。

あかん、吐きそうや。マジでこの人と同じ空気吸うんが苦痛や…でも、このおめでたい頭の、都合よく事実を捻じ曲げる奴に負けたくない。やらなあかん。

不安も苦痛も全部腹の中に捩じ込めて、感情が溢れ出さないように、笑顔を貼り付け、診察室へ入った。

一瞬、若い先生の動きが一瞬止まった。

おそらく私が同行することを伝えていなかったのだろう。そんな気の利く人ではない。

「はじめまして。父さんの妻です。先生から主人に、私の診察が必要だと聞きまして、話をお伺いしたく同席させていただきます。どう言った経緯でそんな話が出たのでしょう?」

「ご主人からお話をお伺いしまして…奥様もお疲れかなと…」

「たしかに疲れてますね。私ガンを患って、時折吐き下しがあるのですが『いつものこと』と薬を買いに行くのを拒否され床で動けないのを放置されたり、数日分のスーパーの買い出しをお願いしても『1日分ごとに店内をまわらないといけないから大変だ』とイライラされたり。息子と私が熱を出し子どもを病院へ連れて行く際には、18時の食事のルーティン優先して代わろうしなかったので、『入り口の検温でひっかかったら付き添い代わってもらえますか?』と聞いたら『大丈夫!あそこ検温ないから!』と自信満々で返されたり」

「あ、あの、すみません、初診は30分時間をとりますが、再診は10分だけなので」医師が話を遮る。

「そうなんですね。分かりました。では、先生は先ほどの話はお聞きになられていましたか?」

「え?あ、いえ。ご主人、なぜ奥様が熱があると知っていて食事時間を優先されたのですか?」

「つかれていたからですかね。あまり気がまわらなくて…」と涙目の父さん。

「そうなんですね」と、パソコンに入力する先生。

「先生は主人をASDの特性が弱いと診断されたそうですが、お間違いないですか?」

「えー、いえ、まだ診断は…発達検査後に見えてくることなので」

「そうですか。もしこの人に脳の特性はなく、配慮できるのにしない人であれば即離婚を考えているので、結果が待ち遠しいなぁと。私に受診が必要なほどのメンタルに不調があるとすれば、離婚で解決できると確信してます。で、先生、私の受診はやはり必要ですか?」

「あ、いや、ご自身でコントロールできているようであれば不用かなと」話す先生の手が震えてる。

「そうですか、私もそう思います。9分…では私は先に退出しますね」

えっえっ?っと慌てる父さん。

「私がいるとできない話もあるでしょう?」とニッコリ微笑み立ち上がる。

いや、そんなこと、と言いかけた父さんを無視して、会釈をして扉を閉める。


やるべきことは、やった。

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