四六時中も好きと言って



実に二か月ぶりの、家族での外食だった。


まだまだ自粛が続くこの世の中で何をしているのだとお叱りを受けるかもしれないが、我々は、いや、私は、限界だった。

幼稚園がなくなり、仕事がなくなり、5歳の我が子がずっと家にいて、旦那もずっと家にいて、私もずっと家にいる。

我が家で料理が出来るのは私だけなので(その分旦那は掃除と洗濯をしてくれているので何も文句はないどころか有難いのだが)私が一日三食、料理を作って、皆で食べている。言っておくが私は基本的に料理が好きだし、得意な部類だ。そして食べることも好きだ。料理を作る事を苦に思った事は、今まで一度もなかった。

しかし、そんな私にも限界がきた。


料理を…作りたくない…………


毎日毎日毎日毎日メシばっか作ってられっか!人の作ったもんを食わせろ!!朝食を作り終えてすぐに昼食の献立を考えている最中、私は旦那と子供に「もう無理!今日もう無理!!外行こう!!!」と叫んでいた。

そこから私は、

・徒歩圏内の近所でやっていて

・チェーン店ではなく

・換気が徹底していて

・ソーシャルディスタンスが守られている客席数で

・おいしい和食のお店

を虱潰しに探した。


そしてやっと見つけた一軒のお店へ予約をし、徒歩でそこへ向かい、昼の込む時間帯を避け、午前中に入店し、食事をした。

結論から言うとそのお店はとてもおいしく、対策もきっちりとしていて、すっかりそのお店が気に入った私はテイクアウトもしてまったのだが、今日書きたいことはそんなことではない。(本当にいいお店だったので機会があったら書く)(つぶれてほしくない)(私は商店街に金を落としたい)



食事も終わり、マスクをつけ、お茶を飲んで、さして会話もせず、足早に店を出ようとしたその時。店内のスピーカーから、サザンが流れてきたのである。

サザンとはサザンオールスターズの略であり、サザンオールスターズとは日本を代表するバンドであり、サザンといえば、夏なのである。



夏だ!!!!!!!!!!!!



偶然にも私達が通された席はテラス席だったのだが、サザンが流れたその時まで、「外出をしている事」や「家族の食事を作ることをサボってしまった事」や「いつまで経っても役所に電話が繋がらない事」などのストレスのせいで、その日が、五月とは思えぬ高い気温であったことや、見事な晴天であったこと、とても気持ちいい風が吹いていたこと、にも気付けなかったのだ。



サザンだ!!!!!!!!!!!!!



サザンが流れてきた途端、その場は一気に夏になった。

ここは湘南。焼け付くような太陽。海の近くのテラス席。Tシャツから伸びた腕は焼けていて、水着の痕は眩しくて。


旦那と二人、「サザンだ」「サザンだね」などと少し笑いながら言い合っていると、「サザンってなあに?」と我が子が聞いてくる。

「パパとママの思い出の曲だよ」「曲っていうかバンドね」「バンドってなあに~?」「うふふふ」「あはははは」


なんていいシチュエーションなんだ。もうサザンの新アルバムには私達家族を使ってくれ。とはいっても、いつまでもそんなしょうもない会話をしていつまでも店にいることはできない。自粛だ。夏が来たって自粛は続く。我々は店を出て、家に帰ってきた。

汗をかいたTシャツを脱ぎ、部屋着に着替え、窓を開けると、旦那がサザンを口ずさみながら寝室にやってきた。「懐かしいよなあ。俺、ピロートークでサザン歌ったりしてたわ」「キショ~。でもあるな~そういうのな~、サザンはな~」などと他愛ない会話をしていると、そのうち、旦那がベッドで寝息を立て始めた。「パパ寝ちゃったの?」「みたいよ」と子と会話をし、子がおもちゃで一人遊びをはじめたので、私はその様子をベランダから眺めていた。心地よい風が吹いている。私はスマホに入っているサザンのアルバムをプレイリストに追加して、そのまま流した。



涙が溢れる悲しい季節は 誰かに抱かれた 夢を見る

こらえきれなくてため息ばかり 今もこの胸に 夏は巡る

四六時中も好きと言って 夢の中へ連れていって

忘れられないheart&soul 声にならない




いや天才か!!!!!!!!!サザン!!!!!!!!!!!!!


気付いたら家の中でけっこうでかめの声でそう叫んでいた。

その声で旦那が起きたし我が子がビックリしておもちゃを手から落としていた。すごい。サザンはすごい。すごすぎる。音楽の知識がないので何がどうすごいとかは説明できないのだが、とにかくすごい。サザンを聞くだけでこんなにも窮屈な生活から逃避できるなんて知らなかった。サザンを聞くだけで全然興味のない海に行きたくなるし、車に乗ってドライブがしたくなるし、めちゃめちゃ恋愛がしたくなるし、過去の夏の思い出が巡ってくるし、砂に書いた名前消したくなるし、四六時中も好きと言って欲しくなってしまう。なんだ、すごいぞ、サザン。なんなんだサザン。

そしてすごいのは、サザンを聞くと、過去の恋愛や夏の思い出を思い出すと同時に、今いる家族のこともめちゃめちゃ尊いと改めて思うことが出来るのだ。(曲によるけど)あんなクソみたいな恋愛をしてきた私なのに、今はこうして家族がいるのか!すごいぞ!すごいぞ私!すごいぞサザン!もうなんか眠そうにしている旦那もちょっとかっこよく見えるし、ティッシュを床にまき散らしている我が子の事も、何時にも増して可愛く見えてきた。すごい。すごすぎる、サザン。


そしてそのあともなんだかんだサザンを聞きながら家事をしたり、旦那とサザンの話をしていたら、いつの間にか私の「料理作りたくない」というストレスは解消され、その日の夜にはしっかり家族夕食を作っていた。外食によって解消されたのか、サザンによって解消されたのかは定かではないが、私は今日からしばらくサザンを聞こうと思う。


そして、この生活が、なんとか、どうにかなったら、海に行こうと思う。

サザン、すごいぞ。みんな聴け。






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