見出し画像

近未来的時代劇『どろろ』

手塚治虫による原作、杉井ギサブロー版アニメから半世紀を経て、現代の技術の粋を結集して完成した新感覚時代劇アニメ『どろろ』。古びない名作の魅力に迫る。

時代劇なのに近未来的 百鬼丸のビジュアル

★どろろ_2_2

この作品は、百鬼丸がバラバラに奪われてしまった自分の身体を鬼神からひとつずつ奪い返していく物語で、どろろはそんな百鬼丸と出会い、行動をともにするうちに心を通わせていきます。
 戦国時代を舞台とした時代劇ですが、最初から現代ではない「昔の世界」を描いていることで何年経っても古さを感じさせません。昔だけど古くない、ここがこの作品の凄いところ。
 百鬼丸は義手・義足、声も出せない、心も空っぽという状態からスタートしますが、身体を取り返すごとに人間らしくなっていきます。どこか『攻殻機動隊』の草薙素子を思い出すほど、完全義体でスタートし、スタイリッシュで冷徹で、強い。手なんかすぐすっぽ抜けて刀になる。近未来的なのです。

原作を換骨奪胎した設定の妙で普遍性のある物語に

★どろろ_2_3

原作では、百鬼丸は最初声を出せないのですがテレパシー的な「心の声」でコミュニケーションをとりますが、このアニメでは声を取り戻すまでコミュニケーションが取れません。このことが返って「なにを考えているのだろう」「どんな声をしているんだろう」という視聴者の想像を広げ、百鬼丸への興味をそそります。
 そして、身体を取り戻すごとに、痛みを感じるようになり、聴覚を得たがゆえのうるささにも苦しめられることになります。なにより身体と連動する「心」を得ることで悲しみや怒りといった感情を抱くようにもなる。得ると同時に失っていく「強さ」。 このことが人間とはなにか。命とはなにかという問いに直結した普遍性をも描くことになります。本質を損なわず設定をマイナーチェンジすることで描けた部分です。見事な換骨奪胎です。

アイデアに溢れるアクションシーンの数々

★どろろ_2_4

百鬼丸が義手、義足であるがゆえの「強さ」は、そのビジュアルの斬新さ以上に、アクションシーンの迫力をも演出します。
 両手に刀がある状態で身軽に動けることで、実写作品では表現しきれない動きや戦闘を実現しています。しかもかなりグロいシーンもあり、全体的に「攻めた」作劇です。視点の切り替えに関しても、細かかったり、逆にワンシーンが長かったり、そのシーンで描きたいものを中心に組み立てられていてアイデアに溢れています。「迫力を出すためにこんな方法があったのか!」と、何度観てもびっくりするイマジネーションだらけのアクションシーン。これこそがアニメの醍醐味です!

どろろがかわいい

★どろろ_2_1

時代劇ゆえに画面が全体的に暗かったり、重たくみえるときもありそうなものですが、なによりこの作品は健気などろろが超かわいい!
また、5話と6話「守子唄の巻」に出てくるミオは天使のように心優しき少女なのですが、みんなの面倒を見るために密に春を売っていたりもする切ない存在。このミオが超かわいくて感情移入できるからこそ、その後の百鬼丸の行動にも説得力が出てきます。 
やっぱりこういう作品でも「かわいい」は重要なエッセンス。注目してほしいところです!

Text/サンキュータツオ

サンキュータツオ プロフィール

1976年東京生まれ。漫才コンビ「米粒写経」として都内の寄席などで活動。
早稲田大学大学院文学研究科日本語日本文化専攻博士後期課程修了。
アニメ、マンガなどを愛好しており、二次元愛好ポッドキャスト「熱量と文字数」を毎週水曜日配信。「このBLがやばい!」選者、広辞苑第七版サブカルチャー項目執筆担当者。一橋大学などで非常勤講師も務め、留学生に日本語や日本文化も教えている。Twitter:@39tatsuo


みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!