はなにあらしのたとえもあるぞ

こちらは2024年5月1日開催の平沢進によるライブ『HYBRID PHONON 2566+』2日目昼公演のレポ? みたいなものです。あまり体裁を考えていないので雑記に近いです。↓


現地でライブ観たのに、これから配信観るワクワクが凄い。あれを今からヘビロテできるのはさすがに贅沢すぎるGWと言わざるを得ない。

配信をゆっくり見ながらここにメモを記します。当時の感想を思い出しながら

あと僕は、音楽と平沢進の知識はほぼありません


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0.語り

平沢進についての情報を極力絶って今回のライブに臨んだけど、正直楽しめるか不安でした。映画『パプリカ』挿入歌をはじめ比較的有名な楽曲から受ける印象といえば「謎」「意味不明」「混乱」と、いずれも良いとも悪いともつかない感想を抱いていて、せっかくライブに来たのに何も得られない・思えないでは損な苦痛を長く味わう羽目になり、首を掴んで連れてきてくれた友人も落胆させてしまうだろうと。杞憂でした。


最初の音が聞こえた瞬間から高揚が止まらず、イントロの段階で「ヤバい、ヤバい」と終わった語彙力で自分を抑えようとしていましたが、結局キャパを超えて熱い感情が溢れてきたので、諦めて身を任せることにしました。

快楽物質を過剰分泌してたのかな? 頸椎から脳にかけてくすぐったくなったのをよく覚えています。

例の構造が分からんお面が喋りだす頃にはピークを迎え、もう何が起きても感動できるアレ、「信者」的なマインドに染まっていました。始まる前の「楽しめるか分からなくてこわい」という考えはとうに霧散し、「自分がどこかに飛んでいきそうでこわい」という近未来人の恐怖を体験できました。


追加公演なだけあって前公演を踏まえた説明があるんですが、「うわぁ~あの公演とそんなふうに違うんだ!」と“無い記憶”が刺激されてました。これにいたってはもうテンションが高いとかそういう次元じゃなく、脳内麻薬の副作用で幻覚が見えていて、ひたすら不審者でした。そういえば椅子に座っていたんですが、リラックスできる姿勢によって副交感神経やらがほぐされて、余計催眠状態に入りやすかったんじゃないかな、とか自分の犯罪者予備軍っぷりを擁護します。


会人とやらが出てきてワチャワチャしてるのを見て。僕みたいなにわかが持つ平沢進のちょっと固いイメージにそぐわないお茶目なキャラの出現に、驚くとともに期待と新たな恐怖を抱きました。

たぶんこの会人っていうのはライブ中、平沢進の両サイドを陣取ってパフォーマンスに興じるのですが、当の平沢進は対象的に、誤魔化さずに真っ直ぐな演奏をする光景が容易に想像できました。そうしてバランスの取れた演出をすることにより、ステージの完成度を上げる算段だな、と気色悪いドヤ顔をしていたと自負します。さらに、この飄々とした会人もどうせ演奏できるので、かっこよさのギャップでノックアウトされる恐怖に苛まれました。

結果からいうと、会人はただカワイイだけでした。ていうか現地のライブ中は基本的に平沢進を注視していて、ダイナミックに踊ってるとき以外の会人を見れてませんでした。これから観る配信で会人が映れば新たな発見があるかもしれません。


公演が始まってから平沢進が登場するまでの時間は4分19秒でした。

これが当時の感覚としては絶妙で、あっさりし過ぎずダレ過ぎず、観客のボルテージが頂点に達する完璧なタイミングで姿を現したと思いました。

何も知らないですが、平沢進は毎回4分19秒で登場するのではないでしょうか? それくらい完璧でした。

僕もこれからは4分19秒で登場しようと心に決めました。


平沢進を注視していたと前述しましたが、初っ端から存在感が凄まじく、釘付けになってしまっていたという感じです。

会人が若くなっていると仰っていましたが、ご自身の方が若返っているのでは? 御年70とのことですが、老人特有の危うさがなく、そこには年齢の概念を超えたパフォーマーという生物が立っていました。

ふつうその年齢は所作が一生懸命になり、頑張りすぎていて見てられない、となりそうなもんですが、そこは平沢進。エンタメに不要な感情は排除せよと言わんばかりに、公演の最後まで凛として在り続けていました。

無粋かもしれませんが、彼の日々のトレーニング・研鑽を垣間見ました。どうせ一定のファンは会いに来るし、自分が姿を現すだけで満足だろう、という驕りは全くないのです。ひたすらストイックに、貪欲にエンタメを体現しようとしている。この人が作るステージが満足できないものであるハズがない。楽曲の演奏前から、このライブの感動は確約されていたのでした。



1.Alarm

登場の衝撃、そして第一声の衝撃。いきなり破壊力の高いワンツーを放ってきました。何人か倒すつもりだったんじゃないかな。『Alarm』の名にふさわしい、我々の活力を喚び起す野性的な咆哮でした。まもなく奔流する暴力的な激情に対する、最後の警報にも聞こえました。


テクノサウンドに乗るおどろおどろしいダークなギターがかっこいい(「かっこいい」って表現はたぶんあと10回くらい使います)。いや聞こえてくる音がもれなく気持ち良くて、鼓膜がご馳走を貰って喜んでいるのを感じました。


圧巻のギターソロですが、もう入りのタイミングが予想外というか、意識の隙間を縫って一番ダメージの大きい瞬間にギュイいいいいって! 僕の胸をバリバリ破いて、心臓を喰らおうとでもしてるかのような音圧でした。しかも最初の音が長めでエネルギー弾でも溜めてるのかと。やっぱり何かと戦ってるんじゃないかと思いました。



2.パラ・ユニフス

イントロの高音が暴れまわってて最高。反復横跳び……いやスーパーボールが跳ねてるみたいな……ね! 前曲からテンポが上がってこっちのテンションも上がっちまうよ。身体が小刻みに振動するのを抑えきれなくて、僕の周囲1.5m圏内は温度が高くなっていたと思います。


「賢人の声はだんだんと~」のリズム良すぎてずっと聴いてたかった。素人なもんでこういう分かりやすいリズムが大好きです。拍・拍・拍・拍って子供でも分かるくらいやさしい、もはや暖かみすらありました。カスタネットを持っていたらカチカチやってました。


ずっとバシバシ鳴ってる弱打撃連打音みたいな音がたまらん! 


3.гипноза (Gipnoza)

イントロの只者じゃない感。良すぎて叫びたくなりました。叫んでいませんでしたか? 2階の右側で肉食獣じみた雄叫びが聞こえていましたら、僕です。


全体的にノリノリで心がヘドバンしてました。とにかく気持ちいい音が連射されていて、ステージの演出も相まってトリップしかけてました。脳みそスキャンされてるみたいな音もしてるし、人格を掌握して本格的な世界征服を目論んでいるのではないかと邪推します。


聞いたことない音を鬼のように押し付けられたんですが、これが嫌じゃないんですよね。もう、あげるよ。僕の頭の中でよければ好きに支配してください、という気分ですよね。



4.ロケット

前3曲と比べてライトな音で、民族的で耳馴染みがよかったです。イカれたテクノで精神が摩耗していたのでちょうどいい清涼剤になりました。

メロディーもキャッチー。軽やかなギターの音たまんね~~!


間奏のギター、あの例の冷たい風が吹き荒ぶ日暮れの荒野に男ひとつ、帽子に隠した鋭い眼差しは何を狙う、的な音のあの間奏のギター、かっこよかったです。


民族的でありながら、題材は科学の象徴ロケットというギャップ。素直に萌えていましたが、なにかの暗喩だったりしますか? それとも、もう戻らない旅立ちをロケットになぞらえ、故郷であったこの地を想起させる為にあえて郷愁のメロディーを強調したのですか? 平沢進と何度も酒を酌み交わしたあの親友は、今もどこかで元気に暮らしているのでしょうか。



5.CODE-COSTARICA

レーザー!!!!!! まさか生で見れると思わなくてブチ上がってました。やっぱり恒例なんですか? あのレーザーは手のひら当ててると普通に熱いらしくて、ずっと当ててたりすると正直、ガマンしてるのかなとか思ってました。


今、部屋に侵入した小バエがモニターの前で高速回転してたんですが、何が起きたんですか。お前もやられちまったか、前衛的すぎる音の暴力に。まっじでずっと音が気持ちいいんだよかっこいいんだよ。


やっぱりこれもイントロが良くて、平沢進の音楽は最初からガッチリ心を掴んでくることが多いんだな、と思いました。欲しい音が何度も繰り返されて、物足りないということがない。いや、全然満足しきれなくて今、配信観まくってるワケなんですけど、これ中毒なだけなんでね。もう間もなく聴けなくなってしまうと思うと既に寂しいです。



6.TIMELINEの終わり

前半戦の〆を感じました。後で調べてからタイトルに「終わり」と入ってることや、終わりを思わせる歌詞であると知りましたが、当時聴いてるときも、この世のエンディングのような曲だな~ってなってました。


冒頭の歌詞に「フィナーレの雨」とありますが、ステージの映像でも無数の光が降り注いでいます。その落ちていくスピードが、実際の雨というにはあまりに遅く無感情で……万象の抗えない完結を良いも悪いもひっくるめて、新たに始まる希望を見据えながら表現したような歌だと思いました。


あの光は、風に揺れて散りゆく枝垂れ桜、祭りを締めくくる大きな花火、荒天を乗り越えた褒美の流星群、そして……雪。終わりは常に我々の隣で呼吸をしていて、切なく巡るもの。


この歌が終わっても、次の歌があるのです。



7.ビストロン

静かだ!!!!



8.崇めよ我はTVなり

帝国の捕虜になったのかと思いました。迫力すげえの! めっちゃ客席を指さしてくるんですが、どうかこっちは認識しないでほしいっていう不思議な感情になりました。推しの通う教室の壁になりたいってこういうことでしょうか。


おじいちゃん!! ギターかっこよすぎるって! あちこちで黄色い歓声が上がってましたね、そりゃ上げるよね。斬り捌いてましたね。あの常人に見えないタイプの虚(ホロウ)みたいなね。死神、いや平沢は滅却師っぽいね。剣より弓を引き絞ってそうだもんネ。



9.ZOMBI HYBRID PHONON 2566 ver.

最終ダンジョン来たかと……ここまで書いて、ゲームに例えすぎだと気付きました。

照明の毒々しさかっこよかった。



10.LANDING

ライトとか平沢の動きとか歌い方とか、いろいろ幅があって面白い曲でした。視覚的にも2階で俯瞰で見れてよかった。


さっきまで休日の居間ばりに寝てた人が神聖な天使的な歌い方するから笑えばいいのかかっこいいと思えばいいのか。両方ですか。



11.Wi-SiWi

当時は背景の映像の光追ってたら終わってました。こういうのを一度気にしだすと抜けられません。


音の強弱というか、音の選択の仕方が良い意味で理解できない。作曲するときに何を考えているんでしょう。あらゆる音が揺蕩う想像の海で、何千年もかけて素潜りして拾ってきたみたいな音がします。そんな希少なものを無料(?)で見ていいんでしょうか。



12.Lotus

なんだこれ何だ泣きそうだぞ! 平沢特有の不安な伴奏に爽やかな歌い方するもんだからもう、清濁織り交ぜた掌でゆっくり首を絞められてるみたいな気持ちになりました。


心なしか平沢も前のめりに歌っている気がして、メッセージ……何かを伝えたい……そうなんだな平沢! 心で涙を流しながら訴えようとしているのが分かるぞ! でもこの手を緩めるつもりはないんだな、いいさ。気の済むまでやるがいい。俺はこうして直に平沢を感じるためにわざわざ赴いたんだからな。一緒に居るゼ……と、こっちも泣いていたワケです。


今回のライブの現地の観客は3000人。平沢進はこの歌の間だけで、一人ひとりを感じようとしているように見えました。



13.白く巨大で

指、指よ! ん~~~音!!! この音よすぎないか!!?!? ぴゅいーーーポッポポッポ♡ 僕の頬を染める音が聞こえますね。ぴゅいーーーーって音クセになる。


なんですかその群衆を見下す位置は。ステージ下がネモフィラ畑に見えている説が浮上。


カギ閉める動作、悔しいけどかっこいいよね。悔しいんですよねこういうの。も~ライトも変えちゃってまあ、舞台ですか!?(舞台です) お前ら、口を閉ざせってメッセージで合ってますか? 平沢進はファンを雑に扱うという偏見があります。



14.時間等曲率漏斗館へようこそ

タイトルも然ることながら歌詞に至るまで、並行世界の日本で書いてきたのかって内容。そちらの世界では明治維新あたりで宇宙戦争が勃発したのでしょうね。極めてマナー違反スレスレの語彙と、異次元のコール。みんなどうしてついていけるのか。もしや全員『二泊三日パラレル☆旅行~シンギュラリティを満喫しちゃおうin夏~』の参加者でしょうか。


しかし当方SF好きのため、使われてる単語自体は非常に好みでした。平沢進のSF論を是非お聞きしたいです。いや、それを歌で語ってくれているのでしょうか。


音の遊び方も未来的でかっこよかったです。てか平沢進の音はだいたい未来的でした。



15.Monster A GO GO HYBRID PHONON 2566 ver.

配信だとそこまでですが、会場での音の響き方が重く全身で聴いているのだ俺は、でした。

厳かでどこかホラーで、かつて平沢進に抱いていた印象に最も近い曲でした。



16.BEACON

天へ抜けるような清々しさの曲。でもやっぱり音は厚塗りで、だからこそ歌が際立つ。平沢進は情報の多い土台で混乱を作り、そこから抜け出す唯一の救いの道として自分の声を使っているのではないかとすら思いました。


超気持ちいいテクノで脳を焼き、進の声でクールダウン。そして十分体力を回復したのちにまたテクノへDive。でまた進にGoing。オロポをGubiGubi。

そう、これは「ととのう」という危険なバッドサイクル。でも抜け出せないんだ俺たち鎖に繋がれたSlaveは。



17.Another Day

前曲で天が開けたなら、次は羽ばたいてしまおう。と輪をかけて晴れ晴れとした曲です。こんなん盛り上がるに決まってるじゃないか! でも全体に切なさが漂っていて、泣きそうなんですよ。なんでこうなっちゃうの?


空は自由。その代わりに孤独であるということを教えてくれているのでしょうか。



MC

「私が問い合わせてよいと言うまで、どこにも問い合わせないでください」

こういうの言われるのみんな好きなんでしょ。



18.HUMAN-LE

今回のライブで、最も耳に残った音がこの曲の中にありまして。

サビ直前のドラム? 二連打「ガガッ」です。

今までさんざ特殊な音を浴びておいて、なんでもないこんなたった二音が帰宅途中ずっと思い起こされました。サビのメロディーに繋がる音として、引き締まるんですかね? 本当に良いんですよこの音。玄人ぶってるんじゃないですよ。



19.QUIT

「さようなら それだけです」のフレーズは井伏鱒二氏の有名な訳詩を思い出しますね。“「サヨナラ」ダケガ人生ダ”で結ばれるあの詩は、決して悲観的な意味ではないでしょう。この公演で表現される「終わり」も同様に。
口調の柔らかい老人のような声ですが、そういえばどことなく井伏鱒二ご本人に似てる気がします。

間奏・後奏の音のファンファーレ感……こんなん、大団円です……。

終わりよければすべてよしと言いますが、エンタメにおいて終わり方ってかなり大事。その点で文句なし納得の終わりでした。欲を言えばずーーーっと流し続けて、あれ聞きながら会場を去りたいくらいだった。



~~~


音がどうだのは沢山書いたので、最後に歌詞の話をします。

当時に思ったのですが、案外「君」という言葉が使われることが多くて少し意外でした。「君」ってラブソングとかで使われることが多いイメージというか、平沢進ってラブソング書かなそうだから……。


で、あとで調べたら今回の曲のほとんどの歌詞に使われてるのは、表記はカタカナで「キミ」なんですよね。

この温度感が上手いというか、カタカナにすることでより無機質な言葉になって、気持ち悪さがなくなってて良かったです。

「きみ」「あなた」ってなんか特定の相手に対する呼称でなんか、イヤなことがあります(過激派)。


しかも『TIMELINEの終わり』が顕著ですが、「キミ」って未知の象徴として使われてる気がするんですよね。他の曲は知りませんが、2566+で歌われた曲に限っては、やっぱり特定の誰かではなく未来に進む、または未来で待つモノを指しているように聞こえます。



ただ、唯一「君」と表記されている曲がありました。『ロケット』ですね。(僕がネットで調べただけの情報なので定かではないです)

これは特定の誰か、でいいんだと思います。ここで歌われた「君」は過去の象徴で、もっと言うなら不可逆の象徴ではないでしょうか。

未来に繋がることはない、記憶の中の誰かについての言及だったと。


あの日聴いた曲全体から、不可逆(過去)と未知(未来)、そして今も終わり始まり続けている、世界全体の俯瞰を勝手に感じていました。いずれもヒトが手を加えることのできない事象であり、それを少しでもポジティブに捉えようという意思……も勝手に感じていました。


いや、捉え方を変えるどころか、平沢進はそういった介入できないハズの概念に手を加えようとしているのでしょうか。だって齢70にしてあんなにもパワフルで、これからまた何かしでかしそうな雰囲気だったんですもの。


と、こちらもポジティブに捉えて謎の希望を持ってみますが、結局は謎の希望で終わることでしょう。不可逆への介入、そんなの時間を遡ると宣言してるようなものですからね。



ん、そういえば会人の方々は、時間を戻ると言われていたような……


なんて!





僕は考察とか感想とか普段しなくて、見るのも苦手です。が、今回のライブは全然知らないアーティストでありながら真剣に聴いたのもあり、得た感情を少しでも覚えておくために記したんです。あとなんか……こういうの書くの気持ちいいので。平沢歴1weekの馬の骨、配信を何度繰り返しても、現地で体験した感動は二度と味わえず、他に代えがたいものでした。


ありがとう『HYBRID PHONON 2566+』。君のことは忘れない!

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