チャック・パラニューク『サバイバー』

 現代の読書家が映画『ファイト・クラブ』を観て、新版『ファイト・クラブ』を、そして新版『サバイバー』を読めるのは幸福なことだと思う。しかし私はそのような、幸福な読み方をしてこなかった……あまり悲しいこともない。何なら、半笑いかもしれない。

不幸な履歴とはつまり『ララバイ』を過去に読んでいることであり、チャック・パラニュークという作家の本質的な部分は寧ろ『ララバイ』で垣間見ることが可能な部分にこそあるように感じられる。

つまり私はこのチャック・パラニュークという作家のいわばマジックの種を知っている……が、それはさておき『サバイバー』は新版を出す・取り上げるに値する作品だったように思う。

小気味よい、リズミカルな言葉の応酬。嫌味だが『ファイト・クラブ』とは少し違う、無茶苦茶なことをしてしまうのに、強固な”弱さ”を隠せない主人公。アメリカの歴史の暗部、バイブルベルトと新宗教、ドゥームズデー・カルト……要素だけを並べればとてつもなく扇情的と言う他ない。
映画『ファイト・クラブ』を気に入ったならば新版『ファイト・クラブ』を。小説『ファイト・クラブ』が気に入ったならば『サバイバー』を読むというのは、確かに正しい方法だろう。
無論、真っ直ぐ過ぎるきらいはあるにせよ、この本を出す側が何故『サバイバー』を選んだのかが何となく理解出来るし、学生の子が少ないお金を振り絞ってこれを買って読んだら、一つの良い思い出になり得るだろう。……大人が買っても損はしない。面白いので。

……何であれ、良い本であるということだけは、私も保証する。

ここから先は新版『サバイバー』のムカつくポイント、そもそも論の話をするので、気になる人は購入してみて欲しい。

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