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真・女神転生Ⅱの呪われた歴史

アトラスの人気RPG・メガテンシリーズの通算4作目『真・女神転生Ⅱ』は、とにかくバグだらけだったことで有名なゲームだった。
購入して箱を開けた時点で「バグのおしらせ」の紙が入っていて、「バグるからあれはするな、これはするな」という助言が書いてあるという、ゲーム開始前から暗雲たちこめまくるようなすごいゲームだった。

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SFC版は、これらのバグのせいで本来の楽しみ方が損なわれていたので、10年後にPS移植版の発売が発表された時はメガテニストたちは涙を流して歓喜した。
「ついにまともなメガテン2がプレイできる!10年待ってた!」と。
※このようにメガテンファンには、必要以上にメガテンに身も心も捧げている狂信者(メガテニスト)が多いのが特徴だ。

しかし発売前から、またも暗雲がたちこめてきた。
延期につぐ延期だ。
2001年の初夏に出る予定だったのが、秋へ、冬へと、あれよあれよと延期していき実際に発売されたのは2002年の春だった。
長かった。
しかし、いくら待たされても「正常」なメガテン2がプレイできるなら…!
延期を耐え抜いてゲームを購入したメガテニストたちが目にしたのは、10年前をはるかに上回る地獄絵図だった。
ゲームを開始してすぐに多くのメガテニストからネットに悲鳴が書き込まれていった。

「ゲームにすらなっていない!」

そう。次々巻き起こるバグに次ぐバグの嵐。
延期の末に発売されたPS移植版の真女神転生Ⅱは、バグを売りにしてるとしか思えないほど、バグてんこもり、もはやバグしか目につかないバグゲーに逆進化していたのだ。
この驚異のバグ率を誇る最狂のPS初期版は、ドミネーター版、ドミ版と呼ばれた。
主人公がドミネーターというアイテムを手に入れた際に、「アレフはドミネーターを手に入れたドミネーター」という謎の語尾のあとにゲームがフリーズするという、悲しんでいいのか笑っていいのか怒っていいのかわからないシュールなバグが話題になり、自然とそう呼ばれるようになった。

スーファミ版は後追いだったけれど、このドミ版が出た時は僕もリアルタイムで参加していた。次々見つかっていくバグ、ついにはメモリーカードのデータがクラッシュするという魔王ベルゼブブ級のバグまで見つかり、メガテニストの怒りと失望、それを通り越して「クーフーはタルカジャをとなえたリン」などのどうしようもなく笑えるバグの数々、何が起きたらこんな狂ったゲームが純度100%そのまんま世に出たのかの尽きない疑問など、メガテニストたちはとにかく盛り上がっていた。
そしてアトラス側のバグを修正した「修正版」との全交換対応という異例の事態にまで発展した。

このPS版が最後まですごかったところは「修正版」にもばっちり一部のバグが残っていたことだった。バグゲーとして名を上げた10年前の悲劇が、拡大されてもう一度繰り広げられたのだった。

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そして2003年の夏。今度はGBA(ゲームボイーズアドバンス)に真・女神転生Ⅱが移植された。
メガテニストはあの惨劇が繰り返されるのかと恐れおののいた。
しかし三度目の正直、メガテンの神は(ちょっとだけ)微笑んだ。
正直バグは、結構あった。たしかに結構バグはあったのだが、PS版のゲーム進行不可能になるほどの重度のバグは見つからず、今までで1番正常に近い(と言うのもどうかと思うが)真・女神転生Ⅱであり、ファンはやっとそれなりにまともなメガテン2に触れることができた。
その日から、いつか出るであろう「完全に正常な」真女神転生Ⅱを夢見ながら、GBA版を何度もクリアする日々がはじまった。

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そしてスーファミ版から20年、ドミ版の悲劇から10年の記念すべき年。
iPhone版の真女神転生Ⅱがリリースされた。
これはGBA版の移植だ。
ということはGBA版の微妙なバグたちが調整されていれば、長年待ち続けた「完全版」真女神転生Ⅱのリリースということになる。
「ついにこの日が来たか…」、震える手で1200円もするアプリをダウンロードしたメガテニストを襲った衝撃は、20年前、10年前に相似したものだった。

アップルストアに寄せられたたくさんの星1個の低評価。
ユーザーを襲ったのは「落ち」の衝撃だった。
ゲームが途中で強制終了する、いわゆる「落ちまくる」現象が大部分のユーザーに起こったのだ。
今回は動作環境によるアプリ自体の不具合だった。
このバグは深刻で、ゲーム続行不可能になるプレイヤーもいた。
特にゲーム開始直後の最初のイベントに入るところで落ちる「トレーニング落ち」は恐ろしく、そこまでセーブするところもないため、回避不可能になると当然ゲームは進まない。
このiPhone版は、予測不能な「落ち」のせいで、いつゲームが強制終了するか怯えながらプレイするという「新時代のスリルゲーム」と化していた。
またも悲劇は繰り返されてしまったのだ。

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真・女神転生Ⅱは、かように「呪われたゲーム」である。
もともと世界中の神々や悪魔、妖怪などを倒し、使役合体するこのシリーズは、宗教に寛容な日本でしか絶対に生まれなかった冒涜的なゲームだと言われている。
それゆえに製作会社であるアトラスでは、やはりいろいろと怪奇現象が起こり、製作時にお祓いをするようになった。
92年に発売された「真・女神転生」では「主人公の住む吉祥寺の井の頭公園でバラバラ殺人が起きる」というイベントがあるのだが、2年後の1994年に実際に井の頭公園でバラバラ殺人が起き、犯人が見つからず迷宮入りした。

こういった謎めいたムードから、ゲームが始まると
すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ すぐにけせ……
という赤いメッセージが大量に画面に現れる「呪われたバージョン」が6万分の1の割合である、なんていう都市伝説めいた話も囁かれたりした。
真女神転生Ⅱの度重なるバグと、悪魔…本当に無関係だろうか…。


それについて20年前の真女神転生Ⅱの攻略本にはこんなことが書かれている。
「グレムリン」の紹介記事だ。
グレムリンというのは比較的最近イギリスに生まれた悪魔で、機械にイタズラして故障させたりする。
北米では、グレムリンのイタズラで戦闘機や飛行機が故障しないように、納入の時に飴玉を一つ入れる風習があったりする。
攻略本のグレムリンの項目は、こんなふうに終わる。


「もちろんゲームのバグもグレムリンの仕業だ。」


言い訳すんな!!!

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