ポール・オースター『孤独の発明』

 物語は、恐らくオースター本人であろう語り部の父の死から始まる。父の遺品や、終の住処となった家を整理しながら、語り部は時系列を遡り、ついぞ掴み切れなかった父のその肖像を想像し始める。

そうした思索を尽くした末に、前章と言って良い『見えない人間の肖像』は終わる。 次に始まる『記憶の書』においては、語り部であり、恐らくオースターであろう彼が紙に過去の記憶について記述を開始する。

紙上にて、様々な人物や物語が回想される。不遇の音楽家、悲劇の詩人、聖書におけるヨナ、ピノキオの物語……転換は『千夜一夜物語』を記述する際に起こる。
部屋の中に閉じ籠る、主題としての「孤独の発明」が連想される人物たちの物語から、千夜一夜物語の回想がなされることで、この場面から『孤独の発明』が物語として入れ子構造の形を取るようになる。
千夜一夜物語の開始の構造と作品の構造そのものがリンクし、孤独の発明が物語としての構造をこの一点を柱として展開され始める。そうして作品は最後、何も書かれていない白紙へと導かれる……。

分かりづらいようで実は分かりやすく、面白いが参考にはならない。いつものオースターであり、一種の様式美であり、面白い。けれど、何も残らない……彼はいつもそういう作品を書くのである。

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