電車

 私が電車に恋をしたのは、中学生のときだった。

 きっかけは特にない。気がついたら好きになってた。通学路を共にしていて、急にドキドキしてきちゃって、あ、好きかもって。

 そしたら段々と魅力的に見えちゃって。最初は彼の語る言葉に惚れていった。彼の奏でる音は、重層的で複雑で、どこか気まぐれで、掴めないテンポ。だけどどこか安心するような、不思議な、言語化不可能な世界。聞いてると、その度に新しい発見があって話してくたびにワクワクしちゃう。
 でもね、友達にその話をすると「でも彼って冷たいじゃん」って言ってバカにするんだよね。失礼しちゃうよね。彼の冷たさが良いんじゃん。彼の中に入ったときの、あの刺すような冷たさ。私、優しいだけの男の子って嫌い。なんだか人形みたいでさ。

 ――今も彼を待ってる。彼はいつも時間通りにやってくる。向こうから、草の生い茂る線路の中を優雅に走って現れる。お待たせしましたって律儀に言いながら、彼はいつも私に微笑むの。あ、好き。好き好き。もうね、好き。一番乗りで彼に抱きついてやる。誰にも渡さない、私だけの電車。アア、待ってる時間がもどかしい! お願い、早く来て! でもまって、今、髪を整えてるから。

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