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「南極ゴジラの地底探検」の演出後記

22年10月末に東京・王子小劇場、そして23年3月に大阪・アートエリアB1にて上演した「南極ゴジラの地底探検」に関する演出後記です。寝かしてしまった結果、そのまま日が経って結局書かない、ということが非常に多いので、今回ばかりはスピード優先で、急いで書きます。乱文、ご容赦ください。

まずはじめに、ご来場いただいたみなさん、アフタートークや宣伝に力を貸してくださったお友達・先輩方、スタッフをはじめ関係者のみなさん、ありがとうございました!

●企画の走り出し

22年に上演した第2回本公演「ホネホネ山の大動物」の企画する段階まで遡るのですが、劇団員の九條えり花より「劇団員だけの公演をやってほしい」という打診を受けていました。当時はインスタライブでの連続配信劇『桃源Q』の製作を終えて、さて次は何をしましょうというタイミングで、劇団として大きくしていくためには外部から魅力的な俳優陣・クリエイター陣をアサインした公演をやる必要がある、と僕自身考えていたため、劇団員だけの公演を打つことに少し懐疑的だったのを覚えています。

ただ、えり花さんの要望は劇団の特性が関係しています。南極ゴジラは大阪・東京と劇団員の所在地が分かれていて、21年当時、僕・ユガミ・瀬安・瑠香・和久井・耕輔は東京、えむさん・えり花・TGW・栞里は大阪。劇作は基本的に東京でやることが多く、そうなると、大阪にいるメンバーが公演に参加するのは一苦労です。実際、大阪で会社員をしているえり花・TGWは、公演への参加がなかなかできない状況でした。外部の出演者を呼ぶとなると、劇団員のスケジュールに合わせることは難しく、えり花を出演させたくてもスケジュールが合わない、という状況が第1回・第2回本公演と続いていました。

その状況での打診だったので、えり花さんには「ホネホネ山については外部の俳優陣・クリエイター陣を呼んだ公演にさせてもらう。頑張ってホネホネ山で結果を残すので、その次の公演では、劇団員だけで公演をやりましょう」と約束したのを覚えています。結果、やってほんとうによかった。えり花にはとても感謝しています。

●公演のタイトル

いざ公演をつくるとなって、元々は別の演目をやる予定でした。恐竜が鳥に進化する過程をテーマにした企画を温めていて、それを劇団員で、と思っていたのですが、初の劇団員10人だけの公演、いまここでこのメンバーで、ほんとうにやるべきことは何かとあらためて考え直しました。おぼろげなのですが、劇団員のえむさんと次の公演について話していたときに、なんとなく10人で探検するみたいなアイデアが浮かんで、地底探検のモチーフが決まった気がしています。タイトルは「地底探検」だとシンプルすぎるので「南極ゴジラの」をつけました。「フェリーニの」や「チャップリンの」みたいなトーンでした。地底探検ってなんか古臭くてあたらしくて、面白そう。内容は全然イメージついていませんでしたが、『南極ゴジラの地底探検』というタイトルだけが誕生しました。

●「南極ゴジラの地底探検」

タイトルが決まってからはすごい早いです。いつも。水を得た魚みたいに、みるみるアイデアが浮かんで、形になります。割とすぐの段階で、今回はパラレルワールドをテーマにしよう。と決めました。『桃源Q』で描いたパラレルワールドの世界に、よりSFにフィーチャーした形でもう一度向かい合う。

劇の中身を考えるとき、「いかに飛ばすか」みたいなことに重点を置いています。途中で大きく時間が流れる映画や小説が好きです。中盤でタイトルバックがある映画はもっと好きです。本公演くらい長編の作品に取り組むときは、途中で絶対に飛ばしどころを作りたいと思っています。『贋作ジュラシックパーク』や『ホネホネ山の大動物』では、第一幕と第二幕の間で一気に時間が経つ、という形で飛ばしどころを作りました。今回のタイトルは「南極ゴジラの地底探検」。こうなると、飛ばしどころは「タイトル通りの内容から始まって、途中から全然違う話が始まる」しかないですよね!そこまで決まったらめっちゃ早かったです。地底探検からはじまって、割とダラダラ会話劇をやる。地底探検を中盤くらいで完結させて、そこから急に別の作品が始まる。「え?オムニバスなの?」とお客さんを混乱させて、最終的にはパラレルワールドを浮かび上がらせる。いいぞ!これしかない!このまま脚本にしよう!すぐ書こう!

●脚本執筆

結果、もともと考えていた話とは全然違う感じになりました。もともと書こうとしていたのはヨーロッパ企画の「出てこようとしているトロンプルイユ」(←ユガミが誕生プレゼントでチケットを買ってくれて一緒に見にいった)や「うる星やつら2 ビューティフルドリーマー」みたく、パラレルワールドのループもの。パラレルワールドに10人が迷い込んでいろんな世界を旅して、毎度記憶をなくす、けれど段々と自分達がパラレルワールドを旅していることに気づいていく的な・・・。

大まかないまの脚本に落ち込む過程は正直あんまり覚えていないので割愛します。何度も何度も展開や設定や物語がぐるぐる切り替わって、少しずついまの形になっていきました。もう1回記憶を全てをゼロにして、もう一度「南極ゴジラの地底探検」というタイトルから脚本を書いたら、全然違う話になると思います。ダーウィンの進化論とは反対ですね。一つはっきりしていることは、今回の脚本執筆は過去いちばん、劇団員みんなで話し合いながら書いていきました。喫茶店やら図書館でいっぱい会議しました。販売している脚本(えむさんイラストも入った装丁がとっても可愛いので買ってください)にあとがきとしてこの辺り、少し短文を寄せているので、興味ある方は読んでください。

●劇団員でつくる劇

今回、お客さんからの評判が過去最高でした。とにかくいろんな人に褒められた。東京では王子小劇場の年間アワード・佐藤佐吉賞も最優秀作品賞、最優秀演出賞、など多くの賞をいただきました。いまだに信じられない。

お客さんからいただいた嬉しい感想の中で、劇団に愛を感じた、ということを書いてくれている方がたくさんいました。僕も、今回いちばん上手くいったのがそこだなと思っています。冒頭で、劇団員だけでこの劇をつくることになった理由を書きましたが、それがこの作品の全てだったと思っています。2020年に劇団化して、えり花や耕輔が本公演に参加するのははじめてのことでした。丸3年がたって、10人が舞台に立って、やる劇。そこで何をやろうと考えたときに、やっぱり劇団員の魅力が伝わるものがいいし、劇団だから成り立つような物語にする必要があると思っていました。脚本はあて書きですが、おおむね本人そのままだと思ってもらって結構です。(そんなことはないか、怒られるかも。)劇団でいちばん長い付き合いはTGWなのですが。彼とこの春で出会って12年になります。出会ってからの時間の違いはあれど、僕は9人のことが心から大好きです。それぞれその人でいちばん愛おしいと感じている部分(それは長所とは限らないですが)を誇張して、キャラクターにしました。

タイトルに劇団名が入っていて、登場人物は本人を誇張したキャラクター、物語の中で10人はまるで様々な演目を上演するかのように複数の世界を旅して、最終的にはいまの南極ゴジラに帰ってくる。その様子を、まさにお客さんが見ている。僕らもそれを片目で見ていて、物語をなんとか届けようとする俳優・スタッフチームの熱量と、目を開いて耳を傾けていま起こることを捉えようとしてくれているお客さんの熱量が混じりあって、異常な熱気をまとった空間が生まれてました。反則技みたいな公演でした。

●今後について

次回、夏に東京で公演を予定しています。次回はSFホラーをやるつもりです。こちらは劇団員だけの公演ではないです。異星を舞台にしたお話なのですが、こどもも大人も楽しめて、震え上がって、目をつむるほどに恐ろしく、けれど眩暈がするほどに愉快で切ない、とにかくワクワクする作品になりそうです。

そして劇団員だけの公演も実は決まっています。情報公開はずっと先になると思いますが、これもまた、かなり楽しい作品になる予定です。

最後まで読んでくださりありがとうございました!

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