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切なくも温かい“一生に一度の恋”2選

センチメンタルな秋にはラブストーリーがぴったり。そこで今回紹介するのが『そして、生きる』と『愛唄 -約束のナクヒト-』だ。一生に一度の恋を存分に堪能してほしい。

いちばん好きな人との恋は、叶わない

©︎2019 WOWOW INC.

岩手の小さな理髪店で育った女優志望の瞳子(有村架純)と、東京の裕福な家庭で何不自由のない生活を送るエリート大学生の清隆(坂口健太郎)。まるで接点がないように見える2人には、ある共通点があった。
 
それは、どちらも実の両親を亡くしていること。心の奥深くについた消えない傷。その痛みを分け合うように、瞳子と清隆は惹かれ合っていく。

そして、生きる』は震災ボランティアを通じて知り合った瞳子の清隆の10年を描いた物語だ。
 
誰よりも大切な人だった。だけど、相手の幸せを願えば願うほど、一緒にはいられなかった。一度ズレた歯車は二度と噛み合わない。2人の運命は何度も交差しながら、また離れていく。

いちばん好きな人との恋は、叶わない。そんな人生のほろ苦さに胸締めつけられる、秋の夜長にぴったりのラブストーリーだ。

これは、自分の人生を肯定するための物語だ

©︎2019 WOWOW INC.

人の一生は、数え切れない過ちと後悔でできている。

『そして、生きる』を観終わったあと、こんなにも儚い余韻で胸がいっぱいになるのは、思い通りにならない人生をそれでも精一杯生きていく瞳子と清隆の姿に、自らの人生を重ねてしまうからだ。
 
2人には次々と大きな不幸や悲しみが訪れる。そのたびに、手の中で懸命に温めてきた幸せを砕かれる。だけど、一生笑って生きることができないように、一生泣いて生きていくこともできない。悲しみの中から喜びを拾い上げる力を、人は持っている。
 
瞳子も、清隆も、それぞれのやり方で過去に決着をつけ、自分の人生を肯定する。たくさん間違えたけど、それでも自分なりに頑張って生きてきた。そして、これからも生きていく。
 
涙でにじむエンドロールを見届けながら、このタイトルの意味を深く深く噛みしめることだろう。

余命3ヶ月で出会った、人生最初で最後の恋

©︎2018「愛唄」製作委員会

 もしも余命3ヶ月と告げられたら、残りの人生をどう生きるだろうか。
 
愛唄 -約束のナクヒト-』は、余命3ヶ月と宣告された青年・透(横浜流星)の最期の日々を描いた青春ラブストーリーだ。人生に絶望した透は、自ら命を断とうとする。そのとき、透の前に現れたのは高校の同級生・龍也(飯島寛騎)。そして、夭折の詩人が遺した1冊の詩集。この2つの出会いに支えられた透は、人生最初で最後の恋に向き合っていく。
 
タイトルの通り、本作のモチーフとなるのは、GReeeeNの大ヒット曲『愛唄』。脚本にもGReeeeNが携わり、多くの人の心を打った名曲が本編のクライマックスを盛り上げる。
 
たとえ今日が最期の1日でも悔いがないくらい今を生きているか。GReeeeNの歌声のようにまっすぐなメッセージが胸を突き刺す、命と恋と友情の物語だ。

当たり前と思えることほど尊いものはない

©︎2018「愛唄」製作委員会

いいラブストーリーには、名場面がつきもの。
 
本作の中でとりわけ心に残るのが、透とキーパーソンの少女・凪(清原果耶)の“制服デート”のシーンだ。
 
特別な出来事は何も起こらない。放課後の教室でおしゃべりをしたり、自転車を2人乗りしたり。誰もが一度は経験したことのある、ささやかな日常の場面だ。
 
でもそれが凪にとっては“特別”であることに意味がある。ある事情から学校に通えなかった凪は、同級生の女子たちと騒ぎ合ったり、好きな男の子と自転車置き場で待ち合わせしたりすることもできなかった。
 
ただ泣いたり笑ったりできること。好きな人が隣にいてくれること。当たり前と思えることほど尊いものはない。
 
決して明るい結末ではないけれど、きっと最後には温かいものが胸に残るはず。それを人は“生きる力”と呼ぶのだろう。

Text/横川良明

横川良明(よこがわ・よしあき)プロフィール
1983年生まれ。大阪府出身。ドラマ・演劇・映画を中心にインタビューやコラムなどを手がける。著書に、『役者たちの現在地』(KADOKAWA)、『人類にとって「推し」とは何なのか、イケメン俳優オタクの僕が本気出して考えてみた』(サンマーク出版)がある。X:@fudge_2002

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