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「怪奇星キューのすべて」演出後記

いま私はウオーッッ!って叫びながらこれを書いてます。
「怪奇星キューのすべて」の演出後記です。
すでに公演終わってから1週間が立ちかけているので、猛ダッシュで書きます。

本題に入る前に、
ご来場くださった皆さま、支えてくださった皆さま、
そして一緒に作り上げたメンバーたち、
ほんとうにありがとうございました!

まずはじめに

今回のテーマを「恐怖」に絞るにあたって、
大きなきっかけがふたつありました。

ひとつは、参考作品群にも挙げましたが、ジョーダンピール監督の「NOPE」という映画。昨年の8月くらいだったと思いますが僕は公開初日に観に行きまして、度肝を抜かれました。作品の内容についてはここで説明しだすと長くなっちゃうので割愛しますが、ジュラシックパークを最初に見たときのような、「根源的な恐怖」、身体の底が、本能的に「こわい!」となって、でもそれがとても楽しい、そんな映画でした。
監督の前評判もあって宣伝では「ホラー」と謳われていたのですが、ホラーというジャンルではくくれない、とにかく僕には、とてもあたらしいもののように思えたのです。

もう一つは、地底探検の東京公演直後のこと。僕は仕事で九州の河川敷に1週間滞在していました。気球をたくさん飛ばすイベントをやっていて、砂埃がすごくて、たいへんだったのですが、その河川敷にキテレツな形の照明器具があるのを見つけました。
のちに調べてわかったんですが、その照明器具は工事現場用で、4つの車輪がついていて、小さな胴体から空に向かって支柱みたいなのが伸びてて、そのてっぺんに植物の種みたいな、バルーンがついて光っていました。それが何台も砂埃の中置かれていて、月面みたいだなって思ったんです。
こいつを使いたい!舞台上に砂を敷き詰めて、この変な投光器を置いて、劇をやろう!
それならSFだ!SFホラーだ!

そんな感じで、次はホラーにしようという思いがじんわり膨らんでいきました。
とは言っても、南極ゴジラがわざわざ「呪い」とか「殺人鬼」みたいないわゆるTHEホラーみたいな作品をつくっても仕方ないよなという気はしていました。僕らがやっても絶対怖くならないですし。

それに加え、いろんなところに書いてますが、数年前から閉所恐怖症になってしまったりもして(自分の場合は精神的な閉所というか、出られない場所が苦手で、軽く貧血みたいな感じになっちゃいます)自分の中にあるこの恐さは一体どこから来てるんだ?みたいに感じる機会が増えてきてたので、

ホラーというよりも「恐怖」そのものをテーマにした作品にしよう!ということで今回の劇作がはじまりました。

脚本のこと

いつもそうなんですが、今回も企画を立てた時に考えていたストーリーからは結構変わりました。第一幕はお客さんが席を移動しながら見てもらうことが主軸というか、それに沿ってストーリーも進んで行く感じになってますが、席移動をしよう!となったのも実は脚本を書き始めた後で、席移動することに合わせてもう一回話を作り直したりしました。
席移動したらいいじゃない?っていうのは美術監修をしてくれた いとうすずらんさんのアイデアで、最初の美術打ち合わせをしたとき、いとうさんが話の流れで「もう席を移動しちゃうとか・・」みたいなトーンで言ったことを、すごい!やりたい!ってなっちゃったのが、移動のはじまりだった気がします。
舞台監督の奥泉さん、制作の田中くんはじめ、照明の渡邊さん、音響の椎名さんにもすごく大変な思いをさせてしまったのでスタッフ泣かせな演出だったのですが・・、お客さんも楽しんでもらえて、移動式にしてよかった!

移動を含めた舞台美術のメモ書き

移動があって、その中でも緊張が途切れないほど物語が強度を持ってる。しかも自分も一緒に旅をしているように感じる。っていうラインまで作品を持っていくためには、まず世界観を突き詰めて行くことが必要だと感じました。そういう星がまずあって、そこに住人たちがすでにいて、そこにお客さんがやってくるみたいなイメージです。

星の住人たちはSF的にあまり飛ばしすぎずに、俳優本人がもしこの星にいたらこうなるだろうというのを頭に置きながら当て書きしました。客演で出てくれた瀬戸璃子ちゃんに「エレクトリカルパレードってどんな感じの人ですかね?」って聞かれて、普段の璃子ちゃんの状態で、そのとき感じるままにやってくれたらそれがもうエレクトリカルパレードなんだよって答えたのですが、本番を観ていてもめちゃくちゃエレクトリカルパレードで、同時に俳優本人がそこに生きている説得力が出ていたなと感じます。

物語は、運だけがいい“甘電池“と目的のためなら手段を選ばない“森山ボンド“という宇宙飛行士の2人と、砂漠の果てに飛ばされてしまった“UB”というもうひとりの宇宙飛行士、2つの軸で進んでいきます。電池とボンドのパートはとにかくハードボイルドにしたくて、人殺して逃げて追いかけられて、みたいな展開。一方でUBはずっと砂漠を歩き続けて、変な仲間がどんどん増えてサーカス団みたいになっていく、みたいなことをしたかったです。俳優それぞれが演じるキャラクターは先に決まっていたので、宇宙飛行士を演じたユガミ、瀬安、藤井ちゃんを抜きにすると、あと9人の俳優陣(+3人の音楽隊)をどっちパートの、どのタイミングで登場させるか、みたいなことを考える時間がいちばん楽しかったです。

UBチームを焚火・スタイン・ナショナルにすることが先に決まりました。UBを演じたのは客演の藤井優香ちゃん。前回地底探検の時に、演出補佐をしてくれていたのですが、人間性が面白すぎて、今回出てもらうことにしました。UBみたいに物を何でも壊しちゃうみたいなことはないけれど、基本的に器用で何でもできるのに、一部の苦手な分野はパワーで行くぜ、みたいな感じがあって、その苦手なことをやっている時の藤井ちゃんがすごく魅力的で、それを見せたいなと思っていました。UBは、栞里、和久井、えむさんの順番に出会っていくのですが、3人は南極ゴジラの中でも超南極ゴジラ、南極ゴジラの中の可愛げを担っている部分3人、と思っていて、そこに無理やり巻き込まれていくUBという構図を作れたと思っています。怪奇星キューに行くなら俺は絶対UBチーム側で旅したい。

電池ボンドチームはあとのキャラクターたちをどういう順番で出会っていけばいちばん激しくハードボイルれるか、というのを考えてああなりました。最初に湯気を死なせてしまうのが面白いですよね。ずっと追いかけ回される。冒頭に言葉だけで出てきたK1グランプリ235年連続優勝者・πが、ずっと引っ張られて一幕終わりギリギリでようやく登場するけれど、πどんなやつやねんっていう期待に耐えられるの、ほんとにチヒロくんくらいだと思うので、すごい。

ずっと楽しかった一幕から転じて、二幕は一気に現実的な話に落ちて、星のルーツを辿っていきます。ソ連の宇宙開発の話が入ってきますが、「マネキンと録音テープを載せた無人ロケットをソ連が飛ばした」という話は実際の話です。実は人乗ってたんでしょうー。というのは有名な都市伝説で、このエピソードをモチーフに、マネキン・録音テープを、この劇における「こわさの正体」の部分に当てました。NOPEにおける「ジージャン」、呪怨における「かやこ」のところです。ソ連がスプートニクで犬を飛ばしていたエピソードだったり、歴史から抹消された宇宙飛行士のエピソードは、得体のしれないこわさがあると思っていたので、今回ここを物語につなげることができて嬉しかったです。

この章の最後に、今回の作品の参考作品群を載せておきます。

映画
「NOPE」ジョーダンピール監督
「A GHOST STORY」デヴィットロウリー監督
「エイリアン」リドリースコット監督


『ホークライン家の怪物』リチャード・ブローティガン
『西瓜糖の日々』リチャード・ブローティガン
『エドウィン・マルハウス』スティーブン・ミルハウザー
『奇妙なものとぞっとするもの』マーク・フィッシャー
『midday ghost』濵本奏

その他
ウルトラマン第23話『故郷は地球』
「Contact From Exne Kedy And The Poltergeists」井手健介と母船

撮影:U乃さん

演出のこと

ここまで書いた時点でもう公演から1週間が経って月曜日になってしまっているので、
さらに急ぎます。

今回演出をする上で「見えないものを見る」「見えないけど見られている」みたいなことを強く意識しました。参考作品にあげた「アゴーストストーリー」は、幽霊になってしまった主人公がただただ自分の妻を見続けるというものなのですが、そういう見えない存在がそばにいて、人の視線を通して存在を形作っていくみたいなことをやりたいなと思ったんです。

そもそも演劇ってそうだなという思いがあって、前回地底探検がそうだったんですけど、そこにアイススケートはなくても、登場人物がここはアイススケートだと言い張って、俳優たちが床の上を滑り出したらもうアイススケートに見えるというか、そういうお客さんと劇を届ける私たちで共犯関係になって、見えないものも見えることにみんなでしましょう、みたいなことが演劇にはできると思っています。それが演劇の他のカルチャーにはない強いところだとも思ってます。

今回の作品では後半、幽霊が出てきますが、これも演劇が持つ、見えないけれどみんなで見えていることにしましょう。という共犯関係あってこそかなと

稽古でいうとグルーヴ感を強くすることに力を注ぎました。
稽古のときも、本番直前も、みんなでダンスを踊ることばかりしていました。
目と目を合わせてダンスをしていれば、相手が考えていることまではわからなくても、
どんな温度感のことをしようとしているかはわかる。
それが俳優チームの中を伝播して、スタッフチームとも目を合わせてはいないけれど確実にテレパシーの交わりみたいなのがあって、チーム全体が一つの匂いや温度が支配している感じがあったと思います。お客さんもそこにそのまま飛び込めば、見たことない世界に簡単に行ける、みたいなそういう堅牢なグルーヴ感はこれからも大事にしていきたいです。

そんな感じで、稽古ではお互いのチューニングを合わせることばかりやってましたが、太田垣百合子さんの詩作と、音楽隊のセッションでもそれが強く出ていたと思います。音楽隊が劇に合わせて音を生み出していく姿を僕は一幕中ずっと近くから見ていたんですが、劇を見ているのと同じくらい、音楽隊の姿を見るのはかっこよくて、茶目っ気があり、うつくしくてすごい。次は音楽隊の後ろに3席くらいプレミアム席を設けてもいいかもしれないです。二幕のお葬式で降ってくる百合子さんの詩は毎回その場で作っていて、俳優が演技中に腕を擦りむいちゃった時は詩の中にそのことが入ったりしていて、さっきも出てきた「見えないけど確かに見ている」ということがここでも出ていたなと思います。朗読も良い意味で演劇的じゃなくて、すごく良かったなと僕思っています。いろんなカルチャーの分野の人を巻き込んで、文化の集合体のバケモノみたいなのをこれからも作っていきたいです。

撮影:U乃さん

ブローティガンのこと

脚本のパートで参考作品を挙げましたが、リチャード・ブローティガンの小説が2つ出てきています。この劇をつくっていくにあたって、ブローティガンが残した詩や小説に出会えていたことが、かなり大きな力になりました。このリチャードブローティガンという方は1935年にワシントンで生まれた作家で、先に挙げた2作以外にも『アメリカの鱒釣り』『芝生の復讐』『愛のゆくえ』『ピル対スプリングヒル鉱山事件』なんかを書いて、84年にピストル自殺で亡くなりました。これまで短編集ばかり読んでいたのですが初めて長編の『ホークライン家の怪物』を読んだときに、軽妙で、極端で、愛に溢れていて、寂しい感じがして、すごい面白いと思ったんです。寺山修司の『あゝ荒野』がすごく好きなのですが、近いものを感じて、調べてみたら日本に来たときに寺山修司とも親交を持ったりしていたみたいです。

ブローティガンの作品も、あと僕が好きな映画監督であるウェスアンダーソンの作品も共通して、「ゆかいで」「さみしい」という感じがします。そこが好きだと思っていて、ブローティガンの『西瓜糖の日々』は、怪奇星キューの星の住人たちの、ドライだけどあたたかさもある関係性を考えるときにとても参考にしました。ブローティガンの本を読んで、やさしい劇をつくりたい、見た人を包み込んだりはしないけど、そっと頭の片隅にいて、時々思い出して安心できるような、やさしい怪作を作りたいなと強く思ったことを覚えています。

『ホークライン家の怪物』は図書館に行かないとなかなか読めないかもしれないんですが、とても面白いのでぜひ読んでみてください。今作の甘電池が「何事も“4”にしないと気が済まない」人物として登場しますが、ホークライン家の怪物になんでもかんでも数を数えたがる男が出てきます。電池の極端な性質はこの小説からアイデアをもらいました。

近藤聡一朗のこと

さいごに、今回演出後記を残すにあたって書かないわけにはいかない男・近藤聡一朗のことを話しておきます。今回演出補佐で南極ゴジラ初参戦の近藤くんに入ってもらいました。演出補佐がいなくて(なぜなら、前回演出補佐をやってくれていた藤井ちゃんを俳優として登場してもらってしまったので)どうしようかとTwitterで呼びかけた時に近藤くんがメールを送ってくれて、今回につながりました。

僕こんにち博士は普段、こんちゃんと劇団員からは呼ばれているのですが、近藤聡一朗も周りの仲間からはこんちゃんと呼ばれていたようで、でも一つのチームにこんちゃん二人はいられないので、彼は呼び名がなくなってしまい、名前が定まらないまま公演終わってしまいました。

近藤くんはとても魅力的な人物です。タバコを吸いにいくときになぜかリュックサックを丸々持っていきます。自転車を持っていなくてどこへでも歩いてやってきます。自転車が手に入ってからは嬉しいのかなんなのかBUoYまですごい時間をかけて自転車で来たりしていました。

劇中登場した、マネキン男、水男(K1グランプリの審査員の時)をはじめ、あらゆる場面に近藤くんは出現していました。僕は劇中の大道具の撤収の段取りなんかが苦手なのですが、ほぼ近藤くんがそのあたり考えてくれました。ほんとうにありがとう。今回の演出をする上で欠かせない存在でしたので、最後に紹介をさせてもらいました。

これが近藤聡一朗

南極ゴジラのこれからのこと

ほんとうに、もっともっと誰もみたことがなくて、
とにかくおもしろいものが作りたいと考えています。

今回の「怪奇星キューのすべて」はどこか白黒の世界だったように感じています。
キービジュアルが出来上がったらできるだけそれ通りの作品にしたいのですが、
宇宙飛行士の後ろにたくさんの怪物・怪人たちが蠢いていて、
行進しているようにも見えるし、どこか守ってくれているようにも見える。
コンセプトムービーもカラーではあるものの同じ匂いを感じさせるものを作ってくれました。(ほんとうにかっこよかったよね)

次作は打って変わってカラフルな作品にしたいなと思っています。
未来や過去ではなくいまこの日この瞬間が舞台の物語で、
マジカルで、奇想天外で、とにかくあたらしい劇。

24年3月に東京にて、次作はオール劇団員キャストでやります!
タイトルは「(あたらしい)ジュラシックパーク」です。
たのしみにしててください、またよろしくお願いします!

撮影:U乃さん

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