アローラ小話_1
肌寒い海繋ぎの洞穴を抜け、砂浜に降り立つ。降り注ぐ南国の日差しのまぶしさに目を閉じるとともに心地良い海風が通り抜け、少しの涼しさがもたらされる。
「気持ちいいね」
隣に立つ相棒、オニシズクモに声をかける。オニシズクモも楽しそうにおやつのきのみがしまわれている頭の水泡を揺らした。
ここカーラエ湾は、私とオニシズクモのお気に入りの場所。メレメレの花園に小さな穴を見つけたのは半年ほど前のこと。人影がなくのんびり過ごすことができるこの場所を、のんびりやな私のオニシズクモはすぐに気に入ったようだった。
でも、相棒が最近頻繁にこの場所に来たがるのはそれだけが理由ではないらしい。
「あ、今日も来た」
近くの草むらから出てきたのは、硬い頭をもつポケモン、タツベイだ。このあたりで暮らしているポケモンには、やはりみずタイプが多い。そんな中で群れを作るでもなくただ一匹で暮らしているらしかったのが、あのタツベイだ。
そのままぼんやり見ていると、彼は今日も、ナッシーのような高い木に登っては飛び降りる。調べたところ、遺伝子からの情報だとかなんとかで、いつか飛べるのだと信じているらしい。
何度も飛び降りて地面に体を打ち付けるさまは、正直言って痛々しい。数か月間彼の様子を見ているが、飛べたことは一度もない。何度も飛び降りては傷を癒すでもなくそのまま帰ってしまうのだから、いずれ死んでしまうのではないかと思っていたのは私だけではないようで。
そも、オニシズクモは面倒見がよく、世話好きなポケモンである。大切なものを水泡にしまう癖もあり、私も何度かしまわれそうになったことがある。そんなオニシズクモがあのタツベイを見てどうするかなんて、想像に難くなかった。
相棒がのそのそとタツベイに近寄っていき、頭の水泡からオボンのみを取り出すとそっと差し出す。あれは私がオニシズクモのおやつにとあげたものだったが……まあ相棒がそうしたいなら仕方ない。
差し出されたオボンのみをもしゃもしゃと食べ始めるタツベイと、それを水泡にしまおうとするオニシズクモ。よく見るようになったその光景を眺めながら、おやつのアマサダを取り出した。