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忘却

数ヶ月前に大火傷をして、中指と人差し指の色が赤紫のような色へと変わってしまった。周囲の友達は皆、赤紫色になってしまった指を哀れみ、同情の言葉をかけてくれた。確かにみんなの言う通り、一生付き合っていく体の色が変わったことは非常に重大なことである。それなのに、私は指の色が変わってしまったことを特に何とも思わず、何なら次の日には指のことをすっかり忘れてしまっていた。指が赤紫になっても何も思わないだなんて、忘れてしまうだなんて、私はもっと自分と自分の人生を大切にしたほうがいいのではないかと怖くなった。

私は忘れてしまうことが多すぎる。家族、友人の誕生日や毎月の記念日もすぐに忘れてしまうし、外食に行っても注文したものが来るまでに自分がなにを注文したのかを忘れてしまう。長期休みの間には自分で復習をしないと友達の顔と呼び方を忘れてしまう。何で大切なことをこんなにも簡単に忘れることができるのだろう。本当は全部どうでもいいのかもしれないな。全部どうでもいい、だったらいいのになと思うし、全部どうでもいい、だったら嫌だなとも思う。

このことは忘れたいよ。だけどあのことは忘れたくないな。忘れたいとかどうでもいいとか、自分では選べないんだと思う。でも、そういうのは全部運命だから、という言葉に身を任せるのは流石に無責任すぎるか。私、こんな態度だから全部忘れてしまうのかな。

真っ白な走馬灯じゃなくって、ヘンテコな走馬灯が見たいんだ私。だから、全部どうでも良くないね。もう何も忘れたくないよ。何も無くしたくないよ。

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