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19.3.31(日) 全景

霧がかった暗い路地が見える。

遠くの方を見ようと目を凝らしてみても、視線はそのモヤに吸い込まれるばかりで、一向に晴れようとしない。

傍らを歩く友人の道が時折まばゆく光る。
スポットに照らされた友人の姿に、嬉しい反面、内心焦りも感じる。

臆病風に吹かれて後ろを振り向いてみると、かすかに残る自分の足跡に心なしか安堵し、また歯を櫛歯って歩みを進める。

思えば遠くに来たもんだ。

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4月。

あと何時間もすれば、またこの月がやってくる。

学生であれば卒業や進学、社会人であれば就職や転職。様々なところで出会いと別れが交差するこの時期は、1年の中でも特に様々な思いが人々の頭を駆け巡る。

明日には新しい元号が発表され、自分が生まれた「平成」という時代もいよいよ終わりを迎えるらしい。

ちょうど1年前の今日、「社会人」という呼称に、まるで実感が湧いていなかった僕も、なんとか社会人1年目という節目を終え、気づけば明日から2年目が始まろうとしている。

こうして振り返ってみるとこの一年間は、砂を噛むような日々の連続だった。

口幅ったい言い方に聞こえるかもしれないが、会社という大きな組織の中にいると、個人の表現や思想が尊重されることはなかなか難しい。

見積もり、スケジュール管理、電話対応、打ち合わせ、その他諸々雑務etc...。美大であれだけ求められた「個性」や「オリジナリティ」という言葉の入り込む余地がない実務的な業務の数々。

焦りや疑問や後悔が頭に浮かんでくるが、そんなことはお構いなしに仕事は次から次へとやってくる。

できないことだらけで、日々のタスクをこなすのに精一杯だったぼくは、限られた土日の時間を使って、絵や文章をつくることがささやかな癒やしだった。

入社前に持っていた小さな自信はあっという間に砕けていった。

仕事の激流に飲み込まれないようにするだけで精一杯だった。

本来の話の筋であれば、ここであることをきっかけに自分の才能に目覚め、少年漫画の主人公よろしくメキメキと頭角を表していくのだろうが、まだこのお話はハッピーエンドを迎えない。

未だ悩みや不安は現在進行系で自分の中に渦巻いているし、具体的な解決策も見つかっていない。

けれど、これが今の全景。
弱さや不安を一旦全て認めた上で、二年目もひた走っていこうと決めた。

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