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倫理的利己主義

倫理的利己主義、あるいはエゴイズム (Egoism) は帰結主義の一つである。エゴイズムという言葉から、自分勝手な印象を受ける人もいるかもしれない。実際、倫理的利己主義は「帰結における自己の利益の最大化を図るように行為せよ」、という命題によって特徴づけることができる。つまり、倫理的利己主義の立場からは、自分の利益を最大化するような行動が是とされるのである。

このような考え方は、経済学で想定される人間に反映されているといえる。経済学で想定される「経済人」は、経済的合理性のみに基づいて個人主義的に行動すると仮定されており、例えばアダム・スミスは経済システムにおいて人々が自己利益の探求を要求することを受け入れ、市場における「見えざる手」が機能することで社会にとって道徳的に望ましい結果がもたらされると述べている。また、企業の社会的責任の議論において取り上げたフリードマンの議論もまた、倫理的利己主義的な考え方を反映しているといえる。つまり、企業は株主の利益を最大化するようビジネスを行わなければならないと彼が主張したのは、株主が自己利益を最大化するために企業に投資をするからであって、その期待に応える責任を企業は負っている、という論理が背景にあった。つまり、フリードマンの議論においては経済人が想定されており、そのような人として振舞うことが是とされているのである。このように倫理的利己主義においてある行動が正しいと言えるのは、意思決定者が自己の願望や利益を探求する上で自由な意思決定ができる場合である。

倫理的利己主義は自由な社会を前提として、個人が自己利益の追求をすることが社会全体の幸福につながることを主張している。この意味で、個人の行動とその結果を尊重する姿勢に対しては評価すべき点があると言える。一方、倫理的利己主義は、個人が利己的にふるまう、という事実から、個人が利己的にふるまうべき、という当為を導き出してしまっていることが大きな問題であると言える (梅津, 2002)。

Reference

梅津光弘 (2002) 「ビジネスの倫理学」丸善出版.

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