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仄暗き世界に残されたもの

 『ラーゲリより愛を込めて』
二宮和也さんが主演を務めた、第二次世界大戦を舞台にした映画だ。
 シベリアの強制収容所(ラーゲリ)には、様々な苦痛と苦悩が満ちていた。理不尽に溢れていた。そんな中で憚ることなく、主人公は「希望」を口にする。「最後は道義だ」と言う。
 道義を辞書で引けば、「人の行うべき正しい道」といったことが書かれている。人とは何か。正しい道とは何か。哲学や宗教において、遥か昔より議論され、説かれてきたのは何のためであったのか。そんな疑問すら浮かぶ仄暗い世界に生きている気がしてしまうのは何故だろう。
 物価の乱高下に悲嘆に暮れ、株価の変動に一喜一憂し、有名人のスキャンダルに沸き立ち、SNSで平然と誰かを傷付け傷付けられ、他国の戦争は他人事で、自国の災害は嘆くだけで、将来に漠然と不安を抱き、それでも自分だけはと妄信している。
 
 どこに人の道があるのか。どこに希望を見い出せばいいというのか。
 
 それでも主人公は言うのだ。「生きろ」と。
生きているということ。大切な誰かと会えるということ。話せるということ。触れられるということ。
 もしかしたら、「生きていること」こそが、「希望」であり「道義」なのかもしれない。
 一人一人が生きる。たとえ仄暗き世界だとしても。
 それはあたかも、パンドラの箱の底に残った「希望」を護るのが「道義」であると示唆するかのように。
 そして、そこから見上げれば、きっと主人公が見たのと同じくらいの、高くて青い空が広がっているのだと。

#映画にまつわる思い出

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