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演出後記 #1

『桃源Q』演出・撮影担当のこんにち博士です。イェイ。
桃源Q、有難いことにたくさんの方に観ていただいていて、中には考察までしてくださる方もいて感無量です。自分たちが作ったものを、じっくりと温めて深く考えてもらえるなんてほんと演出冥利につきます。このnoteは、桃源Qをちらっと観たよ、という方から、毎週観てるよ、という世界一素敵な方まで、桃源Qウォッチャーに向けた僕なりの学級通信です。

世界観をより深堀り・・みたいな濃い~内容では残念ながらないですが、これを読んでもっかい本編見たろやないか、という気持ちになってくれたら嬉しいです。

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演出後記、初回は「#1 ウーピー、ミンミン、カンフーパンダ」について。脚本・製作の2つの軸から、お話できればと思います。

※以降、ネタバレするかもしれないし、しないかもです!

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ジャッキー・リーと町人A

桃源Q、#1はかなり演劇色の強い作品です。フィクション全開のカンフーストーリーがあって、それをだんだん崩していく、というメタ的な仕組みになっています。

登場するキャラクターは2人。ジャッキー・リーという国いちばんの剣使いを山脇辰哉さん、薬屋を営む娘を劇団員の古田絵夢が演じました。所感としては、#1はキャスティングの妙がかなり光っていたのではないかと思っています。

古田絵夢は前作『作家にはサムデイやりたい劇がありこっそり買った月面の土地』では台詞のほとんどがモノローグでしたが、今回もモノローグが多いキャラクターです。絵夢さんは演じる役によっては演技が無個性に見える役者です。本当はぶっとんだ役をやると爆発するのですが、それは置いておいて・・。この無個性さと、「薬屋で淡々と同じ日々を繰り返す」という役柄がハマっていたと思っています。時折挟まるモノローグは、絵夢さんの喋り方の雰囲気に合うように書けたんじゃないかと、ちょっと自信があります。劇団の劇作家として台本を書いていると、だんだん劇団員それぞれに合う言葉の置き方がわかってくる感じがあってこれは楽しいです。

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で、客演である山脇辰哉さんですね。山脇君とはこれまで面識もなく、受けてくれたらラッキーくらいの感じでオファーしたら快く引き受けてくださったという経緯です。すごい役者だと言うことはちらちら耳にしていたので何となく「そうなんや~」くらいに思っていたのですが、実際にご一緒してみると確かにぐう魅力的な役者さんでした。多数の舞台やドラマに出演している山脇君ですが、山脇君の得意技は、自然な演技。それも、自分の内側にあるものをそっと表に出すような演技。今回の脚本を読んだ山脇君は「いやあ・・こういうのはあんまりやったことなくて、自信ないですね・・」という感じでした。

このジャッキー・リーは国いちばんの剣使いなのですが、これは物語の中においてジャッキー・リーと”されている”人物です。どこか一枚仮面を被っているような状態です。山脇君には、「ジャッキー・リーというキャラクターを演じている山脇辰哉を演じてほしい」とお願いしました。こんなにもフィクションな感じはやったことないとか言って恥ずかしがってましたが、フルスイングで演じてくれましたね。

ジャッキー・リーは終盤、町人の言葉によって、どんどん自身の鎧がボロボロと崩れていく状態になります。自分がこれまで信じて疑わなかった常識や、概念や、自分の生きる目的、みたいなものがただのペラペラの紙切れのようになって消えていきます。どんどん人間。真人間になっていくんですね。ここに山脇君の真骨頂を見るようでした。前半のどこかぎこちない、過剰なまでのフィクションに対し、無理をしているような”山脇辰哉”という役者そのものが、ジャッキー・リーと重なり、鎧が取れ、生まれたての赤ちゃんのようになった終盤の彼が見せる表情には、なかなかしびれるものがありました。

ちなみに、脚本には最後のト書きで「赤ちゃんのような顔で町人Aの顔を見つめる」と書かれています。

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リフレインする脚本

全9話の『桃源Q』脚本ですが、テーマが大きく2つあります。
一つが「恋=お互いの想い度合いの不均衡」、もう一つが「リフレイン」です。

「恋=~」については今後ていねいに書いていくとして、今回の脚本「リフレイン」を多用しています。とある回で出てきたセリフが別の回でも出てきたり、同じようなやり取りを複数の回でも繰り返したり、毎回起こる展開があったり。さまざまな世界で赤星とQが何度も出会い、何度も恋に落ちることを主軸としたラブストーリーをつくるうえで、このリフレインはかなり重要でした。

少しネタバレになってしまうのですが、#1はこれから起こることのダイジェスト・暗示のような構成になっています。二人が出会って、何度もそれを繰り返す、やがてそれに気づいて、そして・・。という流れ。
だから1話にはこのリフレインが必要でした。

このnoteを読んでくださっている方はすでに桃源Qをしっかり追ってくださっている方だろうという油断のもと話してしまうのですが、#6で赤星がQに昔流行ったゲームの話をしますね。わかっとるわ!という感じだと思いますが、あそこで言うゲームは#1のことです。リフレインを表現するための手段として「ゲームの中」という世界観を選びました。恋がきっかけでバグが起こり、気味悪がったメーカーが回収を発表しちゃうそうですね。ちなみに、劇中には登場しませんがこのゲームのタイトルは「モリブデンX」というもので、これには、モデルがあります。

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「スパルタンX」というアーケードゲームです。ゲームの内容は5階建てのタワーをどんどん登っていき、最上階にいるシルビアという恋人を助ける。というものらしいです。ちなみに主人公の名前はトーマス。なんか、違いますよね・・。でも海外でのこのゲームのタイトルが「KUNG-FU MASTER」でかっこいいです。ちなみにこの「スパルタンX」には、ある一定数ゲームをクリアすると、恋人であるシルビアが突然襲い掛かってくるイベントが起こる、という都市伝説があるそうです。

ちなみに、この「ウーピー、ミンミン、カンフーパンダ」。ほんまに何の意味もありません。ウーピーはウーピーパイからとりました。わーい、みたいな意味らしいのですが、別に中国語とかですらありません。ミンミンは劇団員の九條に「可愛い中国語を何でもいいからすぐに教えてくれ」という緊急の懇願をしたところ返ってきた単語です。意味は忘れちゃいましたがなんか可愛い名前だったので姫の名前もミンミン姫にしました。カンフーパンダは響きで選んだだけです。

この回、もともとは「カンフー映画」をテーマにするつもりでした。古田絵夢がカンフーの主人公、敵方である山脇君と対峙するが、なんか様子が変。実はこれはカンフー映画の中で、絵夢さんは現実の世界で俳優の山脇君に好意を寄せており、それが作品に支障をきたす。という台本の予定だったのですが、二人芝居でそれ表現するのむずすぎるのと、カンフーで戦うとき、殺陣の稽古たいへんやなぁと思って、やめました。

絵夢さんのコンセプトアートにホワイトボード上のセリフを消して、デートの誘いをする絵があるのですが、そこから着想を得て、ゲームの話にしました。

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なんか書き出すとキリないんですけど、これ以上書いたら後半大変なことになってしまうのでこれくらいにしておきます。

最後まで読んでいただきありがとうございました。終盤戦もお楽しみに。

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