ときめきと別れ
つい先日、キュン体験に切なさを伴う出来事があった。(「切キュン」と呼んでいる。)
今日は、30代ゲイの静かなときめきと切ない別れのお話。
年末に出会い系アプリでとある男性と知り合った。彼は、実家に帰省中ということで、普段はもっと遠くに住んでいる。
年末年始、GW、お盆、連休は、人の移動が多くなりアプリの景色が変わる時だ。ワンチャンいい出会いがあるのではないかと心を躍らせ、アプリを眺めるのがいつもより少し楽しい。
彼とは、何度かメッセージのやりとりをして、会う約束をした。彼は、リモートワークが中心ということで、しばらくは実家に滞在するとのこと。結局、うまく日にちが合わず、数週間後の華金に会うこととなった。
そしてあっという間に数週間が経ち、会う日を迎えた。
顔よし(薄い顔がタイプ)、身長よし(同じくらい)、雰囲気よし(優しそう)。あぁ、会えてよかったと思い、早速食事の場所を探した。
僕が以前行ったことのある居酒屋に行こうと思ったが、場所の記憶が曖昧だったため、他の店も探しながら繁華街をなんとなく歩く。こんな頼りないリードに怪訝な顔一つせず、明るい雰囲気で一緒に店を見て回った。
そして、なんとか目当ての居酒屋を見つけることができた。お互いの好きなものを適当に注文する。
この街のこと、実家のこと、仕事のこと、ゲイライフのこと、いろんな話題が絶え間なく続いた。彼の話もたくさんしてくれたし、僕の話にもよく耳を傾けてくれて、とにかく会話が楽しかった。
あぁ、この人と一緒にいると安心するなぁ。
そんな思いを抱きながら、気が付けばラストオーダー。下戸な僕を気遣って、支払いも多めにもってもらえた。そんな心配りにも温かさを感じる。
「おいしかったねぇ。」などと会話をしながら、続いてはゲイバーへ。アプリでメッセージをしていたときから、この街のゲイバーに行ってみようと話をしていたからだ。
結局、ゲイバーではなく、ミックスバー(店員さんがゲイで、お客さんは誰でもいいよってところ)に行くことになった。
入店すると早い時間ってのもあって、店子さん(スタッフ)しかいなかったた。
初めましての店だと、はじめに「どこに住んでいるの?」など、テンプレのような会話が一通り交わされるのだが、とんでもないことに、その店子さんとは一度お会いしたことがあったため、久々の再開に会話も弾み、思いの外、序盤からいい雰囲気が生まれた。
しばらくすると、ノンケのサラリーマン5人組が来店。実は、ミックスバーってのは初めてで、ゲイの店員さんと知っておきながら来店するノンケ男子が、何を考えているのかが不思議で驚いた。
ガランとしていた店内もノンケ5人衆によってカウンター席が埋まり、あっという間ににぎやかな雰囲気となった。
ゆったりと座っていた席を少し詰めて、彼との距離がぐんと縮まった。(ありがとう、ノンケ5人衆)
顔の距離が近い。
脚が当たる。
お酒の力もあり、このあたりからキュンとした気持ちが強くなった。
脚が当たると、なんとなく彼も押し当ててくるような気がした。定かではないが、脚に神経が通っている限り、気付かないことはないし、彼も意識しているのかもしれないと思った。
楽しい雰囲気にお酒もすすむ。
「ラムネ食べると悪酔いしないよ~」なんて教えてくれて、提供されたラムネをつまみながらグイっと飲む。
2杯目が空になった。いつもならここで終わりだ。
すると、彼が飲んでいたライチのお酒が飲みやすいとすすめてくれた。
「少し飲む?」
そんな言葉にキュンとする。だって間接チューじゃないか。
お言葉に甘えて少しいただくと、とても飲みやすくて、3杯目にトライすることにした。
場の楽しさにラムネ効果も相まってか、頭が痛くなることもなく、ふわふわとした心地よい気分に。
ほどなくしてカラオケが始まった。
近くに座っていたおっちゃんにすすめられ、みんなで回しながら歌うことになったのだが、僕はなんとなくしか歌えない。でも断れない。
そこで彼が、僕の耳元でガイドボーカルをしてくれた。
歌えない僕を助けてくれた。キュンだった。
お客さんはさらに増え、入店を断るほどの満席状態。会話がしづらいくらい音が大きくなり、彼との物理的距離がどんどん縮まる。
僕は過敏さをもっていることもあり、騒々しい雰囲気が苦手だった。ただ、彼が近くにいてくれているだけで、彼に包まれて守られているような感覚だった。
さすがに落ち着いていられない雰囲気になってきたので帰ることになった。この店を出たら、あとは駅まで歩いて帰るだけだ。
僕は、分かっていた。今日会って、どれだけよくっても、彼は彼の住む町に帰ってしまうということ。1カ月近く滞在した実家生活も終わりで、明日の新幹線で帰るとのこと。実は、僕と会うために帰るのを1週間遅らせてくれていた。嬉しかった。
「寒いねー。」と言いながら駅まで歩く。身も寒いが、別れが近いと思うと心も少々寒い。
僕の利用する路線の改札はすぐそこだった。でも彼の乗る路線は、もう少し歩く。彼の路線の近くにも別の出入り口があるため、一緒にそこまで歩くことにした。できるだけ長く一緒にいたかった。
あぁ、終わってしまう。
もう落ち着けなかった。華金の浮ついた繁華街の雰囲気とは反して、ただただ寂しかった。いや、正確に言えば、さっきまでは浮ついていたのだ。
歩きながら、少しでも彼の体に触れたかった。ふらふら歩きながら肘を当ててみる。感触が伝わる。彼が意識しているかは分からないが、男同士だから道端ではそのくらいのことしかできない。
いよいよ解散地点に着いた。
すると、「また会おうね。」と言って、僕の体をポンッと1回触ってくれた。切なさとキュンのダブルパンチだ。
もっと一緒にいたかった。
明日も明後日も会いたかった。
でも、帰ってしまうんだ。
新幹線で3時間。
また会いに行こうと思う。
きっと会いにいけば、切キュン確定なのだが。
久々にキュンとした。でも、切なかった。
それでも僕は、出会えてよかったと思った。
ときめきと別れ
それは振り幅が大きいほど、相互に作用するのだと分かった。
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