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ぶらり一人旅 文豪気分

 有馬温泉に行って文豪気取りで執筆する旅を文章にしてみた。
↓この企画である。

令和5年2月11日早朝、車のエンジンをかける。

車は、高速安定性と雪道最強の走破性を持つ三菱の四輪駆動車デリカD:5だ。

三菱自動車HP https://www.mitsubishi-motors.co.jp/lineup/delica_d5/special/outdoor_world/bravomountain/


過去に乗っていた車に比べると、いや、比べるまでもなく、別物だ。素晴らしい雪道走破性。ツルツルに凍っていてもパドルシフトのエンジンブレーキ併用で安全に止まることができる。

 四輪ともスタッドレスタイヤを履いているものの、チェーン規制も想定して、ギネス認定世界最速12秒で装着できるThuleのEasyfitを積んでいた。

世界最速で装着可能。慣れれば、10秒で装着できる。

そして、雪かきをするための道具

ここまで、装備しながら、雪に遭うことはなく、これらを使うことはなかった旅だったので安堵した。

目指すは、有馬温泉。
文豪のように、一人、ひなびた温泉宿に泊まりながら執筆するためだ。

島根県出雲市から高速に乗り、山陰道を通って鳥取県米子市へ。

そこから、米子道を通って、岡山県落合JCTへ。
さらに中国道を通って、福崎から播但道。
そして、姫路で、国道2号線へ

そして、明石だ。

ジュンク堂明石店の駐車場に車を止める。

そして、ジュンク堂明石店の中をうろつき、目的の本を見つけた。

THE TANPENS 二月号だ。

グルメ、ビジネス、ヘルスケアに加えて小説が掲載されている、神戸、明石のローカル総合カルチャー誌。

節分かバレンタインデーをテーマにと、私が執筆依頼を受けて書いた掌編小説「新しい物語の始まり」が掲載されている。

バレンタインデーをテーマに、最後の数行で世界がひっくり返る物語だ。

もちろん、献本はいただいた。
だが、自分で持っておくだけではなく、知人に配りたかったのだ(承認欲求)。

もちろん、通販という手もあるが、通り道だから。
そこで、数冊手に入れて、意気揚々と有馬温泉へと向かった。

到着したのは、有馬温泉の
有馬十二坊の一名を守る老舗旅館だ。

なぜ、ここを選んだのか。

気持ちよく一人旅をしたいものだが、どこの温泉も、ネットから予約しようとすると、基本、二人で泊まることを前提としている。

一人旅を前提にしていないのだ。

その点、ここは、一人で予約をすることを前提に申し込みフォームができていた。お一人でも、お二人でもどうぞというスタンスだ。古い温泉地は、まだまだ、一人旅に冷たい。簡単に選択できるようにして、二人分の宿泊料を取ればいいと思うのだが。

この傾向は、ちょっとした飲み屋でもよくあることだ。

私は、創作串揚げが好きだ。仕事で県外に出た時は、串揚げ屋で一杯飲みたい。

しかし、こういう店は、やはり二人組を前提にしているのだ。カウンター席に二人ずつを綺麗に並べていくことをよしとする。

岐阜の串揚げ屋に一人で入った時のことである。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「一人です」
「すみません。今日は予約でいっぱいです」

言っていて矛盾に気づかないのだろうか。開店早々で、全ての席に誰も座っていなかったが、おひとり様お断りということだ。悲しい気持ちで店を去る。

広島の店では、「一人」と言った途端に舌打ちをされた。

一方で、新宿立吉さんのような店もある。「一人」というと、すんなり、カウンター席に案内してくれた。

荷物と上着を膝の奥の位置にある荷物置きに押し込もうとすると、
「こちらの隣の席に置かれて大丈夫ですよ」と言ってくれる。
やはり、二人で座ることが前提なので、一人の時には隣の席は使ってもいいという判断だ。

涙が出てきそうになる。そうなると、酒をどんどん注文し、串も吐きそうなほど食べる。見事に二人分以上、飲んで食べた。

それほど、してあげたい気分になる。

話がズレたので、元に戻す。

受付で仲居さんを紹介されると、仲居さんが、私の頭の先から足の先まで見て「あらあら」と言ってから、名を名乗り、お辞儀をした。

普通の人には、この「あらあら」の意味がわからないだろうが、私には、予想がつく。いつものことだから。

案内された部屋は、悪くない。本来二人で泊まる部屋なのだろう。

「ちょっと待っていてくださいね。浴衣が小さいので、交換してきますね」
そう言って、クローゼットの中の浴衣を取り出して、仲居さんは、部屋を出た。

初見の「あらあら」は、ここに続くわけである。
「あらあら、お部屋の浴衣じゃサイズが…」ということである。

「お待たせしました。はい、どうぞ」
と言って、クローゼットの中に入れる。

そして、仲居さんはすぐにテレビをつけた。
「まあ、テレビでも見てくつろいでください」

笑顔で答えて、仲居さんが去るとテレビを消して、早速お風呂へとと考えた。

浴衣を見る。
「大」と書いてある。嫌な予感を覚えながら、着替えをすると、やはりだ。

いつも出してもらうのは「特大」と書いてある。今回は、「大」だ。浴衣は膝下までで、すね毛の生えたふくらはぎ部分が出ていてツンツルテン。

仕方がないので、そのまま部屋を出る。

ほぼチェックインが始まる時間だったので一番風呂だ。気持ちがいい。ゆったりと温泉に浸かっていると、書こうとしていたお題のプロットが浮かんでくる。

静かでリラックスできる空間は、私の好きな環境だ。

部屋に帰って、パソコンに文字を打ち込む。2時間ほど打ち込んで休憩だ。持ってきた小説をテーブルの上に積む。

一冊を手に取り、読んでいると声をかけられた。集中して読んでいたようでそれなりに時間が経っていた。

さっきの仲居さんだ。
「お食事をお持ちしました。あらあら、温泉に来てまでお勉強ですか?まあ、テレビでも見てくつろいでください」

仲居さんがテレビをつけるとニュースがやっていた。すかさず、チャンネルを変えると彼女は微笑んだ。バラエティ番組がやっていたのだ。

「こういう番組がいいですよね」とひとりごとを言う。
テレビがついていたらいいわけではない。バラエティ番組でなければダメなのだ。
そして、料理を次から次へと持ってくる。

吹き出しそうになった。ああ、この人はテレビっ子なんだと。老婆に対して、子というには、年齢的に無理があるが。
彼女にとっては、テレビこそが息抜きであり、娯楽のすべてなのだ。そして、すべての人がそうであると思い込んでいる。

こういう、思い込みが激しくて、その想いを口にする憎めないキャラって、小説に出しても面白いかなと思った。

「温泉に行ってくださいね。その間に布団を敷いておきますから」

言われるままに風呂へと向かう。

やはり、気持ちいい。


皆さんは老舗旅館に泊まる時に、準備するものがありますか。キーワードは「老舗」です。
私にはあります。それは、多めの靴下です。宿泊日数に合わせた靴下の数ではダメなのです。
たぶん。

それを確認するために部屋に入って確認する。やはりだ。見ただけでわかる小ささだった。

老舗旅館の布団は、昭和の大きさだ。昭和でも後期になると大きな布団が流行り出した。だから、明治、大正の大きさと言った方がいいかもしれない。

昔の布団は、押し入れに二列に綺麗に積める長さになっている。私が入ると足が出るのだ。だから、睡眠時用の靴下がいるのだ。

布団を横目に見ながら、また、部屋で小説を書いて、煮詰まったら風呂に入り気分転換をする。本当に効率がいいと思う。

温泉はいい。執筆にもってこいだ。

翌朝、朝食時に、仲居さんがテレビをつけたのはいうまでもない。

まあ、それは置いておいて、

こんな生活が一ヶ月くらいできたらいいなと思う旅だった。

ところが、どれくらいの期間かはわからないが、それが、現実になりそうな気配である。

入院だ。

右手が不自由な入院なので、どれだけ執筆できるのかわからないが。

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