英文解釈十牛図
~英文解釈(演習室)の魅力〜
「十牛図」とは、十二世紀、中国の宋の時代から伝わる禅の入門書で、一頭の牛が登場します。牛はふだんは物静かでありますが、あばれると非常に強く手がつけられなくなります。その姿はまるで、日本人とはまったく異なる文化背景をもつ欧米人の書いた文章のようでもあります。牛を探し求める、つまり英文の本当の意味を探すところから物語ははじまります。
第一図:尋牛(牛を探す)
禅ではよく「自分を見つめなさい」といわれます。第一図には、英語学習を思いたち、牛(=英文の本当の意味)を探しはじめた猫のようすが描かれています。まだふらふらとしていて確固とした学習の方針はありません。まず『10題ドリル』シリーズと『英語のハノン 初級編』『英語喉』を買いましたが、まだ「9割は誤読」です。
第二図:見跡(牛の足あとを見つける)
評判のよい『DUO 3.0』『リンケージ』『テオリア』『英文法解説』を手にして、単語や構文・英文解釈・文法を継続的に学びはじめます。parsing を身につけるために『黄リー教』にも入信します。見つけたのは「足あと」ですから、まだ牛そのものではありません。ようやく英文の本当の意味を知る手がかりをつかんだ、というところです。
第三図:見牛(牛を見つける)
しだいにわかる英文も増え、試験の成績ものびていきます。やさしい洋書の多読をはじめるのもこの頃です。TOEIC では900点をこえ英検1級も取得して、まわりからは英語ができると言われます。しかし、まだ『英文解体新書』には歯が立たず、『英語教育』誌の「英文解釈演習室」に和訳を投稿しても A+ には届きません。
第四図:得牛(牛をつかまえる)
意を決して英文解釈の秘密結社の門をたたきます。『あえて訳す!』『ヘミングウェイで学ぶ英文法シリーズ』『英文解釈教室』『思考訓練シリーズ』『解体新書1・2』を読破。厳しい修行にたえ、目いっぱいの力を出し切ってついに A+ を獲得します。しかし、まだ実力は安定しておらず、苦手分野ではたびたび珍訳もとびだします。
第五図:牧牛(牛を飼いならす)
やさしい洋書は卒業し、古典の原書や TIME を楽しみながら読むようになります。何度か A+ をいただいたあと、とうとう誌上の訳例に選ばれました。「どうだ! 吾輩は英文解釈日本一だぞ!!」と大声で叫びたくなりますが、これはダニング・クルーガー効果(注)。英文解釈はそんなに底の浅いものではありません。
第六図:騎牛帰家(牛に乗って家に帰る)
迷いから目がさめて、自分はまだ何もわかっていないと気がつきます。もう道場主の採点結果にはとらわれず、水が流れるかのように自然に英文が楽しめるようになります。
第七図:忘牛存猫(牛のことを忘れる)
自分が読んでいるのはいったい英語なのか日本語なのか、そもそも自分が何をしているのかも忘れます。岩清水氏に何を言われようとも、もう挑発にはのりません。
第八図:猫牛倶忘(自分のことも忘れる)
他の投稿者との勝ち負けや、どのように評価されるかなどには、いっさい何の執着もなくなります。完全な無我の境地です。言葉では表現のできない、分別智を超えた世界です。
第九図:返本還源(すべて元通りとなる)
ふと我にかえります。吾輩は夢でも見ていたのでしょうか? 猫が夢の中で蝶になっていたのか、蝶が夢の中で猫になっているのか? 何か美しいものに触れた感触だけがぼんやりと残っています。
第十図:入鄽垂手(町に出て生活する)
さて、下の方で遊んでいるのは、かつて牛を探していた旅猫です。目標である牛(=英文の本当の意味)を見つけた旅猫は、町に行って人々と交わります。戦いがおわればノーサイド。秘密結社をはなれ、敵も味方もなくなります。賢人ゼミや東京外大OB、塾・予備校・中高の先生あるいは大学生など、他流派の方々と交流をします。通のみなさんとともに英文を味わい、その魅力を語りあいます。(完)
注:ダニング・クルーガー効果
十牛図:わくわく美術館所蔵、犬国宝 仏教絵師 智輪和作(画像の著作権は 仏知綺麗 智輪和師 に帰属しています)
参考資料:
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