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ツノがある東館、一行目で惹きつける毎週ショートショートnote

桃太郎は、絶望していた。

すでに、鬼が島に上陸し、鬼の城へと向かっているところだった。

大きな叫び声で振り向くと、猿が首から血を流して倒れていたからだ。少し離れたところに、犬も倒れている。

「犬が突然、後ろから猿の首に噛み付きました。猿は振り向きざまに犬の足を掴み投げ飛ばしました。犬は石に頭をぶつけて倒れ、猿も出血多量で」

雉の報告に桃太郎は奥歯を噛み締める。

「犬猿の仲というが、まさかこんなタイミングで。仕方ない。雉、行くぞ」

桃太郎は雉と共に鬼の城へと向かった。城は、ツノのある東館とツノのない西館に分かれていた。

鬼のボスをまず倒さなければならない。

「さっき偵察しましたが、ツノはフェイントで、ツノの無い西館にボスがいます」
雉が、桃太郎の背でそう言った瞬間、ザッという音がした。

桃太郎が振り向くと、雉を咥えた犬がいた。

「お、お前はなんということを…」
桃太郎が膝から崩れ落ちると、犬が口を開けた。
雉が地面に落ちる。すでに絶命していた。

「雉と猿から鬼の匂いがしていました。泳がせていたのですが、先ほど猿は桃太郎さんを背後から襲おうとしました。雉が言ったことは嘘です。東館から鬼の匂いがします。西館には罠が」

倒れている雉の死体の頭には、今までなかったツノが生えていた。

「そうだったのか。犬、ありがとう。よし、ツノがある東館だ!」
桃太郎は、犬と共に意気揚々と東館へ向かい、鬼たちを成敗したのだった。

桃太郎が、雉族と猿族の名誉のために、みんなで鬼を退治したことにしたのは後の話。

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