暁のバケモノ

三話

 付いた場所は駅。次に着く電車に、『ケモノ』とやらがいるらしい。舞風と夏楽は隣の車両の入り口。昏は僕の隣にいる。亜瑠は駅の駐車場で待っているそうだ。夏楽さんが準備していた武器はどこにもなく、全員それぞれの私服で荷物は小さな鞄だけ。とても今から戦うような雰囲気ではなく、電車を待つ一般人にしか見えなかった。
 『来たね』
つぶやくように昏がテレパシーを送ってくる。
キキィー
電車の扉が開き、僕らは足を踏み出す。誰もいない車内に、一瞬強風が通っていったように感じた。刹那、電気が消える。
『戻れモモッ!!』
音にならない大声で、反射的に体を後ろに送る。服が切れていた。隣にいる昏は、目をカッと開き、信じられないというふうに車内を見つめている。
『橘さんたちは?』
先程まで舞風と夏楽がいた方を見る。二人は、腕や腹から血を流して倒れていた。
『たおっ、倒れて、血がっ二人とも、倒れてぇっ』
『落ち着け。お前はラッパ鳴らしながら亜瑠さんのとこに行って。俺が殺す。大丈夫、大丈夫、俺は強い』
落ち着けと言いながら、昏の呼吸はどんどん激しくなっていく。
『行けっ!!』
その言葉に体を押されたように、僕の体は走っていく。
『っ!!』
夏楽の姿が目に入った。こっちを見ている。何かを投げてきた。
『!?』
小さくきらめいたそれは急に大きくなり、部屋で見た武器の一つ、包丁になった。僕の眼前に突きつけられたものだろうか。どうでもいいことが思い浮かぶ。夏楽の口が動く。
『こぉ……ろ、せ』
全身に鳥肌が立った。僕はうなずいていた。後ろを振り向く。何かが昏に向かっていた。昏はさっきの体制のまま動かない。
何も考えず、走る。大きく振りかぶる。
  スッ
風を切ったような感覚だった。包丁には、サラサラした砂の塊のようなものが刺さっていた。血だろうか。包丁が刺さっている部分から液体が出てくる。昏が倒れた。目を開けたまま、荒く呼吸をしている。
『早く、亜瑠さんのとこに』
力が抜け、手から包丁がするりと抜ける。

 うわぁ、人殺し。ひっどぉい

知らない声がしたように感じたが、周りに橘班のメンバー以外の人間はいない。ふと足元を見る。
「え」

足元に、人間の死体があった。胸元には、さっきまで僕が持っていた包丁。

視界が落ちる。アスファルトがぼんやりして見える。

  君もバケモノだね

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