チカンで知った現実 その2

駅員室に入ると席に通され壁に向かって座る。
すると後ろでは「お前はこっちに来い」と言って痴漢野郎を連れてる駅員さんだか警察だかの声がする。私と顔を合わせない配慮だと思う。

私の前に警察官がやってきて座ると、簡単な事情聴取をしますねーと手慣れた感じで話し出す。

『電車の中で移動してるときに触られたの?』『どこ駅で乗ってからずっと?』などと話し出したと思ったら『パンツの中?触ったのはどこ?手で?』と、突然予想していなかった質問をされて心臓が跳ね上がる。

(そりゃあ触られた証明しないといけないよね…でもこの人にそんなに細かい事まで声に出して言うの恥ずかしいんだけど)

高校生の私はそんな事を思うとうつむいてしまい、スカートの上からだけですと答えるのが精一杯だった。
『スカートの上ね。めくったりもないのね。』

自分で言ったあと「もしかしてスカートの上から触られた事くらいでイチイチ痴漢報告するのって非常識なのかもしれない。パンツの中とかもっと酷いことされないと「痴漢被害」と言ってはいけないのかもしれない。そんな事を思った。
そう思うと、警察の人も呆れてるのかもしれない。面倒な女の子が来たとかヒソヒソ言われてるのかな…などとも思ってしまった。

そんな事を考えていると『で、どうしますか。警察に突き出して裁判しますか?』と言われて。当時の私は無知すぎてチカンで裁判するとは想像もしておらず、うつむいたまま困ってしまった。
すると警察官が『裁判で触ったやつを犯罪者にして刑務所に入れる事ができる。でもその中で君はどこを触られたか、どうされたのか、すべて話さないとならない。住所も学校も家族も全て話す必要があるし、ニュースになれば今の学校のみんなにも近所の人にもみんなにあなたが痴漢にこんな事されましたよって伝わることになるけどそれでも良い?良いなら裁判出来るけど、どうする?』と。

結局私は相手を咎めず家に帰った。
帰り道、悲しさと虚しさと恥ずかしさと恐ろしさと、言われもない感情だった。だから私はすぐに笑い話にした。家族にも友達にも。

①で書いたように、私はルックスもスタイルも良くない。痴漢を捕まえて周りに声かけた時周りは「あいつが痴漢されるなんて嘘だろ?(笑)」とでも思っていたんじゃないかなと感じた。
そして触られたのもスカートの上から(本人曰く初犯だそう)。警察も私の目には「こんな事で?どうせ裁判しないでしょ?面倒だな」と写った。
もしも被害にあったと世間に知られたら、ヒソヒソ噂されたり私の写真が出たら「思い込みだろwww」なんてネットで笑われたり噂が大きくなったり、その他にも逆恨みで命の危険があったり引っ越さないといけなかったり…と様々な気持ちが入り乱れた。

ちなみに私のチカン体験のもう一つは、電車のドア横に立っていたら全然混んでないのに一人の男性に囲まれて(両手で三角に壁ドンみたいな感じ)ずっと下半身を押し付けられて。多分股間がピクピク動いてて気持ち悪くて鞄使って壁にしたけどずーっと息荒く押し付けてくるから、あれ?周り空いてじゃん!と気付いてすぐ関係ない駅で降りた、というチカンなのかなんなのかわかりにくいタイプ。


世の中には色んな人が居る。
昔の職場に『俺、よく痴漢するんだけどさー…』と話してるごく普通の見た目の男性が居て、女性に睨まれ手を叩かれた事をニヤニヤ周りに話していた。本当かどうかはわからないけど、男性にとってチカンはそんな感覚なの?と思った。


チカンなんて捕まえるものじゃない。
男性の中でも一人ひとり『痴漢』や『性犯罪』についての考え方が全く違う。
さらに言えば女性の中でも考え方の差は大きい。
不快なことをされたんだと周りにわかってもらう事に対する代償が、私には大きすぎて耐えられず逃げてしまった。
これももちろん人によるのだとは思う。

私なんかが正義を主張したらいけない。もっと辛い人がいる。主張するともっと傷付くかもしれない。だったら面白い話にして我慢したほうがいい。
お笑い芸人が「幼少期にイジメられていた」なんて話でもこんな事あったりする。

『最小限の傷にしたい』という精一杯の防御。
笑って話せば腫れ物扱いされないと思う防御。

大物芸人の性犯罪の話が世間を賑わしているけど、女性が全員お金のために身体を犠牲にしたいわけでもなければ身体を一番の武器にしてる人もいるし、男性だって女性を見たら性行為を考える人も居ればそうじゃない人も居る。
今回の出来事は私のチカンとは全然違うけど、もしも裁判したり学校の噂になってたらこんな事言われてたのかもしれないな…と世間の言葉を目にして思った。

笑い話に昇華したつもりだったし何十年も前のことだけど、どこかでやっぱりくすぶってる出来事なんだなーって思う。

でもね、
ちかんはあかん。よ。

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