顔自動販売機　(毎週ショートショートnote)

仕事で失敗続きの5日間を終え、迎えた週末。
無性に自然を感じたくなり、私は山へ登っていた。

梅雨入り前とは思えない暑さで、水筒はとっくに空。
看板によれば、山頂まであと数100メートル、この近くに滝があるという。
せっかくだしと登山道を逸れて歩き始めると、私より大きな四角い箱が見えた。

「やった！」と心の中で叫んで駆け寄ると、それは見覚えのあるものとは少し違った。
ボトルのラベルは、どれも人の顔。味の表記はなく、顔からイメージされる味だという。

よく見ると、憧れの女優さんの顔がある。変な自動販売機とはいえ、彼女の顔ならとボタンを押した。

一口含むと、スッキリとした炭酸水だった。
一気に飲み干し、登山道へ戻ろうとしたときだった。

「すみません。CM撮影にご協力いただけませんか？
　静止画と動画が同時に必要で、貴方が今のままでいられる数分間でも問題なくできそうかなと…。」

少し遠くに、ラベルと同じ顔があった。
そして、目の前に出された鏡にもう一つ同じ顔が映った。

来週からも、頑張れそうだ。

(435字)

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たらはかにさんの企画、毎週ショートショートnote のお題で書いてみました。

推しという表現が正しいのかよくわかりませんが…。
半生を振り返ると、そんな存在がいるときの方が励みとなるのか
何かと色々頑張れているように思います。