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後宮を舞台とした薬屋の謎解きミステリーが人気を得た理由

2023年10月のアニメ新番組のなかでも各サイトで軒並み高評価の『薬屋のひとりごと』。とある大国の後宮を舞台とした作品で人気を得た理由を特集します。

後宮謎解きエンタテイメント!「毒見」役の少女が主人公

©日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会

 舞台からすると歴史大河ドラマなのかも、と思う方もいるかもしれませんが、本作は後宮を舞台に主人公の猫猫(マオマオ)が様々な難事件を解決していくミステリーとも謎解きともいえるエンタメ作品。
 帝の妃とその侍女たちが暮らす男子禁制の後宮で起こる不思議な体調不良や幽霊騒ぎなどを、下町で薬屋を営んでいた猫猫(マオマオ)が論理的に解決します。
薬屋でありながら毒が好きで、知識も深い猫猫(マオマオ)は、読み書きもでき機転も利きます。目立ってしまっては命取りになると思っていましたが、有能さは隠しきれず美形の宦官、壬氏(ジンシ)に見つかってしまう。そして帝の寵妃の毒見役にされることになるのだが……。
ニュータイプの探偵ものといった雰囲気の作品です。テクノロジーがそれほど発達している世界でもないので、複雑でもなく、ストレスを抱えずに楽しめます。

後宮の人間関係も謎解きの鍵となる

©日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会

 謎が起こって解決するだけであれば謎解きものとしてはシンプルすぎますよね。
 そこでこの物語を面白くしているのが後宮の人間関係です。帝の寵愛をうける妃たち、そして妃に仕える侍女たち。
 子どもを持つ妃もいれば、亡くした妃もいる。さまざまな環境の違いの中で互いを気にしている関係性である。そこに紐づく侍女たちも妃への想いは様々である。だからこそ、「人」が事件を起こすのだ。
 猫猫(マオマオ)は出世欲もなく、美麗な宦官にも興味がなく、ただひたすら調薬や毒に興味がある人物なので、この人間関係に惑わされることなく事件を解決していく。
 こんなに楽しめる謎解きものはほかではなかなかないですね。

クスっと笑えるコメディ要素も

©日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会

 後宮という閉ざされた世界にいるので、人々の感情や考え、キャラクターが浮き立つ。
 謎の背景には必ず「人の思惑」があり、猫猫(マオマオ)は実はマッドサイエンティストに見えて人間の感情の機微にも想像を巡らせることができる人格者。立場や身分がちがっても、善悪の判断を自分で行うポイントが現代の我々の感覚と近いのですんなり楽しめるのだ。
 壬氏(ジンシ)に色目を使われてもまったく効果はなく、目立って標的にされたくないばかりに欲もない。この潔さが、ハードボイルドな作品にユーモアというエッセンスを振りまいていて飽きがこないつくりになっている。これにはもう唸るしかない。
 手放しで面白い作品です! 絶対見てほしい作品。いや、見るべき!

色彩感覚に優れたアニメ

©日向夏・イマジカインフォス/「薬屋のひとりごと」製作委員会

 このアニメ最大の魅力は「人間ドラマ」。派手なアクションや独自の世界観を売りにしているわけではないのに、すでに多くの視聴者を虜にしている理由はなんだろうか。ストーリーやキャラクターの良さはもちろんなのだが、アニメならではの点を挙げるとすれば、「色彩」に注目してほしい。
 ひとりひとりの肌の化粧具合、着ている服の色、花の色、食器の色と材質、夜景や月、室内の家具一式の造形と質感……。それぞれ印象的な「色」が、どぎつくないのに鮮やかに映る。絵や動きを引き立たせる「色」が効果的に配色されています。色彩さん、ありがとう!という言葉に尽きる作品ともいえると思います。

Text/サンキュータツオ

「薬屋のひとりごと」視聴はこちらから▼

サンキュータツオ プロフィール

1976年東京生まれ。漫才コンビ「米粒写経」として都内の寄席などで活動。
早稲田大学大学院文学研究科日本語日本文化専攻博士後期課程修了。
アニメ、マンガなどを愛好しており、二次元愛好ポッドキャスト「熱量と文字数」を毎週水曜日配信。「このBLがやばい!」選者、広辞苑第七版サブカルチャー項目執筆担当者。一橋大学などで非常勤講師も務め、留学生に日本語や日本文化も教えている。Twitter:@39tatsuo

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