道だった場所、場所だった場所

朝5時にきっちり起きれた。
5時間も寝ていないので流石に寝覚めは良くなかったけど、一番遅れられないとこだったのでキビキビ動いた。
脳を早めにシャキッとさせるためにテレビつけたけど、NHKが天気予報やっている以外は全部TVショッピングだった。

意外と今までなかったけど、フロントまで降りても誰もいなかったので、鍵をなるべくフロント側に手を伸ばして置いて、そのまま失礼した。
基本的に誰かいるか鍵入れあるんだけどな、見逃したかな…

何も考えずに日の出見れたらいいな、とか思っていたけど、この時期の山がちな地形にそんなものあるわけなかった。
昨日と全く同じ真っ暗な印象の中、見えたファミマに入った。多分ここで何か買っておかないと、ピュレグミと携行薬しか食べるものがなくなってしまう。
かと言ってお腹が減っているわけでもないので、練乳フランスとレッドブルを買った。
絶対コーヒーだろ、と思いつつもレッドブルにしてしまったのは、お腹が減らないのでとりあえず炭酸で腹膨らませよう、コーヒー飲んだらおしっこ行きたくなっちゃう、このあとクソ歩くからエナジーを蓄えよう、といった理由。

始発の富山駅は少しだけ人がいて、あとは静まり返っていた。
古い車両で、ゴミ箱がついてたのでぱパンの袋をすてられたのがやたら嬉しかった。

猪谷に着く手前あたりからやっと空が白み始めた。
とは言っても山が高いので朝焼けが見えるとかはなく、ただゆっくりと空が黒から紺色に変わっていった。
無粋な気もするけど、本当にスパドン3の雪山ステージそのままで感動した。景色の美しさ儚さみたいなのって、幼少期のスパドンが情操教育として作用して好きになる、っていう相関絶対あると思うんだよな。

猪谷では割と乗り換え待ちがあって、駅前もフラフラできた。
ついた時にすでにいた列車が乗り換え先と思っていたらそうではなく、対向方面から列車がきた。
JRの会社を跨ぐのでそれもあるだろうけど、それ以上に雪かきしないと到底駅を通過できなさそうな積雪で、実質ホームが奥と手前で分かれて、2番線までなのに4箇所到着できる形になってきた。

乗り換えてから着くまでの間に、昨日の日記を書き終えておきたいと思ってなんとか走り書きで終わらせて、
そして今度はSwitch取り出して今から行く種蔵で何階回目かのちありとの別れを体験した。
何回やってもおかしくなりそうだよこれ…

程なくして坂上に到着。
何にもない途中駅かと思っていたが、何やら地域交流プラザのような施設と待合室が併設になっていた。

駅前に出ると縦に大きなJAの施設があり、役場なんか見えた。
が、そうはいってもまだ7時台で、しかもはちゃめちゃに雪の積もった中、誰かがいそうには見えなかった。
目的地の種蔵まではGoogleマップで1時間、俺は標準より早く歩くけど雪道も歩かなきゃだからプラマイゼロで想定していた。
そうだとすると、滞在できる時間は20分程度。
実際はもっと余裕持ちたいから、とにかく急ぎ目で歩いた。

歩いていると、この集落に棲んでいるのだろう、お婆さんとすれ違った。「おはようございます〜」と挨拶してもらったので、挨拶を返してそのまま進んでいった。
以降何人かこの辺りにお住まいだろう方とすれ違うが、全て挨拶したし、挨拶以上のことは何もなかった。

初めは融雪パイプの上をずっと歩いていたけれど、次第にそれもなくなり時たまスリップしつつ歩いていた。
ずっと左手に川面が見えていて、その対岸の山と相まって景色が素晴らしかった。
雪の中の種蔵はどんなだろう、というかそもそも誰かいるのか?宿に客がいないときはどうなってるんだろう、ちありみたいな子が、そうじゃなくて誰かと出会ったりしないかな…
とつらつら思いを巡らせつつ歩いていたら、どう見てもすれ違ってきた人たちよりは2、3回り年齢の若そうな女性の姿が見えた。

!?
ってなったな、そういう脳で来ているので、ここで話しかけたら√に入る…!と思った。
向こうもこちらの姿に気づいて、やはり!?という表情に見えた。どうやらお互いここが地元ではない同士だというのは直感的にわかったと思う。
けど、俺は急いで歩いているし、向こうは車を停めているその向こうに三脚を立てていて、お互い何かしに来ている(場所が場所なので当然だが)のを察知して、
一瞥くれる以外には何も起きなかった。

正味な話、旅先で出会った人と急に親密になろうとは思っていないけど、種蔵まで車で運んでくれる人が片道だけでも現れてくれないかなとはずっと思っていた。
時間に余裕がグッとできるし、歩道のない雪路を、横に車を通り過ぎさせながら行くのはシンプルに不安でもあった。
去年の夏に色々地元の人に連れてってもらった経験があるから、こう図々しい発想になっちゃうんだよな。

そのあと特に誰と出会うでもなく割と歩き始めて時間も経ったから、経過時間と残りの距離で、どのくらいで着きそうか計算しようと思い、スマホを見て、駅に着いてすぐとった写真の撮影時刻を確認していたら、
何か視界に異常を感じた。

今までずっと左に見えていた川が、視界の端から端に流れている。
目をやると川が目の前を横断していた。
ついた時に地図は確認しているが、10分ほど遅くなる迂回ルートでない限り、川は渡らないはずだった。

ちょっとして気づいた。
なんか冷静に考えられてるような気になっていたけど、
そもそもおかしいのは川を渡る渡らない以前に、橋がない。
川が見えちゃっている。橋がないんじゃない、道がないんだそもそも。

道が、無くなっていた。
意味がわからなかったけど、引き返さないといけないのは確定で、ここまでかかった時間20分強を考えるともう間に合わない事は分かった。

やっと落ち着いて周囲を見渡したら、本来進むべき道は、途切れた道の手前から、もっと右に曲がっていた。
雪で完全に埋まっていて気付かず、10歩ほど歩いたこの道は恐らく雪を川に捨てるためにできた部分だった。

積もった雪は背丈ほどあって、ちょっと掻き分ければレベルではなく、機械を使っても怪しいくらいに積もっていた。

動揺しつつも、仕方ないので引き返してまた歩き始めた。
まさか最初の目的地から行けないとは…
ずっと晴れていつつも粉雪がしんしんと舞っていて、景色と心境のマッチはこっちの方があるな、と思いつつ歩いた。
さっきいた女性は車ごといなくなっていた。

これで、送ってもらう等のイベントがなければもう種蔵に行けないのは確定した。
種蔵は冬季道路閉鎖で池ヶ原湿原に行けない今、唯一のお別れスポットでもあるからめちゃくちゃ行きたかったのにな…(岐阜はいつでも訪れられるからノーカン)

集落の住宅それぞれからは生活音が聞こえてくるんだけど、さすがに今から車で出る用事のある人はいなそうで、他に往来のある車は何か仕事っぽいものばかりだった。
そうこうしているうちに駅に戻り着いてしまったので、念のため迂回ルートの方で歩き始めてみたが、ほどなくしてそちらも歩道が雪で埋まっているのを確認できた。
車道の脇歩くのもできただろうけど、ちょっと歩きづらすぎるだろうし、どの道無理だったな…

道の選択次第では着いていた、という事もなくなり、これで踏ん切りついたのでちょっと役場の周辺をウロついた。
よくないことに、引き返すから早めの列車で移動できるとかもなく、次の列車がもう当初の予定通りのものなので時間がめちゃくちゃ余っていた。
仕方なく、1時間半駅の待合スペースで待つことにした。
駅に向かう道のゲートには観光地の看板?幕?がかかっていて、行きの向きでは気付かなかったが帰りの向きだと描かれているスポットが異なっているのを発見した。
種蔵集落と、池ヶ原湿原だった。マジで???

やたら大きい駅には2階のスペースがあり、何かと思ったら池ヶ原湿原の管理事務所?のようなものだった。当然誰もいなかったけど。
あとは公民館のような貸しスペースもあった。中見てみたかったな。

待合スペースには付近の小学生がまとめた地域研究と、漫画や小説が並んでいた。少女漫画系が多いから、きっと誰か女性が自分の本棚丸ごと寄贈したんだろうな。
柳田國男の全集とかもあった。

せめて楽しめの気分になりたかったので、その中らんま1/2を読んでいた。
設定は知っていたしキッズステーションでアニメを見た気もするけど、ちゃんと初めから読んだ事はなかった。めちゃくちゃ面白かった。すごいな…
設定もキャラも奇抜で秀逸、ギャグも面白ければ時折見せる恋愛要素も全然キュンとしちゃうし、あとめっちゃおっぱい見えるんだなこの頃の漫画。
とかく90分あっても退屈しなかった。

スペースにはエアコンがあったけどスイッチは見当たらず、結構寒いのが難点だった。
さっきまで歩いていたから汗が冷えてきて余計寒いし、鼻かんだり用たしたりのためにトイレに立つたび座布団が冷え切っていて、それもキツかったな。
暖をとる目的一個で駅から出て自販機で紅茶買ったりもした。とにかく寒かった。
4巻くらい読んだところでやっと列車が来る頃になったのでホームへ出た。
まさか作品の舞台へ訪れるために来た場所で別の作品読むことになるとはね…

列車のお尻の暖房がありがたすぎて、ずっとシバリングしつつ手をお尻の下に敷いていた。

さて、旅程は元の通りなので次は飛騨古川へ。
ヒヨ姉とかなりデートっぽくなってきたあたりの場所なのでそれはそれでワクワクした。駅前が待ち合わせ場所だし。

いざ着いてみて、本当に見た景色の通りで感動した。
あぁ…ここで…
って思うんだな、聖地巡礼すると。
別に見た景色の通りとはいえ、ヒヨ姉立ってたとこ雪積もってるし、駅に工事が入るらしくヘルメットつけた人が忙しそうに動いていて特別風情があるわけでもないんだけど。
それでも感動できるものなんだな…というのは発見だったし、今後の訪問地にも期待が持てた。

ここでの滞在は1時間ちょっと。
けど日陽√では2回も訪れる上にスポットが3,4つあるので回りきれないな…どこを選ぶか…と思っていた。

結論、回り切れた。
急いだとかでもなく。

○○めぐり、みたいな謳い文句って観光地でよく見るけど、いややらないだろ、ってくらい数が多かったり、パンフレットの地図ではすぐ周れそうでも遠かったり、そこに1日いるんじゃないと現実味のないものが多いと思っていた。
けど、飛騨古川の街は白壁土蔵と三寺がきゅっとまとまっていて、
それでいて鯉(いないけど)の水路や川に橋などフォトジェニックな場所も多く、
俺みたいに詰め込むタイプの旅行者には最高のスポットだった。
寺も大きくないから10分滞在すればじっくり味わえるし。

ところで今回、風雨来記に触発されて岐阜に来ているし、同じスポットを訪れるのが目的だけど、
なんというか、同じ写真を撮ることまでは目的としていない。
聖地巡礼って全く同じ構図の写真撮ってるのをよく見るけど、別にその事に特に意味は感じない。
行ってそこで本当にヒロインと出会えるならするけど(するのかよ)そうじゃないし、
自分が何を感じて、どこに行きたくなるかの方が重要だと思うので。
なので特にどこに何があるとかは調べてきていないし、調べず動いている。
だいたい雪景色だから同じところ訪れたとて景色は全然違うしね。
とはいえ彼女たちの不在を感じずにはいられないんだけど、とにかくそういうバランス。

それゆえ、三寺まわる順番は違っていたし、櫓の倉庫は橋を渡っていたらたまたま見つけた。
かなり風雨来記に依る訪問だとはいえ、観光をしていると自然に聖地の側面が顔を覗かすような感覚がしてそれも楽しかった。

三寺はどこも屋根に雪がたっぷり積もっていて、ヒヨ姉と訪れた時の趣とは全く違った風情があった。
前のカップルのお参りが長いからではなく、雪でこれ以上進めないから手前でお参りしたりもあった。

本当はうまい蕎麦屋があるらしくそこに行きたかったけど、まだ空いていないので断念した。
6時前にパン食べただけなのでめちゃくちゃお腹が減っていた。
一応空いてる喫茶店はあったけど、15分ほどで出なくちゃいけないのに入るのも忙しないし申し訳ないしでここでは諦めた。

予定の特急より少しだけ早く着く各駅に乗って、高山へ。
高山はやたらと綺麗な駅舎だった。

早めに着いたのは、食事したかったのと、バスが目的地に着いてくれるかバスセンターで確認するためだった。
今回旅程を組む中でどうしても入れたかったのが帰雲城址で、一応垂と一緒に来るけど、それより前、普通の√でプレイして訪れた時から、めちゃくちゃ惹かれるものがあった。
けど、ここの最寄りの保木脇バス停というのがどうにも分かりづらく、Googleマップだと存在しない事になっていたので、念のため存在するバス停から1時間歩く行程で考えていた。
電話で問い合わせたところバス停が存在するのは分かったけど、どの便がどう止まるかが時刻表からは何となく推察するしかなくて(ナビタイムではちゃんと出てくるけど、なんとなくナビタイムって信用できない)、そもそもコロナによる減便とか運休、そもそもの廃線とかそういうイレギュラーって現地で気づくことが多いから、もうその日に言質を取るしかないと思っていた。

で、窓口で従業員用のファイルみたいなのを見せてもらってやっと安心できたので、併設のコンビニで笹の葉寿司と柿の葉寿司、サイダーを買ってバス列に並んだ。

やっと安心できたタイミングでふと別の大変な事に気付いた。
カメラのSDを買っていない。

さっき坂上で、時間余ってるし…とカメラを取り出した際、
「デモモード」
と出てきて???となった。
何のタイミングでかは思い出せないけど、SDカードを抜いたまま来てしまったらしい。
(日記書きながら、写真の現像だ…と気付いた)
毎旅行何か一つは忘れ物をするけど、今回はこれだった。
このままではカメラが、一瞬を切り取りはするけれど切り取ったらすぐ捨てちゃう、はかないだけの機械になってしまう。
本当は飛騨古川で買えばよかったけどコンビニ含めそれらしき店がなかった。探してないだけだけど。街の電気屋には入りづらいし。

それを忘れたままバス列に並んでいたのだ。
後ろに列も伸びてきてる頃でもったいなかったが、背に腹は変えられないので列を抜けて駅前のファミマに入った。
この前、コンビニに湿布は意外と売っていない、という知識を得たばかりだったので、無いかも…!と思っていたがちゃんと探したらあった。
せっかく買ったけど入らない!みたいなアクシデントが怖すぎて、商品をカード口にあてて確かめたりしていて、店員に怪訝な顔をされたが、無事に購入でき、バス列に戻った。

特にそのせいで通路側になってしまうとかもなく、カメラにカード入れて試し撮りして、
揺れの中気をつけて寿司食べて(飛騨牛の牛しぐれと山菜の寿司、声が出るくらい美味かった)、めちゃ美味しくて当たりだったサイダー飲んだり、
あとは疲れもあったので少し寝ていた。アイマスク持ってきておいて正解だったな。

小一時間でバスは白川郷に着いた。帰雲城址はこの先にあるので座っていたら、自分以外の乗客は綺麗〜に全員降りていった。
ダムだけの御母衣はまだしも、平瀬温泉とかもっと行っても良さそうなのに。

しばらくの停車時間のうち、デカい高速バス用の車体は俺一人だけを運んで動き出した。
道はずっとどう見ても歩道なんてなく、ここ歩いて移動してたら相当キツかっただろうな…と思った。

しばらくすると、お、あれか…?といった山が見えてきた。
積雪で見え方は全然違ったけど、それでも山の中に異質な部分が存在感を放っていた。
チラッと雪に埋もれた看板が見えて、着いた!と思ってからちょっと行った先がバス停だった。
通り過ぎられるんじゃないかと一瞬ヒヤッとした。

向かいのバス停で確認したところ、滞在時間30分ちょっとで帰りのバスが来るようだった。
とりあえず白川郷にいればどうとでもなるだろうけど、この情報の少ない支線にいたのでは不安すぎるので、30分ですぐ戻ろうと決めた。

車しか通さぬ!と言ってるような無骨な道の端を歩いて、石豆腐屋に惹かれつつ看板まで着いた。

雪がうず高く積もってて入口がわからず、とりあえず雪のなくなっていた、除雪車両の車庫への道へ入った。
しかし、少し高いところから見ても、石碑や観音様は見えるけどその付近に雪の減ってそうな場所がない。
道まで戻り、看板の奥まで歩いたけどやはり無い。

信じがたいけど、帰雲城址はまるまる雪の中に埋まっていた。

正確にいうと帰雲城址を眺める事ができ、そのあらましについて書かれている石碑のあるスポットが、埋まっていた。
やはり背丈ほどの雪が奥まで続いていて、綺麗な雪面だった。
そもそも見たかったのは帰雲山のなので、お目当てのものは見られた。
あそこの山肌が崩落して、城が落ちたんだな…という感慨に耽る事もできたし、
あの山肌に当たって雲が帰っていくわけね…と名前の由来に想いを馳せる事もできた。

けどやはり、何か物足りないというか、これでは近くに来ただけ、バスから眺めが見えたのとあまり達成感が変わらない。

どうしようかモジモジしつつ石碑の方に目をやると、うっすらではあるが、雪面に起伏があるのが分かった。
推測の域を出ないけど、これは以前雪が積もった時よりも前に、誰かが雪の上を歩いて石碑の方に向かっていった足跡なんじゃないか、と考えた。 
なら…なら多分、俺も行けるな、と思い、アスファルトの濡れてない部分に荷物を置いて、カメラだけ担いで雪の壁に足差し込んで雪面に立った。

一歩進むたびにめっちゃ沈み込み、引っこ抜いてまた沈み込んで、と歩いていたが、これ、下に何があるか分からないからめちゃくちゃ怖い。
たまに他より深く沈む時とかどこまで落ちるか分からない。一瞬本気でもう帰ろうかとも思った。次こそ底なしに落ちていくんじゃないかという恐怖。
地雷原にいるとこういう感覚なんじゃないか。バラエティで喩えようと思ったけど適当な例がなかった。
身動き取れなくなったらどうしよう…俺も込みの石碑になってしまう…とか思いつつも、なんとか観音様の御尊顔を正面から拝めるとこまで来れた。
望遠レンズ使ったりいろいろと撮りたいだけ写真も撮れたので、引き返した。
帰りは既に自分が踏み固めた穴があるから怖くないし早かった。

保木脇から白川郷のある荻町に帰るバスが、さっき俺をここまで運んだ便がそのまま折り返してくるので、それに乗って帰った。
正味30分程度の滞在だったけど全然心細かったし、かつ山やここで城が落ちたという事実には圧倒されるものがあったし、濃密な体験だった。
で、このバスが直で高山まで行かず、荻町からバスが出るのは1時間後と時間が余ったので、白川郷を散策した。

時間が余ったから白川郷に行く、というこの事実がなんかオツなもんだな~と内心でほかの観光客に優越感を感じつつ、歩いて回った。
当然その屋根のつくりや家の迫力はすごいんだけど、割ともれなく中身が何かの施設だったのには驚いたし、同時に少し興ざめでもあった。
屋根見たら文化遺産でも、入口に目を向けると浅草ぐらい節操なく「JAPAN OMIYAGE!!」みたいな感じだった(souvenirと書いてあっただろうけど)し、鬼滅グッズとか映えスイーツとか、結構何でもありだった。
観光地である以上そうやって儲けなきゃいけないんだろうけど、なんかね…
プラス、合掌づくり集落といってもその形の家ばかり立ち並んでるわけではなく、わりとまばらだったのも意外だった。もっとこれしかない場所だと思っていたな。
そういうわけで、俺個人の主観では、少しがっかり感があった。
がっかり観光地、みたいなラベリングは大嫌いだけど。実は生で見るとそんな可愛くない!?女優5選!なんて記事誰も書かないだろ、場所になら何してもいいと思ってる?

とはいえ普通の家とは比べ物にならない大きさと風情なので、ついでに訪れられた満足感はかなり大きかった。
観光客もかなり多くて、特に家族連れや外国人が多かった。
一人なのは本当に俺くらいで、風雨来記的な展開を願って一人で来ている女性はいないものかと思っていたがついにいなかった。
へそ出しの女性はいたけどギャル二人組で、めちゃくちゃパステルカラーだった。そんなのはヒヨ姉ではないんだっ…!

この日は雪景色ながら天気のいい、写真を撮るのに絶好の日で、動き回っていたら熱くなってきたのでアイス買って合掌づくりのその茅葺の軒先で食べた。
本当は五平餅食べたかったんだけどなぜか店員がいなかったので。
行き交う人もたいてい何か一つ食べ物持って歩いていたな、かなり奥地なはずなのに、観光地っぽい観光地は作れるんだな~

まだバスの出発まで25分ほどあるのにその地区は歩き終えてしまい、暇つぶしに食事処に入ることにした。
今日は晩飯も遅い予定だし、軽く蕎麦一杯くらいなら食べきれるだろうと思ってだったが、思ってたより待たされてしまった。
冷やし田楽(200円)だけ頼めば…と思ったが時間かけて席用意させて、こいつ冷ややっこだけ食って帰んの??と思われたくなくてざるそばも頼んだ。

注文の速さで前の学生グループ客を抜き去ったので割と早めに出してもらえた。
保木脇の近くでも売っていたけど、この辺の豆腐は「石豆腐」といって縄で縛って運べるくらい硬いらしい。
当然それ目当てで冷やし田楽頼んだんだけど、これがのけ反るくらい美味しかった!!!
硬いのにまろやかなんだよな、石豆腐は硬さとなめらかさ二つの性質を併せ持つ…♡(グルメヒソカ)
熱かったのでざるそばも普通に美味しかった。難癖レベルだけどなんか海苔が食べ合わせとか気分的に邪魔な気がして、もりそばがあればもりそばがよかったな。
急いだおかげでさっさと食べ終わったので、隣の席に来た、さっき見たへそギャルを尻目に店を出た。

バスターミナルは人でごった返していて、全然乗り切れなかったのでバスがもう1便出た。
そのもう1便に乗りながら、今日のこれからと明日の予定を決めにかかった。
というのも保木脇バス停が使えない、存在しなかったときのためにかなり余裕をもって旅程組んでいたので、予定より1時間以上早く高山に戻れることになった。
どういう予定になってもいいように今晩以降の宿をとっていなかったのでまずはそこから決めようと、美濃市や関市で宿を探したけど、良いのがなかったり直前過ぎてダメだったりで、結局美濃太田のビジホをとって、ついでに明日の岐阜のホテルも取った。
このご時世じゃなかったらもう少しどのホテルも直前まで粘ってくれると思うんだけどな~

でもって高山に到着。
まだ日の出てるうちに着けたので、飛騨東照宮に行くことにした。
荷物を背負っての移動に相当嫌気がさしていたので、コインロッカーに荷物を入れて駅の反対側へ向かい、急ぎ目で歩いた。
小一時間後に出る列車で美濃太田に行けば、20時より前、まだ飲食店もやってそうな時間帯に着けるのでそういう予定だった。

で、パチンコ店やショッピングモールを抜けて飛騨東照宮に到着。
…したはいいものの、入口が見つからなかった。
確かに鳥居はそこに見えているのにどこから行けばいいんだ?というかこの感覚どこかであったような…?
どこかも何も、帰雲城址である。飛騨東照宮も雪で埋もれてどこから入ればいいかわからん状態だった。
けど、帰雲城址みたく間違った方向に進むと庄川に転落、なんて事はない立地だし、さっきので慣れているので今回はずかずかと踏み入っていき、階段とかもおよその検討を付けて登って行った。
階段なのに登山の感覚になれるのこういう場合以外無いだろうな。

登り切って分かったけど、脇にあった車が通る用の道ならここまで雪のない道をすんなり来れるようになっていた。

さて、風雨来記で来ていたから知っていたけど、ここには神域で立ち入り禁止のスペースがある。
いざ賽銭箱の前に立つと神域へ立ち入らないようにする縄の向こうに階段があり、その頂上からわずかに本殿が見えた。
まわりを木々に囲まれていて、いかにも神域、といった佇まいが一瞬でさっきパチンコ店を通り過ぎてきたことを忘れさせた。
後ろを向けば高山の市街地なのに、四方すべてを神域に囲まれたような、そんな感覚がした。
見た目には素朴なのに、「立ち入ってはいけない」という情報が持つ力でこんなにも…

話を風雨来記に戻すと、俺が今回訪れるスポットは、風雨来記軸で2つに分けられる。ヒロインと来る場所のみ選んでいるから千尋1人で来る場所かどうかではない。ヒロインとの思い出の性質によって分かれる。
つまり、重要なシーンがあるか、そうでないか。
その場所固有の立ち絵の有無といってもいいかもしれない。たいていそれがあると、シナリオの中でも特に心に刺さった場所だ。
で、種蔵が雪で閉ざされてしまった今、飛騨東照宮が最初のそのスポットになる。日陽の過去の吐露、恋仲のはじまり…

本殿の方に上っていく道も雪道で、本当にこっちで合っているのか?という気持ちになるんだけど、ふと急に、道が折れて林の中に入っていく。
木々の隙間から朱塗りの社が見える中、記憶がグワッとよみがえった。ここで日陽は立ち止まって……。
道は長いから、ピンポイントここだ!というアングルが分かったわけではないけれど、日陽と二人で降りてきて、その途中立ち止まった日陽に気づいて振り返った千尋のその視界が、雪に覆われた参道でもはっきりと分かった。
どんな史跡のどんな「かつて○○もここを通り…」よりも、「ここを2人が、日陽が通ったんだ…」という確かな感覚があってしばらく立ち止まってその感覚の余韻に浸っていた。
東京を発つ前の日記に書いた通り、現地を訪れたら俺は「でも本当には日陽はここにはいないんだ…」という不在が切なく感じられるだろうと思っていた。
けれど、風雨来記での体験はそんな程度では済まされないようで、むしろ本当にいたような、実在をめちゃくちゃに感じてしまった。

正直、ここまで日陽の存在は飛騨古川の駅前で少し感じたくらいで、三寺は、日陽も来てたらしいしな~くらいの、他人事な浅い感覚だった。
やはり、エピソードが持つ重み、プレイしたときの、心にくさびを打ち込まれたあの感じが、感情の引き金になっているんだな…
完全に、風雨来記をプレイせずにここに来たのとでは全く違う感傷が、ここにはあった。

本殿にたどり着くと、その地味で無骨な見た目がむしろ雪や寒々しい木々と相まって、ものすごく崇高なものに見えた。
かしこまって看板の説明をくまなく読んで、参拝したあとは、自分もずっとそこに佇んでいた。
割と高台にあるので飛騨高山の街と、さらに遠く向こうには日本アルプスの山々が見えた。
日はもう落ちかけており、街は薄暗く、遠くの山々だけが夕日に照らされてほの赤く染まっていた。
たまに風が吹くと木の上に積もっていた雪がわずかに舞うのが幻想的で、街が見えているのに今自分は神域側にいる、異質な場所に立っている感じが際立ってえもいわれぬ居心地だった。唯一街の景色が見える場所が、雪で立ち入れない階段上だったので、視界には下に降りる道が見えない事も、余計に自分の今いる場所と街との隔絶を印象付けていた。
予定の列車に乗るならそろそろ出ないといけない時刻だったが、どうしても急いで立ち去るような気にはなれず、満足するまでずっとそこに立って街を眺めていた。
17時になると「家路」が流れてきて、そのまったりした音色もどこか奥ゆかしい感じがした。まあ異郷で聴く5時の鐘ってなんであってもたまらんけど。

薄暗くなるまでそこにいたが、その間に3組くらい、車でさっと訪れて、下の賽銭箱のとこから柏手を打ってお参りする人の姿が見えた。
割と業務的に済ませて帰ってはいくものの、わざわざここ来てはいる。
ここの神秘性は、信仰の成せるものなんだろう。

すごく名残惜しい気がしたが、さすがにそろそろ、と思い来た道を戻った。
来た道を戻る方が、千尋と日陽的には正規のルートになる。
木々の合間をゆっくり歩いていると、神聖な場所から元の街に戻っていく寂しさが染みわたって、「そりゃあ何もかもさらけ出したくなるよな…」と思えてきた。
誰かに弱みを見せて、それを全部受け止めてほしい感情が、自分にも切に思われた。だからずっと本殿の前を離れられなかったのかもしれない。

そのうち、夏にもまた来なきゃな~と思った。重苦しい、雪と夕暮れの中ではなく、新緑と木漏れ日の中、ここに立った時の感覚を味わってみたい。
それでもやはり感傷に浸ってしまうのか、気持ちよさで心が前向きになるのか、自分のリアクションがすごく気になる。

境内を出て5分も歩けば国道に出る。
一気に還俗した景色の中、中途半端に時間が余っているのに気付いた。
ダッシュじゃないと早い列車には間に合わないのでそれはあきらめて、ローカルなショッピングモール(ピュア高山)に入って中をぶらついて時間をつぶした。
テレビが置いてある休憩スペースでは、おばあさん二人がカーリングの観戦をしていて、良いものが見れたな…と思った。
等身大の生活が観測できるから、ショッピングモールはやめられない。

それでもなお時間が余っていて、地元のスイーツ店の電光掲示板を撮ったり(ドラゴンプリン)、通りかかったボウリング場で1ゲームやろうかと真剣に悩んだり、ふらふらしつつ駅に戻った。

白川郷でもバスセンターでも見かけたさるぼぼが欲しかったので、買いに土産屋に行ったらなぜかどれも安かった。
こういうのって値段釣りあげておくものだと思ったけど、小さいやつが100円で、特大で6000円だった。
ディズニーがおかしいだけか。
昨日、お酒はもう飲まないぜ!と思っていたのに、ちょくちょく見かけたどぶろくが気になって買ってしまった。
ついでに朝用の牛乳とコーヒー牛乳、お茶を買って、全部同じ袋に入れてさるぼぼに肩身の狭い思いをさせつつ駅へ向かった。

特急に乗るのでせっかくだからグリーン車に乗車。
シートピッチがえらく広いのでかなり快適だった。
しっかり窓枠もそれに合わせていて、ワイドビューの名に恥じない良い車両だった。
真っ暗で車窓ももう見えないので、持ってきていたiPadでちょっと仕事をしたあと、ブログ書いて過ごした。

美濃太田は駅前にホテルがある以外に何もない駅だった。
駅からの通りの街路樹にイルミネーションが点いていたけど、本当になぜつけたのか分からないクオリティで、しかもそれ以外に明るいものがほぼなくて、駅前全体がわざとかってくらい変にチープで異質だった。
路地を一本入ると昔ながらの飲み屋の集合施設がいくつかあり、普段通りならものすごくレトロさのある良い風景なんだろうけど、コロナで何もかもしまっていて、コインランドリーだけが明るかった。
泊まったホテルもエレベーターの張り紙を見るに1階のテナントは飲食店がたくさんあるはずなので、相当さびれているように見えるタイミングで来てしまったな。

フロントでチェックイン済ませて、仕方がないのでどぶろくを楽しむためのコンビニ飯、とすることにした。
そのコンビニもやたら遠かった。
食べすぎだよな…と思いつつ5品も買って、ベストワンをテレビで見つつ、MリーグをiPadで見つつ、という殿様のようなもてなし(セルフ)で、結局全部食べた。
どぶろくは甘くておいしいんだけど度数は高いので、食べすぎ気味なのも手伝ってもう一歩も動きたくないぜ、という気持ちになってしばらく何もせず座っていた。
コンビニで地場商品の小倉マーガリンアイス買ってたのを思い出し、それ食べながら後輩にNOROSHIおめでとうラインを送ったりして過ごし、限界が来てしまう前に風呂に入って布団に入った。

明日も始発だし、今日は雪で中断したけど明日こそ1時間ウォークの往復が発生するはず。
昨日よりは1時間出発は遅いし、とにかく体力を回復させないと、2度の雪中行軍で足が悲鳴を上げている。

そういえば、美濃加茂市まで出てくると、飛騨のように雪が積もってるってことはなくなったな。
飛騨東照宮の感傷に浸っていて気づかなかったけど、もう飛騨には行かないんだよな今回…
さらに言えば、高山本線は完乗、あの辺は私鉄もないので、もう用事がないともいえる。
今まで旅行の最中は次の目的地、次の目的地と楽しみにする気持ちを連続させていたけれど、今回は本当に行く場所行く場所で後ろ髪をひかれて切ない気持ちになる。
自分がそこを発つことが、ヒロインと別れたあと、一人で出発するときの感情に重なるからだろうな…

また訪れる理由はいくらでもある。季節が、天気が、催しが違うときに来ればいい。またその時にはその時の姿が見られて、新鮮な感動ができるだろう。
けど、他に行きたい場所より優先させるかといわれると、話は別だ。
できる事なら、訪れる場所それぞれの、四季を天気を全部感じたいのに。47都道府県の4倍の2倍(晴れとそれ以外)か…。
どうにも、千尋のように旅を仕事にするしかない気がしてきてしまうね
自分が行った場所が後から風雨来記の舞台になる経験もしてみたいしな…

そういえば、東照宮で手を合わせた時も「こういう旅行がたくさんできますように」と願ってたな自分。

結局今日は日陽にまつわる場所しか訪れず、日陽の事しか考えられず寝られない時間帯があったが、
こういう旅行がたくさんしたいならひとまずは明日を充実させなくては、と強く念じてなんとか寝られた。

しかし今日は、何かと雪に阻まれる日だった。
雪は他の天気とはわけが違う。その場所を完全に変えてしまう。
道は無くなるし、場所は色合いが激変して、訪れる人の視点も行路も変える。
結局俺は、雪がない時の坂上からの道も帰雲城址も飛騨東照宮も知らぬままだ。
けれど、全国どこもかしこも雪バージョンと普通バージョンを体感できる訳じゃないだろう。全ての場所に2度訪れるなんてそうそうできない。
なら俺は、今回の方を体験できて良かったなと思う。
それは風雨来記で別パターンを知れているからでもあり、
シンプルに雪の中訪れたこの経験が、今はとても愛おしく感じるからでもある。
まとめると、行けてよかったと、それだけなのだが。
それだけの事をしみじみ思ってしまう1日目だった。

皮算用:済