我が子を殺しかけた話
誇張したタイトルを不快に思う方もいるかもしれませんが、私にとってはそれくらい大きな出来事でした。
双子が4ヶ月のある日、皮膚が荒れていたので、予約をして病院に行きました。
徒歩で10分くらいのところにある、夜間もやってる病院です。
夫と2人、それぞれ抱っこひもで1人ずつ抱っこしていきました。
その日は、今日のような雨の日で、すっかり暗くなっていました。
雨は止んでいましたが、念のためそれぞれ1本ずつ傘を持っていきました。
子ども達は入浴を済ませていたので『病院の往復の間に寝てくれたらいいな』という気持ちで多少縦揺れしながら歩いていました。
あとワンブロック歩いたら病院、というところで私は、濡れたマンホールの上で足を滑らせました。
そして前に倒れたのです。
転ぶ時なんて、ほんの一瞬の出来事です。
転ぶことなんて想定してませんから、どうしたら良いかわかりません。
ましてや、片手に診察券の入ったハンドバッグ、もう片手には傘を持っていて、身体は真っ直ぐ前に倒れていくだけなのですから。
気づいた時には、私は、左の手のひらと右の膝を怪我していました。そして、前に抱えた大切な大切な娘は、私の胸の下で、真っ暗闇の中、濡れたコンクリートに後頭部を打ちつけていました。
慌てる、という言葉では表現しきれないほどの動揺と、娘に対する申し訳なさと、不安と、恐怖に襲われました。
この時のことを夫は『急に隣からいなくなって驚いた、心臓がひっくり返りそうなほど驚いた』と言っていました。
そして、走って病院へ向かおうとする私を夫は『走ったらまた危ないから、落ち着いて』と鎮めてくれました。
私に押し潰され、頭を打ちつけた娘は、私が立ち上がった直後こそ泣いたものの、その後はぼーっとしており、言葉を発することも泣き続けることもなく、暗闇の中で顔色や傷の具合も分かりませんでした。目は開いているものの、視点は定まらず、生きているのか死んでいるのかもその時は判断できなかったのです。
私は、早まる足を夫に止められ、泣きもしない娘に泣きながらひたすらに謝り、再び転ばないように気をつけながらも少しでも早く病院に到着するよう急ぎました。
病院に到着し、明るいところですぐに娘が生きていることを確認できると安心する一方で、何かあるのではないかと不安で、とにかく手が震え涙と謝罪の言葉が止まりませんでした。
後頭部には数カ所擦り傷ができていました。
問診票に、皮膚のことと、頭をぶつけたので診てほしい、と書きました。
もともと予約をしていたため、まもなく診察室へ通され、双子をベッドへ寝かせました。
普段だったら寝かしつける時間だったこともあり、2人ともすぐに寝てしまいましたが、この時ばかりは、頭をぶつけた娘が泣いていないことさえ不安でした。
医師が来て、診察を受けました。
結果、特に異常はなさそうとのことで、検査もありませんでした。
しかしとても丁寧な先生で、今後また同じようなことがあったときのアドバイスと、もしもことあと時間が経ってから吐くようなら救急の病院へ行くように、と指示されました。
帰り道は、とても怖かった。
また滑るんじゃないか、また転ぶんじゃないか、また子どもを傷つけてしまうんじゃないかと。
ちょっと違えていたら、本当に子どもを押し潰してしまっていたかもしれない。
頭を強く打ちつけて、死んでしまっていたかもしれない。
…と考えていた。
そういえば、もともとよく道でつまずく人間だったなぁと思い出したりした。
そして、そんなことを考えながら歩かずに、しっかり足元を見て滑らないように歩くのが、今の私の仕事なんだぞ、とふと我に返ったりした。
家に帰ってきて、2人を布団へ横にすると、とたんに良く泣いた。
病院に緊張してただけだったんだな、とほっとした。いつもの2人の姿であることに、心からほっとした。
お腹いっぱいになるまで授乳して、娘は寝た。
今回はたまたま、行き先が病院だったから良かったけど。
たまたま軽症ですんだけど。
これが抱っこひもを使っていなかったらどうなっていたことだろう。
私は、娘を殺していたかもしれない。
『助産師、生後4ヶ月の我が子を転倒し死亡させる』『押し潰し殺害』『虐待か』
なんて見出しの新聞記事が出ていたかもしれない。
夫はその後も私を責めずにいてくれた。
でも、病院に着いたとき、普段大して汗をかかない夫の額がびっしょりになっていたことを私は知っている。
今のところ、娘は元気だ。
しかし、本当に、心から反省した。
自分で大して動けないうちの子どもを傷つけることがあるとすれば、それは全て大人の不注意だ。
安全に生かすこと。
信頼してもらえる大人になること。
当然仕事中もこんなことしたことないのになぁ…と思いつつ、あぁ、人の子どもにそんなことしたら本当に最低なので、想像もしたくないですね。
病院は、作られた安全がある。
一歩外に出ると、街中は段差だらけでバリアフリーなんて程遠いし、暗闇や濡れた夜道、マンホールとかトラップがたくさんある。
つらつらと書きましたが、結果、気をつけましょうということしかできません。
あらゆる危険を想定して、気をつけて生活するしかないです。
自分の不注意で子どもを傷つけてしまった方ってどのくらいいるんでしょうか。
傷つけたことなんてあるわけないじゃん、って方は、本当にすごいんです。心から尊敬します。
こんな当たり前のことしか書けないくせに、娘には本当に申し訳ないことをしました。
本当に本当にごめんなさい。
許さなくていいから、どうか何事もなく生きていてほしいです。
今後、大きくなっても、娘に頭が上がらない気がする出来事でした。
永遠に、忘れません。
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