仕切るべきか仕切らざるべきか:自衛隊を悩ます大問題の話

2006年2月に書いたブログ記事をここに再掲してみる。
http://www.h-yamaguchi.net/2006/02/post_f351.html

長いんだけど、自分では気に入ってる記事。今はどうなってるのかなあ。

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仕切るべきか仕切らざるべきか:自衛隊を悩ます大問題の話

議事録というのは、言い切ってしまうが、まずもって読まれることのほとんどない書面だ。書くほうも公開していながらあまり読まれることを想定していなかったりして、どっちもどっちという感があるわけだが、読んでみると案外面白かったりするのであなどれない。というわけで、ふだんまず読まないだろう議事録をちょっとつまみ食い的に読んでみる「議事録つまみ食い」。ひょっとしたらシリーズ化するかも。

今回つまみ食いするのは防衛庁の「人事関係施策等検討会議」の議事録。国を守る自衛官の皆さんだが、そこはやはり現代の組織。人事面でのいろいろなご苦労があるわけだ。それをどうしようか考えるのがこの会議。メンバーは以下の通り。

座長
・栗林忠男 慶應義塾大学名誉教授、東洋英和女学院大学国際社会学部教授

委員
・田辺邦子 弁護士 
・仮野忠男 政治ジャーナリスト 
・津久井建美 元空将補 元第11飛行教育団司令 
・桐村晋次 日本経営倫理学会理事、古河物流株式会社相談役 
・冨田稔 元1等海佐 元艦船補給処副処長 
・杉山隆男 作家 
・福田忠典 元陸将 元富士学校長 
(以上敬称略)

いやなかなか「濃い」メンバーだ。元自衛隊幹部の皆さんも入っているわけで、「近頃の若い者」に対するいらだちが露骨に現れたりもするのがまた面白い。発言した委員の名は特定されないかたちで記録されているのが残念。

会議は2003年10月から2005年7月までの間に10回開催されている。さまざまな議題が出ているわけだが、今回は、その中でも自衛隊にとってかなりの大問題らしい以下の3点に絞る。
(1)隊舎におけるパーティション問題
(2)自衛隊員の不祥事問題
(3)自衛隊員の借金問題

他にもあるにはあるんだが、「つまみ食い」だしまあいいか。(2)と(3)はともかく、(1)については「?」と思う人が多いだろう。実はこれが全体につながる大問題だったりするわけなのだ。失礼ながら、こういうことを大真面目に議論しているさまを想像すると、なんともおかしかったりするものがある。以下抜粋。

というわけで、スタート。

(1)隊舎におけるパーティション問題
自衛隊員が暮らす生活隊舎でも、最近はプライバシー確保の観点から間仕切りが置かれているらしい。それで隊員側はいいのだろうが、管理する側からは様子がわかりにくいというわけで問題視されている。「仕切るべきか仕切らざるべきか」ってわけだ。第1回人事関係施策等検討会議・フォローアップ会議合同会議議事録(平成15年10月8日)から。

○  委員:…この生活隊舎の問題ですね。陸上自衛隊なんか昔取材していきますと、…要するに中隊事務室のところに隊員たちが寝泊まりしている。ですから、中隊長もそうだし、幹部の自衛官、あるいは小隊陸曹とか、その辺の人がみんな隊員たちの行動をある程度把握していたわけですね。ところが、最近ここ4、5年くらいになって、生活隊舎ってのができて、完全に独立してしまいましたね。それで、この前ちょっと訪ねた駐屯地であったんですけれども、小隊陸曹とかもそうなんですけれども、なかなかその生活隊舎の方に行けないと、例えば、僕が生活隊舎に行ったときも、生活隊舎はまあ、別の建物ですから、中に入る際は土足が厳禁で、要するに革靴を一旦脱いで入っていきますね。そうすると小隊陸曹達が、一々そこで半長靴を脱がなければいけない、それが非常に大変で、なかなか若い隊員たちがいるところに入っていけないと、…

いやそれにしても、半長靴を脱ぐのがたいへんだから土足禁止の場所にはなかなか入れないっていうのはすごい理由だな。訓練じゃないときはふつうの靴を履いたら?とか思うのは素人考え、なんだろうか。以下、白熱した議論が続く。パーティションの話が出てくるのはこのあと。

○  委員:営内班に入っていくと、昔はほんとにベッドが並んでるだけでしたけれども、今はもう、パーテイションで隊員が何をやっているのかわからない。…パーテイションに隠れて、みんな、パソコンをやったり、テレビを見たりしているわけですから。昔は本当に、営内班の部屋にテレビが1台あって、ソファがあって、まあ、そこで、みんなでいるうちに、だいたい隊員の、いろんな悩みとか問題点を把握できたわけですけれども。今もう、パーテイションになって、ちょっとその部屋に入っていくのもはばかられる。しかも、その生活隊舎に入るのに、一々半長靴の問題もあります。…

いやこだわるね、半長靴に。よほどのこだわりがあるんだな。パーティションは、隊員たちとの「隔たり」を作ってしまう象徴的存在になっている。とはいえ、必ず「昔」の話が出てくるあたり、「自分のときはなかったのに」という恨みがましさも透けて見えたりして、なんだか微妙。それにしてもにっくきパーティションめ、といったところか。

○  空幕人事教育部長:自衛隊員に採用する時点、一般社会から入ってくる若い人達が「ひとりっ子」が多くなって、家庭で既に自分の部屋を与えられている。…そういう中で…、特に上級の曹なんかはですね、昔の団体生活がいい、団結心も芽生えるし、それから掌握もしやすいというんですけども、自衛隊に入る前の生活パターンと、自衛隊に入ってからのパターンを極端に変えますと、定着率に大きな影響が出てきますから、我々としても、我々のニーズに基づく隊員の居住の仕方と、彼らが自衛隊に入ってから極端な違和感が発生しないように、そのバランスの中で考えていかなきゃいけないんです。趣味そのものもパソコンとかなんとかですね、我々の世代が若い頃はですね、男はお金があったら、酒を飲むしか知恵がなかったものですから、団体行動を取ったんですが、今はそうじゃない。

「掌握」ね。考えてみるとたいへんな仕事だな。ふつうの会社で、これほど「掌握」しようとしたら人権侵害とかいわれちゃうんだろう。この人たちにかかると、パソコンよりも酒を飲むほうが「健全」な趣味にみえるんだろうな。とはいえ「定着率」に悩むさまは、先日お話を聞いた中小企業の社長さんと変わらない。歯がゆさが伝わってくる。

○  委員:…自衛隊は、若い人を採用する際にですね、これまではプライバシーを尊重するから、とにかく入って来いやという時代があって、隊舎や住まいに関して非常にプライバシーを尊重する時代がずっと続いたと聞いてますが、…上級者から見えなくなったと、つまり、下の人たちが何をしているか、見えなくなってしまった。本当のところ、自衛隊員にはプライバシーはないぞと、それを覚悟して入って来いという風に採用方針を切り替えていくとか、かなり本質的なところの議論をしとかないと、プライバシーだけが優先になってしまうと大きな改革にはならないと・・・
○  空幕人事教育部長:求人倍率が1を遙かに割っている時代と、求人倍率が高い時代と、全然、関係が違いますからね。

「最近の若い者は」論だ。まあ理想論だけでは埒があかないのはわかる。今は就職難だから多少厳しくしても大丈夫、というわけか。でも景気はもうだいぶ回復してる。大丈夫か?

○  統幕第1幕僚室長:我々は自衛官である前にですね、一般国民を育てないといけないんです。…今の若い子だって仕事は一生懸命にやるんですよ。だけど、自分だけの時間、自分を啓蒙する時間が欲しいといって個室を求めるんです。だから、そこも十分伸ばしてあげないと、立派な自衛官になっても、駄目な国民になったら困るわけですから。
○  委員:皆さんのように立派な自衛官が育っているではないですか。
○  委員:自衛隊に入ってくる人達っていうのは、ある程度集団生活を覚悟して入ってくるわけですね。…普通の企業に入るのとは、どこか動機が違うと思うのですね。あるいは心構えとか。だから、…やっぱり自衛隊は自衛隊らしい、自衛隊でなければ味わえない集団生活ってのが、若い人達にもあっていいと。逆にそれは、売り物にしてもいいのではないかと。

いや本当に、深い悩みが伝わってくる。仕切るべきか仕切らざるべきか。「立派な自衛官になっても、駄目な国民になったら困るわけですから」は名言だな。ただ全体として、ことばは硬いが、なんか縁側でおじいちゃんたちが集まってぼやいているような感じがしなくもない、といったらいいすぎか。つくづく、自衛隊ってたいへんなんだねぇ、と思う。

関連する話題が、第5回人事関係施策等検討会議・フォローアップ会議合同会議議事録(平成16年3月23日)にもある。こっちは携帯電話で、プライバシーつながり。 

○  委員:隊員の携帯電話の利用について、「面と向かって言えないこともメールを送ると読んでくれる」ということや、業務上の連絡をする際に非常に便利であるとのことでしたが、しかしデメリットも相当あるように感じました。
例えば、…「全員が持っているものではない」ということで、持っていない人についてはどうするのかといった問題がありますし、…面と向かってもっと話し合うべきだし、それができないから携帯電話を活用するということは、メリットを認めつつも、何か逃げている印象を拭えないと感じています。ここは思い切って携帯電話を持たせない、営外居住は結婚するまでは認めないということを言っても良いのではないでしょうか。…

すごい。携帯電話禁止なんて、言っちゃ悪いが中学生並みだ。まあ「戦場で写メール」なんてやられても確かに困るわけだが、それは会議室でメールはだめ、というのと同じレベルの社会常識ではないか。そもそも「業務上の連絡」ってまさか、作戦上の連絡を携帯電話で、なんてことがあったりするんだろうか。「撃てぇーっ!」って電話口でどなるとか?自衛官の上司と部下がメールで相談ごとというのとどっちがすごいだろうか。

で、自衛隊を悩ます大問題だったこのパーティション、その後なんと「パーティション反対派」の意見が通っちゃったらしいのだ。第9回人事関係施策等検討会議議事録(平成17年2月16日)をみるとこうある。

○  事務局: …陸上自衛隊及び海上自衛隊はパーテーションの撤去に取り組んでいます。…
○  海幕服務室:新営内制度として、指導態勢の強化として個室化していた営内を3人から4人部屋に移しております。また、海曹、海士が別々になっていたものを相部屋にいたしました。パーテーションにつきましも一部ものを除き撤去致しました。更に当直指導海曹を設けて16時半から立直させて服務指導に当たらせています。女性隊舎の当直については先任者に実施させており、各種先任伍長会報には女性隊舎長を参加させています。
次に懸案事項といたしましては、パーテーションを取り除いたことにより、ストレスが溜まり人間関係に軋轢が生じていること。また、当直による心理的圧迫があります。これは緩んだ営内生活に慣れたためものもあり、本来の姿が常識化すれば解消されものと見込んでいます。…
このように課題の多い新制度ではありますが、成果の具体例としましては、相部屋による階級意識の向上、規律厳守の意識向上、大部屋化に伴う営内者の仲間意識の向上であります。 …
○  海幕:これまでは、非常に狭い世界の中で、自分の世界をつくっていたと。テレビも見、ゲームもし、最近の若者的なですね。そのパーテーションがなくなったことで、自分だけのスペースがなくなると。…ただ、こういうのが常識だというふうになってくると、そういうストレスは収まるんだろうと考えています。 
○  委員:3人、4人で見られるテレビを設けてもいいんじゃないのかなと思います。 
○  海幕:それは、娯楽室というところで見られるようになっております。 
○  委員:営内で共同部屋で生活することから、いずれ自分が個室に移るという状況が、やっぱりある程度見えた方が、よいのではないかと思います。…営内にいなければいけないのは大体何年くらいなのでしょうか。…
○  委員:まぁ、何年か経てば、パーテーションのあるところに移ることができ、さらには外に出られますよというのは検討する余地があると思います。 
○  陸幕:今、陸が考えているのは、陸士の間、すなわち、最初の期間は、最低限は2年間、曹になるまでの期間は、パーテーションのない場所に住まわせると。…
○  委員:…私は緊急入院した時に個室に入れず大部屋に入れられたことがありますが、このときに、最初は環境になじめなくて全く眠れなかったのが、だんだん慣れてきて何日かたつと平気で眠れるようになったという経験があります。
ただ、病室はカーテンで仕切れたのですが、パーティションを取り除いた隊舎には仕切るものは何もないわけですよね。寝る時くらいはカーテンか何かで仕切れるようにするほうがよいのではないでしょうか。

なんかすごい世界。「何年か経てば」かぁ。女性隊舎の当直って、なんかラブコメとかのモチーフになりそう。共同テレビはともかく、せめて寝るところぐらいカーテンをつけてやったらどうだろう。ほら、若いんだし、いろいろあるじゃん?

というわけで、かなりすごいことがわかったのだが、他にも驚くべき状況がある。次に不祥事。

(2)自衛隊員の不祥事問題
自衛官の不祥事もいろいろある。新聞なんかで見たものもけっこうあるわけだが、改めて、これはいったい、と絶句するようなものがあったりする。まずは第3回人事関係施策等検討会議・フォローアップ会議合同会議議事録(平成15年12月17日)から。まずは陸自。

(陸自事例研究:覚せい剤事案) 
○  陸幕人計課長:陸自においては平成6~10年にかけて毎年1~4名程度の逮捕者がでていましたが、平成13年の2月、4月にまず海自において覚せい剤事案が発生し、全国的な報道がなされました。平成14年は1件、今年度1件の発生と、今のところ低位に推移しているところです。…
○  陸幕人事部長:ただ今の説明について、付け加えますと平成14年7月以降、採用試験時に薬物使用検査を実施しています。 …今のところ全員検査を実施している模様です。これは本人の同意を得て実施するもので、本人が拒否することも可能です。…

「全頭検査」、もとい「全員検査」だ。次に海自。

(海自事例研究:艦内飲酒事案)
○  海幕服務室長:艦内における酒類の使用につきましては、長期行動中の艦艇乗組員の士気高揚を目的として、米海軍においても規則を設け、許可されているところですが、…艦内における酒類の使用については、その目的を逸脱しないよう部内規定を設け、規律の維持に努めて参りました。このような中、…護衛艦「はるさめ」において、…許可された範囲の酒量を超えた飲酒、許可されている場所以外での飲酒などの他、残った酒を後日寝酒として飲酒した行為等があったことが判明いたしました。

護衛艦「はるさめ」ってなんかおいしそう、なんていっちゃいられない。それは一大事。して「許可」を超えた酒量とは?

○  統幕1室長:飲酒を許可する場合、その範囲を決めないと不明確な面が出てきますので、事前に酒の種類、量、時間及び場所について定めるようになっています。例えば缶ビール2本まで、と決められている場合、それ以上一滴でも飲めば規律違反であり、許可された日の酒を残しておいて、許可されていない日に寝るためにこっそり飲酒した者もやはり規律違反となる、という考え方です。 
○  海幕人教部長:「はるさめ」の艦長は、量を超えた飲酒があった。つまり2本まで許可されていたところ、残っていた1本を追加して3本飲んだということです。

…2本まで許可されたところを3本飲んだら不祥事って、そりゃあ、あんまりじゃないのか。2本飲んだら3本目に行きたくなるのは人情ではないか。2本だけど3本ぐらいならまあ目をつぶろうとか、そういう柔軟な対応をしてはくれないか。委員のうち誰1人としてそういう意見を述べた人はいなかった、というのもすごい。全国の酒飲みの皆さん、ぜひ弁護してやってくれ。とはいえ、泥酔して護衛艦を操舵されても困るんだけど。

次に空自。これはけっこうすごい。

(空自事例研究:沖縄爆発死亡事故事案) 
○  空幕人教部長:…53歳の空曹長が、民間の資材置き場において、爆発事故を起こし、死亡しました。 その後、警察の捜査により彼の自宅から米軍の物と思われる対戦車ロケット弾、ランチャー、小銃、実弾等多数の武器・弾薬類が発見されたもので、…。 
○  委員:…この空曹長はフリー・マーケットにおいて、少しビジネスをやっていたと思われますが、それは自衛隊員として許されるのですか。 …
○  人事教育局長:今はインターネットオークションといった形態もあり、どこまでが兼業禁止に触れるのか、これから基準を設定していかなければいけないのですが、例えば新しい物を購入した後、使い古した物をインターネットオークションに出す程度のものは許されるのではないかということもあり、難しい問題です。 
○  空幕人教部長:ご指摘の点はよくわかりますが、法律に触れるような物を、フリー・マーケットで展示していたとは考えにくく、やはり簡単には発見できなかったと思われます。 …

…絶句。自宅から対戦車ロケット弾、ランチャー、小銃、実弾等多数。対戦車ロケット弾!?「対戦車ロケットランチャー」ってたとえばこんなんだぜ。米軍のものだとしても、いったいどうやって。「新しい物を購入した後、使い古した」対戦車ロケットランチャーかよ。そんなのをフリマで売ってたら一大事だ。というか、軍の外部に流出したこと自体がおそるべき事態ではないか。テロリストさんには知られたくないなぁ。あと、フリマにはまっている公務員の皆さん、あまり目立つと副業とみなされるおそれがあるようだから、ご注意。

もちろんこんなすごいのばかりではなくて、第4回人事関係施策等検討会議議事録(平成16年1月22日 )に出てくるような、こんな情けないというか訳わかんないものもある。

(陸上自衛隊) 
○  …営内班長をしていた時に、班員である隊員が夜間に駐屯地内の施設に侵入し、設置してあった自動販売機を壊したうえで、その中の現金を窃取したという事案がありました。… その隊員は、普段はまじめで借金や飲酒など特に問題がない隊員でしたが、菓子類の摂取に貪欲で、それを常時買って飲食するうちに自分の給料だけでは足りなくなり、この事案を起こしたというのが経緯です。…

「菓子類の摂取に貪欲」って、金に困るほど摂取してたら、まず体型からわかるだろうに。しかしそれだけ食べるってすごい量だろうなぁ。いくら「ポテチ大人買い」とかいってもせいぜい10袋ぐらいだろうから1,000円ちょっと、月で3万円ぐらいか。月に10万円使うためには1日20~30袋。…そんなに食えねぇよ!そもそも「菓子類」って何だろう?スナック菓子、とかなんだろうか。それともチョコレート?いやいや意外にせんべいとかかりんとうなんかも考えられる。大穴で「都こんぶ」はどうだ?いやいや給料を使い果たすぐらいだから、アンリ・シャルパンティエのマドレーヌとか、ショコラティエ・エリカのトリュフとか、そのくらいでないと。もしや、虎屋の羊羹とか!?…というか、自動販売機を壊すぐらいなら、残飯とかを漁ったほうが栄養面では実り多かったのでは、などと思ったりも。

第9回人事関係施策等検討会議議事録(平成17年2月16日)で取り上げられたのは、けっこう凶悪ではあるんだが、どこか情けないような事件。

○  海幕:…本事案は、平成15年10月、平成16年1月、同年4月から10月頃にかけて、護衛艦たちかぜにおける暴行、私的制裁、恐喝及び規律の乱れがあったものでごさいます。…
…平成16年6月、後輩隊員にパンチパーマを強要し、従わなかったことを理由に、艦内において市販のガス銃によって市販のBB弾を身体に向け発射。…

「後輩隊員にパンチパーマを強要」っていったい。何のために。仲間がほしかったのだろうか。確かに動きやすそうではあるけど。そんなんで撃たれちゃかなわんなぁ。「究極の選択」だが、私なら撃たれるほうを選びたい。

ここで簡単に市販のガス銃・電動ガンについて説明させていただきます。 銃には銃器と呼ばれるエアガン、いわゆる空気銃と、玩具の銃として使うエアソフトガンと呼ばれる今回暴行で使用されたガス銃・電動ガン及びモデルガンがございます。 新聞報道等では、暴行に使用された銃はエアガンと報道されておりますが正確にはエアソフトガンに分類されております。

ここで海幕の人、こだわりをみせる。エアガンじゃなくてエアソフトガンだ、という主張だ。素人の印象的にはあまり変わりないわけだが、殺傷力のある銃器ではなくあくまで玩具だよ、ということか。確かに実弾を撃てる立場の自衛隊員にとって、BB弾なんて「玩具」でしかないんだろうな。そのエアソフトガンというのは、共同生活をしている隊舎においてあったのだろうか。いざというときに本物とまちがえちゃったりはしないのだろうか。…しないか。さらに罪状は続く。

次に、A海曹による恐喝ですが、平成16年1月の夜、艦内の通信室と呼ばれる部屋において内側からドアに鍵をかけて本人所有のCD-R70枚の購入を強要し、翌日その代金15万円を受領したということです。…

こりゃまた。いったい何のCD-Rだったのだろうか。CD-Rだからやっぱり音楽なんだろうなぁ。70枚で15万円。1枚平均2,143円。中古にしちゃ高いね。本人が録ったものなんだろうか。ひょっとして著作権法違反でもあったのか?それで1枚2千円強だったらけっこうしたたかだな。さらに続く罪状。

さらに平成16年夏頃からA海曹は停泊中の在艦日に、A海曹及びB海士所有のガス銃を使用し、個人対個人あるいはチームを組んでお互いに打ち合い勝ち残りを競うサバイバルゲームを20時から22時ごろまでの間に実施していたことが確認されております。 艦内においては、囲碁・将棋等の艦長が許可した遊戯は認められておりますがサバイバルゲームに関しては、その対象にはなっておりません。

艦内でサバイバルゲーム!?仕事を離れても訓練、なわけないね。しかも艦内で。いや、そりゃあ許可されてないだろうよ。しかし臨場感あるだろうね。「艦内に敵が侵入!撃退せよ」なんてやるのだろうか。こういうの、一般開放の際にサバイバルゲームファンの人にやらせたら、狂喜乱舞するだろうな。

○  委員:この隊員の入隊時期を確認したい。34歳ですよね。新聞で見ると。入隊は何年?
○  海幕:平成元年です。
○  委員:ちょうどこの時期は募集が極めて厳しい時期であったと思います。 本服務事故は、この募集の厳しい時期の募集要領、採用指針にも誘引があったのではないかと考えます。 採用の時点でよく精査されておれば、このような性格異常な隊員の採用は有り得なかったかもしれません。 自衛隊の教育は職業教育であり人間性の教育ではありません。 このような性格異常な隊員の指導には無理があると思われます。 非常に難しいことではありますが、募集、採用面でのドラスチックな改善が必要ではないかと思います。

ううむ。元から断たなきゃだめってわけか。しかし言い切ったね「人間性の教育ではありません」。パーティションを取り払おうという動きは「人間性の教育」の方向だと思っていたがちがったようだ。

○  海幕:ゲームに負けたら購入しないといけないといったことはないです。発想が幼稚でサバイバルゲームというよりむしろ戦争ごっこ、そういうことを2曹になってやるかと。
ルールを調べました。 4、5人でチームを組んで、又は個々人で撃ち合い3回打たれると負け。最後まで残ると勝ち。 終わると反省会をして、そこで勝った人はジュースを飲ませてもらえるということです。

ちゃんとルールまで調べる徹底ぶり。反省会までやるとは。けっこう「まじめ」じゃないか。勝利のジュースの味はまた格別だったにちがいない。好き好んでやりたがるぐらいなんだから、むしろちゃんと訓練に取り入れたら、なんてのは不謹慎だろうか。

かくして続く不祥事。全体で件数はどうなっているのかというと、第10回人事関係施策等検討会議合同会議議事録(平成17年7月27日)にとりまとめられた報告書の内容が紹介されている。

○  服務企画室長(説明者):…年度毎の懲戒処分の件数をとりまとめたものを公表します。 16年度の実績については、処分を受けた隊員は1,286人で、内訳は自衛官が1,229人、事務官等が57人であります。
…補足しますと、一般職国家公務員の数を出しておりましたが、一番多いのが郵政公社でございます。 ○  説明者:平成16年度は一般職全体で3,190名のうち郵政公社は2,669名を占めております。その次の法務省は118名です。

なんか微妙な争い。うちよりもあっちのほうが多いぞ、だって。しかし郵政公社は今度民営化されるからこの統計からはずれるだろう。すると防衛庁がダントツのトップ!というわけだ。さあどうする。

あと、郵政公社の次の法務局というのはいったい。法務局は全国にあるから人数も多いのだろうが、それにしても。懲戒処分っていったい何をしたんだろうね。不動産登記にからんで、とかいうと、けっこうこわいかも。

防衛庁に戻ると、ちなみにこの懲戒処分者、数はここ5年では若干微減傾向にあって、在職者全26万人に対して0.5%ぐらいにあたるらしい。一方、一般職公務員の処分者は平成16年度で3,190人、全体の0.48%にあたるとのこと。他とほとんど変わらないぞ、としっかりクギをさしてる。防衛庁の処分者のうち一番多いのは全体の36%を占める悪質な交通法規違反で465人、とのこと。

対策の決め手は!というあたりが第10回人事関係施策等検討会議合同会議議事録(平成17年7月27日)にとりまとめられた報告書の内容として紹介されている。

○  防衛庁副長官:…従来から実施しております不祥事防止施策を引き続き推進するとともに、服務指導と身上の把握、規律の強化を、これについては「優しい鬼軍曹」という言葉が本文に出てきますが、ちょっとうるさいけれども心のこもったうるささで、厳しい言葉の中に優しさがある、情けがある。こういう「優しい鬼軍曹」みたいな人たちに各駐屯地、部隊における中心として部下を指導してもらう。こういうことになりました。
○ 委員:…優しい鬼軍曹も必要であるのだけれども、優しいいじめが行われてはいけないわけです。

「こういうことになりました」そうだ。よかったね。しかし「優しい鬼軍曹」!!どんなだよ。「ないたあかおに」みたいなのだろうか。委員から「優しいいじめ」をする「鬼軍曹」では困る、とクギをさされてる。「優しい鬼軍曹」になれ、といわれてもどんなふうになればいいか、難しいだろうなぁ。

で、最後に、隊員の借金問題。こんなことまで気にするのかよ、と。なんだか自衛隊幹部の方々が気の毒で。

(3)自衛隊員の借金問題
自衛官の中には、借金問題で苦しんでいる人がけっこう多い、という話が、第2回人事関係施策等検討会議・フォローアップ会議合同会議議事録(平成15年11月6日)あたりからがんがん出てくる。

○自殺者数は、昨年度、3自衛隊あわせて78名です。…原因を残された遺書、メモ等で我々が推定したところ、基本的には「うつ病」といった精神的な病に罹っているために自殺のトリガーをひいてしまうというケースが多いことがわかっています。今の段階で我々が手を打てそうな原因というのは「借財」による自殺です。借財の原因も様々ありますが、主に遊興費欲しさのカードローンから始まって数百万円の借財を抱えるようになる。

自殺が1年間で78名。借金による自殺も多いと。さらに第5回人事関係施策等検討会議・フォローアップ会議合同会議議事録(平成16年3月23日)へと。

○  委員:…借財を理由とした自殺が非常に多いということがあり、借財をした場合どうしていいか分からないことが多い中、…そういう方法があるということを周知徹底すれば自殺という事態を防げたのではないか。法的な救済法を含めハウツー本を作ったら良いかと思われます。…
○  人事第1課長:…借財については庁全体で取り組むべき問題であり、借財対策のマニュアルを作成しております。内容としては、借財をしているということをどう掴むのか、掴んだ場合にどういう対応をするのか、自己破産などの救済策・専門家の協会の紹介となっております。 
○  人事教育局長:借財に関するマニュアルについて申し上げれば、一般的に借財を抱えている人が対応を考えているときに心の重荷で自殺したケースもあるらしく、自殺の問題・鬱病の問題もあるので、医者とチームを組んで注意深く対応しないといけないということです。…部隊の全員と言うよりは指導に当たる層向けの資料として作ったものであります。
○  空幕人事教育部長:借財問題の乗り切り方というのは様々あり、ご親族などが資産家であって返済が可能なケースなどでは、ギャンブル・異性関係など浪費の原因を根本的に改善しないと繰り返す場合があります。

「借財マニュアル」だって。「ご親族などが資産家であって」というのは生々しい。きっと実例があったんだろう。第6回人事関係施策等検討会議・フォローアップ会議合同会議議事録(平成16年4月23日)に続く。

○  海幕服務室長:…問題点としては、町の中の看板・メディア等を通じ容易に借金ができそうな社会環境、そしてこれを容認するがごとき風潮が隊員に少なからず影響を与えていることが問題であると認識しています。…また、自己破産等に至る重度の隊員につきましては、きちんと部隊等で指導すべきと考えていますが、遊興・浪費癖等の場合には、そこまで部隊でやる必要があるのか、ということも問題として抱えているのが現状であります。…

町中の看板のせいにするかよ。そうきたか。「いいえ世間に負けた」(古い)ってわけだ。

○  委員:新隊員の教育現場を訪問する機会がありましたが、…真っ先に何をするかというと全員の貯金通帳を作らせることであり、最初の給料日が来たら貯金させる態勢をとっていました。…
○  委員:社会人である以上、基本的には個人の問題であり、冷たい言い方をすれば借金が払えず辞めなければならなくても、組織としてそこまで責任を持ちきれないと思います。 「自衛隊に入れば借金を返す指導までしてくれるぞ」というのでは厄介であり、組織としては厳しくあるべきだと思います。 面倒をみるという姿勢も必要であるとは思いますが、普通の社会と同様、職務を遂行するうえで厳しくみなければならない場面も出てくるのだと思います。

最初に通帳を作らせて、なんて、なかなか「子供」みたいだな。ここで「貯金通帳」であって「預金通帳」でないことに注意。基地のあるような場所だと、なかなか銀行はないのだろう。郵便局ネットワークのすごさがうかがい知れるひとこと。「自衛隊に入れば借金を返す指導までしてくれるぞ」は確かにあんまりだと思うが、発想を逆転させて、これを売りに隊員募集をする、なんてどうだろう。…無理か。

読んでて思ったのだが、これらの問題はすべて、自衛隊という組織が他と比べてはるかに濃密な人間関係を前提としたものとなっているところに起因している。ふつうの企業とかなら、寮を相部屋に戻すなんて考えにくいし、借金返済の指導なんてのもこんなふうに取り組んだりはしないだろう。決め手は「優しい鬼軍曹」なんだろうが、何が「優しい鬼軍曹」の条件かは人によってちがう。ただ配置すればいいというものでもなかろう。組織としては、「鬼軍曹」たちをどのように教育・訓練していくかを考えていかないといけないのかもしれない。

「優しい鬼軍曹」たちの奮闘を期待しつつ。

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