『変な家2 〜11の間取り図〜』著:雨穴    ラストシーンの考察

『変な家2〜11の間取り図〜』著:雨穴

読了しました。前作の変な絵も面白かったですが今作もかなり楽しめました。後味の悪さが最高。

さて、最後まで読んだ方は同じ感想を抱くと思うのですが、この物語のオチはどうしても違和感を感じざるを得ない内容になっています。急な夢オチに困惑した方も多いのではないでしょうか。

おそらくこれはまだ本の中で語られていない内容があるという著者からのメッセージだと思います。あえて謎を残す事で読者に考察させようとしているのかなと感じました。

というわけで普段推理小説はまったく読まないながらもちょっと考察して行こうと思います。


●緋倉家の間取りについて

『資料4ネズミ捕りの家』で出てきた間取り図を見て真っ先に思ったことは「2階の部屋多くね?」でした。

早坂シオリの証言によると当時2階で暮らしていたのは祖母ヤエコと孫娘ミツコの2人だけ。だというのに部屋は合計で6つもあります。

本に出てくる間取り図はシオリの記憶を元に書き起こされたものなので部屋の使用用途が書いていませんが、仮にトイレの隣の部屋を浴室と考えてもまだ用途の分からない部屋が3部屋もあります。客間? 3つも要る?
『資料2闇をはぐくむ家』も2階に無駄に5部屋有りましたが、こちらはヒクラハウスが直接建てた家です。無駄な部屋を作る理由がありません。

更に言うとヤエコの部屋の出入り口の場所も少し変です。どうしてこんな廊下の奥まった場所に2人の部屋の出入り口を固めたのでしょうか? これに関してはおそらくですがヤエコとミツコに対する嫌がらせのためだと推測しました。

もともとこの家は利用価値の無くなったヤエコと両親に逆らったミツコを厄介払いする為に建てられたものです。間取りの全てが2人に対する悪意に満ちていると考えて間違いないでしょう。

わざとトイレの臭いが廊下の奥、ミツコの部屋とその手前のヤエコの部屋に籠るように設計されているんだと思います。闇をはぐくむ家にも似たような描写が有りましたね。シオリがヤエコの部屋に入った際の『ふわっと甘い匂いがしました。たぶん、お香を焚いていたんでしょうね』という記述も部屋に入ってくるトイレの臭いを低減させるためのものだったのではないでしょうか。

また、ミツコの部屋の隣にあるまるで双子の様に作られた部屋も謎です。普通に考えればミツコの兄である緋倉明永のものかと思えますが、前述した通りこの部屋の2階にはヤエコとミツコしか住んでいません。ならこの部屋は何か? 私は監視部屋だと推測しました。この部屋は全ての部屋の中で唯一ヤエコとミツコの部屋両方に隣接しています。厄介払いされた2人が変なことを企てないか監視するにはちょうどいい場所です。

たしか『資料10逃げられないアパート』にもまったく同じ間取りの二つの部屋を繋ぐ相互監視の窓が出てきました。ミツコの母は当時のことを思い出しながらこの部屋を設計したのかもしれません。

シオリが夜中に起きて部屋の奥にあるクローゼットの戸を開こうとした時背後から視線を感じたという描写があります。これはおそらく寝ていたミツコのものではなく、隣の部屋からこちらを覗く監視者のものだったんじゃないでしょうか。


●緋倉ミツコの思惑について

緋倉ミツコは自分の事を毒殺しようとした母に強い恐怖心を抱いていました。そしてこれは勝手な想像なのですが、同時に母に対して強い憎しみを抱いていたと思います。ミツコの母が自分に売春を強制させていた母ヤエコを恨んだように、ミツコもまた自分を殺そうとした母を恨んだのでしょう。

母に復讐してやりたい。けれど真っ向から逆らう勇気も無いし、この家は母の息がかかった者に監視されていて変な動きはとれない。そう思い悩んでいたミツコはある日どこからか緋倉家が祖母のヤエコを亡き者にしようとしている計画を耳にします。

緋倉家の考えた手順はこうです。父の命令でミツコがまずヤエコの義足を深夜に隠し、早朝トイレに立ったヤエコの頭を使用人が殴りつけて殺し、すぐに階段の下に引き摺り下ろし転落死を偽装する。義足を付けていなかったのは孫娘のミツコが悪戯で隠してしまったからだと警察には報告する。

ミツコは恐らく「祖母の義足を隠せ」という命令しか受けていなかったのでしょうが、聡い彼女はそれだけでこの計画の全貌を把握しました。あるいはどこかから情報を仕入れたのかもしれません。

その計画を知ったミツコは閃きます。この殺人事件の全容を緋倉家とはまったく関わりのない第三者に目撃させ、告発して貰えば母に対する復讐ができるのではないか。ミツコ自身で告発する勇気は無かったのでしょう。なにより『親子の証言は、裁判であまり有力な証拠にはならない』ですしね。

そして殺人を目撃する第三者として選ばれたのが、当時仲良くしていた早坂シオリでした。お互いの家にお泊り会をするという名目でシオリを家に招きます。どっちの家に先に泊まるかはじゃんけんで決めたらしいですが、これは勝っても負けても「私が負けたから私の家から」「私が勝ったから私の家から」という風に誘導したのだと思います。

そしていざ当日、早朝にトイレに起きる習慣のある祖母に合わせて練られた殺人計画を目撃させるためにミツコはシオリを「トランプで遊ぼうと」無理矢理起こします。ミツコは本当はタイミングを見て「いま外から変な音がしなかった?」と誘導してシオリを外に誘い出す予定でした。しかしシオリは尿意を催したと言い自分から部屋の外に出ていきました。運の良いことに丁度ヤエコと鉢合わせたようです。

ここまではほとんどミツコの思惑通りに進んでいました。しかし最後に誤算に発生します。シオリが「自分のせいかもしれない」という恐怖のあまり逃げ帰ってしまい、肝心の殺人現場を見ていなかったのです。

優しい祖母を犠牲にしてまでしようとした復讐が失敗し、ミツコはその後良心の呵責から家を飛び出し、介護士として生きていく事を決めました。

最後に著者にどこか歪で意味深な証言をしたのも、本人のいう通り「親に強制されておばあちゃんを殺してしまったことを悔やんでいて、だから罪滅ぼしのために、辛い環境に身を置いて健気に働いているんだ」と自分の潔白を主張したい気持ちと、自分の罪を誰かが暴いて罰してくれることを願う気持ちがせめぎ合った結果なのかもしれないですね。


●蛇足

それっぽく考察しましたが、1つだけまだ自分の中で納得のいっていない箇所があります。それはシオリがトイレから出たあと階段下をのぞき込むこともせずに真っ先にヤエコの部屋に向かったという証言です。
肩を貸さなかったとはいえシオリには罪はありません。それだけであそこまで思いつめるでしょうか? どうにも腑に落ちません。

そのことについて少し考えてみましたが、完全に考察ではなく想像になってしまったのでここからは蛇足になります。

おそらくシオリはトイレを出たあと『とても怖く辛い体験』をしたんだと思います。脳が勝手に怖い記憶を削除したせいで前後の記憶まで曖昧になってしまうという現象は『資料11一度だけ現れた部屋』でも語られていました。それと同じことが起きてしまったんじゃないかと。

では当時シオリが体験した『とても怖く辛い体験』とは何か? 完全に想像の域を出ないですがシオリはたぶん殺人現場を目撃してしまったんだと思います。トイレを出てすぐに階下を覗き込み、そこでヤエコを引きずる使用人と、それを黙って見ているミツコの父である緋倉正彦を目撃します。急な出来事にパニックを起こしたシオリは咄嗟にトイレから出てすぐの扉、ヤエコの部屋に逃げ込みます。

当然そこには逃げ場などありません。シオリはそこで正彦に性的暴行を受け、その一部始終を使用人に撮影されてしまいます。正彦はもともと11歳だった少女を抱いてミツコを身籠らせた小児性愛者です。シオリは当時中学1年生。12歳から13歳くらいでしょう。正彦の性癖を考えると十分あり得る展開だと思います。

そして「今日見たことを誰かに話したらこの写真を世間にばら撒く」と脅迫され家に帰されます。シオリは凄惨な殺人現場を目撃してしまった事や正彦に暴行された事が大きな心的外傷となり、脳からその記憶を消し去ってしまいました。もしかしたら娘のミツコもまた同様に正彦に暴行を受けていたのかもしれないですね。このへんの想像が全部あってたとしたらめちゃめちゃ後味悪いな??? バッドエンド大好き。



以上が拙い考察になります。多分間違っていると思います。ここまでこんな駄文を読んでくれた方、ありがとうございました。では。


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