タンデムもっと身近に​

2023年8月24日の読売新聞神戸版の記事から

タンデムもっと身近に​
全国の公道で走行OK

 サドルとペダルが二か所にあり、2人こいで進む「タンデム自転車」が7月から全国の公道を走れるようになり、レジャーや日常の移動手段として利用の幅が広がっている。以前は原則禁止されていたが、愛好家らの声を受けて各地で規制緩和が進み、認められた。長年尽力してきた神戸市西区の今井裕二さん(56)(県障害者タンデムサイクリング協会理事長)は「兵庫県障害者タンデム自転車がより『身近な存在』になるよう、今まで以上に普及に努めたい」と力を込める。

 最後に残った東京都での行動走行が全面解禁された7月1日、都庁前で記念走行が行われた。今井さんも参加し、約20台でビル街を一斉に駆け抜けた。「あいにくの空模様だったが気持ちは晴れやかだった。歴史的瞬間に立ち会えた興奮と感動は一生忘れない」と振り返る。

 今井さんがタンデム自転車に出会ったのは約30年前。徐々に視力が失われる難病を患い、生きる希望を見失いかけていた中で知人に勧められ、魅了された。後ろに乗る人はこぐだけでいいので、目が不自由でも自転車に乗ることができたからだ。「自分の力でペダルをこげることがこんなにうれしいとは思わなかった」

 しかし、当時は県内を含めほとんどの地域で公道走行ができず、空き地や河川敷で走るほかなかった。

 「公道がダメだと普段の買い物や外出には使えない。自分の力で行きたい場所に行けることが障害者の希望になるはずだ」。解禁を目指し、全国を無事故で走破し、安全性を自ら証明。武庫川河川敷で体験会を開催するなど裾野拡大にも努めてきた。そうした活動が県議会での議論につながり2008年に県内での行動走行が認められ、15年がかりで全国に波及した。

 「念願を達成できて言葉にならない」と喜ぶ今井さん。今後、体験会などで解禁を積極的にPRするほか、さらなる普及に向け、子供に親しんでもらう機会を増やしていく考えだ。

 「タンデム自転車は可能性に満ちあふれている。会話や景色を楽しみながら疾走感を味わえるし、乗る人の間に一体感が生まれるから婚活イベントにももってこいだ。高齢者の健康促進にも使える」とし、「障害者と健常者、親子、カップル……。体格やこぐ力に違いがある人同士が協力して乗れることが何よりの魅力だ」と強調する

 今、街中を普通の自転車が行き交うように、タンデム自転車がさらに多くの人に利用される日に向け、今井さんは挑戦を続けていく。

2023年8月24日の読売新聞神戸版の記事