2022/9/14 岡山公演

このコンサートから受け取った感情を最初から書こうと思うと、その前日の最寄り駅から列車に乗った時の事から書かなきゃならない..?
ちょっとそれは情報量が多すぎて私の手には負えなくなっちゃうので、だいぶとばしますが、でも列車が坂を上がる時に聞こえたレール音が、明日聞くはずの序曲に聞こえた事だけ言いたい。
そしてスッパリ飛ばしてしまいますが、ショパンピアノ協奏曲一番、協奏っていう割にピアノが最初ぜんぜん出番ないのなんでだろ?って常々思ってたんですが、昨日の私はずっと「わかった!そうか!そうだったのか!」って曲を聴きながらすごい一人で納得してました。
「ショパンはみんなの演奏を聴きたかったんだよ、長の別れになるのはわかってたから、みんなの演奏を特等席で聴きたかったんだよ!だから、だから..」
今の私はそんなに確信は持てませんが...昨日の私はそんなふうに思ってました。
ピアノが弾かれないあいだに描かれた情景が、ほんとうに美しかった。私はいつもヘッドホンで音楽聴くことが多いのですが、昨日オケの演奏を聴いて、これからはちょっと音量を下げて聴こう、と反省しました。
小さな小さな音でもくっきり聞こえて、ああ、ここにもこんな音が、ここにも、ここにも!と、足元の野の花に気づくような思いで、ポーランドの地を歩いていました。

そして弾かれたピアノの音が..なぜかすごく高い場所から聴こえてきてびっくりする..前の方の席だったから、ある程度音が私の上を飛んでっちゃうのは覚悟してたけど、そうじゃなくてピアノの5メートルくらい上の方から聴こえた気がする。いつもかてぃんさんがピアノの音を追って見上げる場所、舞台の空間のちょうど真ん中、中空のところから、音が、だんだんまるで蝶々の様にヒラヒラヒラヒラ..
オケが優しくこっちだよ、と呼べばそっちにヒラヒラ悲しく飛んでいって、でも蝶々独特の気まぐれな動きであっちこっちさまよって、最後、なぜかオケと同じ高さから聞こえてきた。なんだ?なんでそんなマジックみたいな事が起こってるんだ?と疑問に思ってるうちに一楽章が終わってしまった。

そして二楽章は...これは、これは、初雪が降ってくる情景だ...!
風のない日、薄日が差している時に、ふわぁってゆっくりゆっくり落ちてくる雪片。
みとれて見上げていると、雪が落ちてくるのか、私が上がっていってるのかわからなくなるあの一瞬。
落ちてくる雪を夢中で見上げている間に、周りの音が消えて無音に取り囲まれていることに気づく感じ...

これからの人生で、初雪を見上げる度にきっと、いや絶対、この日の演奏を思い出す。

初雪が降ってくる度に抱く、嬉しいような切ないような気持ちが見事に再現されて、北国に住む私には最高のプレゼントでした。

こんなプレゼントをもらったら、それは泣くよね。泣く。泣いた。

「太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ
次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ」
最後はこの有名な詩もどこからかやってきて、演奏と一緒くたになってせまってきたので泣いた。ずっと泣いてた。

そして二楽章が雪だったんだから、三楽章は雪解けの喜びにしか聴こえない。葉っぱで作られた小舟に乗った小人が喜び勇んで、得意げに船頭を務めている...そんなふうに聴いちゃうと、もうかてぃんさんが小人に見えてきちゃう。背がでっかい小人。得意げに、急流を乗り切ったり、自らジャンプしたり、わざと支流に突っ込んでみたり。そして最後は滔々と流れる大河に合流して終わった。ずっとオーケストラは背景の美しい景色をブレずに描いてくれて、その中で小人が舟と動き回ってる感じがした。

トッカティーナはねえ、エンジンフル回転でグルングルン音が回ってた。ピアノごと舞台を走り出してもあんまり驚かなかったかも。

そして二部。主食はさっき食べたから次はメインデッシュ、という気分で聴き始める。
オーケストラだけだと、なんだかすごく「贅沢させてもらってます!ありがとう!」という気がした。だって、かてぃんさんの演奏はまだ聴きに行けると思うけど、ポーランドまで聴きに行くのは至難の業。この先の人生でもしかして二度と聴けないオーケストラかもしれないと思うと、めちゃめちゃ贅沢な事だ。
家路、で有名なあのメロディが、なんだか独特なリズム感で聞こえてきたので、ああ、これがこのオケのリズムなんだなあ、と珍しく思いながら聴いてました。終盤、恐れてたアラーム音っぽいのがうっすら聴こえてきちゃったけど、そこからのオケの音の迫力がちょっと違った。こんな音も出せるんだ、きっと音量上げてくれたんだな、と思いながら聴いてたらあっと言う間に終わってしまった。
アンコールの「歌劇ハルカ」、もちろん新世界も良かったけど、こっちの方が好きだしきっとオケの個性に合ってる気がした。全部通しでやるとどれくらいなんだろう。歌と踊りと一緒に見てみたいな、今回やってくれたら良かったのに、3時間でも4時間でも大喜びで聴くのに...
無理は承知で、そんなわがままが言いたくなる演奏でした!

もう最寄り駅についてしまう。もう少しで、3日前に聞いたあの「序曲の坂」に差し掛かる。長い長い感想に付き合ってくれてありがとう!おしまい!

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