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鏡顔(410字)毎週ショートショートnote

僕は嘘つきになった。からかわれ馬鹿にされ、笑われていても、そいつらに合わせてへらへら笑っている。悲しい自分の気持ちに嘘をついて笑っている。

不思議なことに死んだ母さんにもらった鏡を覗くとヘラヘラ笑っているはずの自分が涙を流してた。この鏡は、その人の本当の姿を映す鏡なのだろう。

うちの家族は貧乏だった。生活も楽ではなかったと思う。家族に隠れて真夜中に泣きながら母さんが鏡を見ていたのを知っている。でも、翌日になると笑顔で元気な母さんになっていた。

滑り止めの大学に受かった。笑顔のはずの顔が泣いている。

憧れの美人の先輩と付き合うことになった。僕みたいなダメなやつと付き合って、彼女が不幸にならないかと曇った顔をしていた。でも、鏡顔は、満面の笑顔だ。

子供も生まれた。
僕はいまだに出世できていない。それでも、鏡の中の僕は笑顔だ。
隠れて鏡を見ていたら、将来のことが不安だという彼女が鏡を覗き込んだ。鏡の中で僕たちは満面の笑顔だった。

『本作品はamazon kindleで出版される410字の毎週ショートショート~一周年記念~ へ掲載される事についてたらはかにさんと合意済です』


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