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遠くから近くへ


少し前までは

新しい世界を見たくて

新しい人に出会いたくて

遠くへ、遠くへと行きたかった。

ダメダメで大嫌いな自分を好きな
安全圏にいて情けない自分を知らない人たちと
出会いたくて

素敵だと思ってもらえる可能性を秘めた
自分のことをまだ1ミリも知らない
新しい誰かと出会いたくて

今までの、
情けなかったり
常識を逸した
身近な人には話せない過去を
おおっぴらに話せる誰かと出会いたくて

自分の想像や常識をはるかに超えた
価値観や文化に出会いたくて

見知らぬ土地を踏むワクワクを
味わいたくて

遠くへ、遠くへ、行きたかった。

ひとりで行くことが当たり前で
さみしさも虚しさもなかった。


遠くへ、遠くへ、行くたびに
いろんな人に出会い、
いつのまにか
価値観が変わっていたことに気づくのには
少し時間がかかった。


ひとりの時間は欲しいけれど
遠くへひとりで行っても虚しいだけになった。


ひとはひとりだと
ひとりで生まれてひとりで死んでいくんだと
死ぬときには何も持っていけないのだと
わかっちゃいるけど
だからこそ

今はただただ
部屋に置いて来た花瓶一つ
部屋の窓から見えていた景色一つ
部屋の本棚に並べた本一つ
大好きなそれらを
手の届く場所で
大事に愛でていたかった。

離れるのがあまりに寂しかった。


時間がないと言うなら
テレビを見る時間を減らせと言う。

テレビはくだらないと言う。

私もずっとそう思って来たし
元々テレビをあまり見なかったけど

今は

テレビを見て誰かと一緒に笑うこと
テレビを見て誰かと一緒に話すこと

その、テレビを挟んで行われる
当たり前の日常が
とてもとても、有り難く、愛おしい。


そばにあるものを
大切に、愛でながら

また遠くへ行きたくなったそのときには
遠くへ行こう


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