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令和5年版 防衛白書 24 第2章

第2章 防衛力の中核である自衛隊員の能力を発揮するための基盤の強化など

第1節 人的基盤の強化

防衛力の中核は自衛隊員である。全ての隊員が高い士気と誇りを持ち、個々の能力を発揮できる環境を整備すべく、人的基盤の強化を進めていく。
また、自衛隊員の人材確保が厳しくなる中、これまで以上に、民間の労働市場の動向や働き方に対する意識の変化といった社会全体の動きを踏まえて検討を進める必要があることから、2023年2月、防衛大臣のもとに部外の有識者からなる「防衛省・自衛隊の人的基盤の強化に関する有識者検討会」を設置し議論を進めている。2023年3月31日現在、2回開催している。

防衛省・自衛隊の人的基盤の強化に関する有識者検討会

1 採用の取組強化

 1 募集

防衛省・自衛隊が各種任務を適切に遂行するためには、少子化による募集対象者人口の減少という厳しい採用環境の中にあっても、優秀な人材を安定的に確保しなければならない。このため、募集対象者などに対して、自衛隊の任務や役割、職務の内容などを丁寧に説明し、確固とした入隊意思を持つ人材を募る必要がある。
全国に50か所ある自衛隊地方協力本部では、地方公共団体、学校、募集相談員などの協力を得ながら、きめ細やかに、かつ、粘り強く自衛官等の募集・採用を行っている。なお、地方公共団体は、募集期間などの告示や広報宣伝などを含め、自衛官及び自衛官候補生の募集に関する事務の一部を行うこととされており、防衛省はこれに要する経費を負担している。また、募集に関する事務の円滑な遂行のために必要な募集対象者情報の提出を含め、所要の協力が得られるよう地方公共団体などとの連携を強化している。

地方協力本部における募集活動(合同企業説明会)

また、2022年度から一般曹候補生及び自衛官候補生の採用試験の一部をオンライン化するなど、受験者の負担軽減に努めている。

 2 採用

(1)自衛官

自衛官は、個人の自由意志に基づく志願制度のもと、様々な区分に応じて採用される。一般曹候補生及び自衛官候補生の採用上限年齢は、民間企業での勤務経験を有する者など、より幅広い層から多様な人材を確保するため、2018年に「27歳未満」から「33歳未満」に引き上げた。
また、整備計画に基づき、有為な人材の早期確保を図るため、貸費学生制度の拡充を行うこととしている。
さらに、民間の人材を活用するという点では、公募幹部として専門的技術に関する国家資格・免許などを保有する者を採用する取組や、中途退職した元自衛官の採用数の拡大など中途採用の強化に取り組んでいる。加えて、整備計画に基づき、サイバー領域などで活躍が見込まれる専門的な知識・技能を保有する人材を取り込むため、柔軟な働き方を可能とする自衛官の新たな人事制度の整備を検討している。

図表IV-2-1-1 募集対象人口の推移
図表IV-2-1-2 自衛官の任用制度の概要

自衛官は、自衛隊の精強性を保つため、階級ごとに職務に必要とされる知識、経験、体力などを考慮し、大半が50歳代半ばで退職する「若年定年制」や、3年を1任期として任用する「任期制」など、一般の公務員とは異なる人事管理2を行っている。

(2)事務官、技官、教官など

防衛省・自衛隊には、自衛官のほか、約2万1,000人の事務官、技官、教官などが隊員として勤務している。防衛省では、主に、人事院が行う国家公務員採用総合職試験及び国家公務員採用一般職試験、防衛省が行う防衛省専門職員採用試験の合格者から採用している。
事務官は、本省及び防衛装備庁の内部部局などでの防衛全般に関する各種政策の企画・立案、情報本部での分析・評価、全国各地の部隊や地方防衛局などでの行政事務に従事している。
技官は、本省及び防衛装備庁の内部部局などでの防衛施設(司令部庁舎、滑走路、火薬庫など)及び防衛装備品などの物的基盤に関する各種政策の企画・立案、情報本部での分析・評価、全国各地の部隊や地方防衛局などで、各種の防衛施設の建設工事、様々な装備品の研究開発・効率的な調達・維持・整備、隊員のメンタルヘルスケアなどに従事している。
教官は、防衛大学校、防衛医科大学校や防衛研究所などで、防衛に関する高度な研究や隊員に対する質の高い教育を行っている。
「令和5年度内閣の重要課題を推進するための体制整備及び人件費予算の配分の方針」(令和4年7月29日内閣総理大臣決定)において、「外交・安全保障や経済安保の強化」と記載されたことを踏まえ、増員などに取り組んだところである。

2 予備自衛官などの活用

有事などの際は、事態の推移に応じ、必要な自衛官の所要数を早急に満たさなければならない。この所要数を迅速かつ計画的に確保するため、わが国では予備自衛官、即応予備自衛官及び予備自衛官補の3つの制度を設けている。

図表IV-2-1-3 予備自衛官などの制度の概要

予備自衛官は、防衛招集命令などを受けて自衛官となり、後方支援、基地警備などの要員として任務につく。即応予備自衛官は、防衛招集命令などを受けて自衛官となり、第一線部隊の一員として、現職自衛官とともに任務につく。また、予備自衛官補は、自衛官未経験者などから採用され、教育訓練を修了した後、予備自衛官として任用される。また、予備自衛官補の技能区分は、制度創設(2001年度)以降、順次拡大しており、2022年度には、システム防護(サイバー)及び保育士を追加した。
予備自衛官などは、平素はそれぞれの職業などについているため、定期的な訓練などへの参加には、雇用企業の理解と協力が不可欠である。
このため、防衛省は、年間30日の訓練が求められる即応予備自衛官が、安心して訓練などに参加できるよう必要な措置を行っている雇用企業などに対し、その負担を考慮し、「即応予備自衛官雇用企業給付金」を支給している。
また、予備自衛官又は即応予備自衛官が、①防衛出動、国民保護等派遣、災害派遣などにおいて招集に応じた場合や、②招集中の公務上の負傷などにより本業を離れざるを得なくなった場合、その職務に対する理解と協力の確保に資するため、雇用主に「雇用企業協力確保給付金」を支給することとしている。
さらに、自衛官経験のない者が予備自衛官補を経て予備自衛官として所定の教育訓練を終え、即応予備自衛官に任用された場合に、当該即応予備自衛官が安心して教育訓練に参加できるよう必要な措置を行った雇用企業に対し、「即応予備自衛官育成協力企業給付金」を支給することとしている。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のための災害派遣では、医師、看護師などの資格を有する予備自衛官を招集し、自衛隊病院などにおいて医療支援などの任務にあたった。
整備計画に基づき、作戦環境の変化や自衛隊の任務が多様化する中で、予備自衛官などが常備自衛官を効果的に補完しうるよう予備自衛官などが果たすべき役割を再整理した上で、自衛官未経験者からの採用の拡大や、年齢制限、訓練期間などの見直しを行うこととしている。これを踏まえ、2023年4月、予備自衛官の一部の技能区分を対象に継続任用時の上限年齢を試行的に廃止した。
また、割愛により民間部門に再就職する航空機操縦士を予備自衛官として任用するなど、幅広い分野で予備自衛官の活用を進めている。

3 人材の有効活用に向けた施策など

 1 人材の有効活用

自衛隊の人的構成は、これまで全体の定数が削減されてきた一方、装備品の高度化、任務の多様化・国際化などへの対応のため、より一層熟練した者、専門性を有する者が必要となっている。
このような状況を踏まえ、知識・技能・経験などを豊富に備えた高齢人材の一層の活用を図るため、2020年以降、自衛官の若年定年年齢を1歳引き上げた。整備計画に基づき、2023年に1尉から1曹まで、2024年以降に1佐から3佐及び2曹から3曹までの定年を、それぞれ1歳ずつ引上げを行うこととしている。また、2023年に定年退職自衛官の再任用(定年から65歳に達する日以前)をさらに推進すべく、艦船乗組の一部、航空機操縦業務の一部を再任用自衛官が従事できる業務とした。さらに、無人化・省人化などを推進するため、AIの活用促進などにかかるアドバイザー業務の外部委託など、AI活用に関する支援態勢を構築するとともに、部外委託講習により部内人材の育成を図るなど、AI活用にかかる環境整備を行っている。
加えて、一部艦艇では、複数クルーで交替勤務するクルー制を導入し、限られた人員による稼働率の確保に取り組んでいる。

図表IV-2-1-4 自衛官の階級と定年年齢

 2 防衛省職員の自殺防止への取組

防衛省職員の自殺者数は、2022年度は79人であった。依然として、職員の尊い命が自殺により失われていることは、御家族にとって大変痛ましいことであり、また、組織にとっても多大な損失である。

図表IV-2-1-5 防衛省職員の自殺者数の推移

2022年度には、職員の自殺事故防止の観点から、「防衛省のメンタルヘルスに関する基本方針」を策定し、各種施策を推進している。具体的には、全職員を対象としたメンタルヘルスチェック、カウンセリングの利用啓発などの職員の意識改革、ワークライフバランスに関する施策などを推進することによる職場環境の整備、上司とカウンセラーとの連携や相談先の多様化といったサポート体制の強化などに取り組んでいる。

4 生活・勤務環境の改善など

 1 生活・勤務環境改善への取組

防衛戦略において、全ての自衛隊員が高い士気と誇りを持ちながら個々の能力を発揮できるよう、生活・勤務環境の改善に引き続き取り組むこととしている。具体的には、即応性確保などのために必要な隊舎・宿舎の確保及び建替えを加速し、同時に、施設の老朽化対策及び耐震化対策を推進するほか、老朽化した生活・勤務用備品の確実な更新、日用品などの所要数の確実な確保などに取り組んでいる。
また、女性自衛官の教育・生活・勤務環境改善のため、隊舎や艦艇・潜水艦における女性用区画を整備、演習場などにおける女性用トイレや浴場の新設・改修などを行うこととしている。

生活・勤務環境の改善への取組

 2 家族支援への取組

平素からの取組として、部隊と隊員家族の交流や隊員家族同士の交流などのほか、大規模災害など発生時の取組として、隊員家族の安否確認について協力を受けるなど、関係部外団体などと連携した家族支援態勢の整備についても推進している。
また、長期行動を予定する艦艇や海外に派遣される部隊には、隊員と家族が直接連絡を取れる通信環境を整備するとともに、部隊の海外への派遣に際しては、家族から派遣中の隊員に向けた慰問品の追送支援、家族に対する説明会の開催や相談窓口(家族支援センター)の開設、隊員家族向けホームページの設置など、隊員家族に対する各種支援施策を実施している。

5 人材の育成

部隊を構成する自衛官個々の能力を高めることは、部隊の任務遂行に不可欠である。このため、各自衛隊の教育部隊や学校などで、階級や職務に応じて必要な資質を養うと同時に、知識・技能を修得させている。
また、整備計画に基づき、陸上自衛隊高等工科学校について陸海空自衛隊の共同化や男女共学化に取り組むとともに、各自衛隊などにおける統合教育の強化、各自衛隊や防衛大学校におけるサイバー領域を含む教育・研究の強化のほか、教育課程の共通化、先端技術の活用などを進めることとしている。
なお、教育には、特殊な技能を持つ教官の確保、装備品や教育施設の整備など、非常に大きな人的・時間的・経済的努力が必要である。専門の知識・技能をさらに高める必要がある場合や、自衛隊内で修得することが困難な場合などには、海外を含む部外教育機関、国内企業、研究所などに教育を委託している。

6 処遇の向上及び再就職支援など

 1 処遇の向上

自衛官は、厳しい環境下で任務を遂行するため、従来より、その任務や勤務環境の特殊性などを踏まえ、処遇の向上を図ってきた。2022年度には、ヘリコプタ─による一部の輸送任務や困難な状況で救急救命処置を行う隊員に支給する手当の支給範囲の拡大を行ったほか、長期出張者の負担を軽減する改善策を講じた。2023年度には、対領空侵犯措置などにかかる警戒監視業務を行うレーダーサイト勤務隊員への手当の支給を開始する。
整備計画においては、自衛隊員の超過勤務の実態調査などを通じ、任務や勤務環境の特殊性に加え、新たな任務の増加も踏まえた隊員の処遇の向上を図ることとしている。また、諸外国の軍人の給与制度などを調査し、今後の自衛官の給与などのあり方について検討することとしている。
なお、自衛官の勤務時間の実態調査については、2023年4月から実施している。
そのほか隊員が高い士気と誇りを持ちながら任務を遂行できるよう、功績の適切な顕彰をはじめ、栄典・礼遇に関する施策を推進することとしている。

 2 殉職隊員への追悼など

1950年に警察予備隊の創設以降、自衛隊員は、旺盛な責任感をもって、危険を顧みず、わが国の平和と独立を守る崇高な任務の完遂に努めてきた。その中で、任務の遂行中に、不幸にしてその職に殉じた隊員は2,000人を超えている。
防衛省・自衛隊では、殉職隊員が所属した各部隊において、殉職隊員への哀悼の意を表するため、葬送式を行うとともに、殉職隊員の功績を永久に顕彰し、深甚(しんじん)なる敬意と哀悼の意を捧げるため、内閣総理大臣参列のもと行われる自衛隊殉職隊員追悼式など様々な形で追悼を行っており、令和4年度自衛隊殉職隊員追悼式では、35柱(陸自16柱、海自15柱、空自4柱)を顕彰している。

 3 隊員の退職と再就職のための取組

自衛隊の精強性を保つため、多くの自衛官は50代半ば、任期制自衛官は20~30代半ばで退職する。その多くは、生活基盤の確保のために再就職が必要である。このため、現役の自衛官が将来への不安を解消し、職務にまい進するためにも、再就職支援は極めて重要である。
整備計画においても、自衛官の退職後の生活基盤の確保は国の責務であるとしている。また、進路指導体制や職業訓練機会の充実、関係機関や民間企業との連携強化など、再就職支援の一層の充実・強化を図ることとしている。
退職自衛官は、職務遂行と教育訓練によって培われた、優れた企画力・指導力・実行力・協調性・責任感などのほか、職務や職業訓練などにより取得した各種の資格・免許も保有している。このため、地方公共団体の防災や危機管理の分野をはじめ、金融・保険・不動産業や建設業のほか、製造業、サービス業など幅広い分野で活躍している。
特に、地方公共団体の防災部局には、2023年3月末現在で、46都道府県に107名、455市区町村に533名の計640名の退職自衛官が危機管理監などとして在職している。防衛省・自衛隊と地方公共団体の連携を強化することは、地方公共団体の危機管理能力の向上につながるため、このような再就職支援の強化にも取り組んでいる。
なお、防衛省では、地方公共団体の防災部門などへの採用を希望する退職予定自衛官向けに「防災・危機管理教育」を実施している。受講者は申請により内閣府から「地域防災マネージャー証明書」が交付される。証明書を交付する要件は、「1尉以上ないし2尉であって1尉の実質的な職務経験があること」とされている。
2023年3月、地域防災力の向上を目的として、防衛省と特定非営利活動法人日本防災士機構との間で防災士の資格取得における自衛官の特例を設けることについて申し合わせた。
また、任期制自衛官の充足の維持・向上に加え、予備自衛官及び即応予備自衛官の充足向上を図るため、任期制自衛官の任期満了後に国内の大学に進学した者が、その在学期間中、予備自衛官などに任官した場合、進学支援給付金を支給することとしている。

図表IV-2-1-6 再就職支援施策として行っている主な職業訓練
図表IV-2-1-7 2022年度再就職支援実績

一方、自衛隊員の再就職については、公務の公正性に対する国民からの信頼を確保するため、一般職の国家公務員と同様に3つの規制(①他の隊員・OBの再就職依頼・情報提供等の規制、②在職中の利害関係企業等への求職の規制、③再就職者による依頼等(働きかけ)の規制)が設けられている。規制の遵守状況については、隊員としての前歴を有しない学識経験者から構成される監視機関において監視される。また、不正な行為には罰則を科すことで厳格に対応することとしている。
あわせて、内閣による再就職情報の一元管理・情報公開を的確に実施するため、自衛隊員のうち管理職隊員(本省企画官相当職以上)であった者の再就職状況について毎年度内閣が公表することとしている。

第2節 ハラスメントを一切許容しない組織環境の構築

防衛省・自衛隊に対する国民からの期待が多く寄せられており、防衛省・自衛隊がその実力を最大限に発揮して任務を遂行するためには、国民の支持と信頼を勝ち得ることが必要不可欠である。そのためには常に規律正しい存在であることが求められている。
防衛省・自衛隊では、高い規律を保持した隊員を育成するため、従来から服務指導の徹底などの諸施策を実施してきたものの、近年、ハラスメントを理由とした懲戒処分が少なからず発生している。自衛隊が組織力を発揮し、様々な事態にしっかりと対応していくためには、防衛力の中核である隊員が士気高く安心して働ける環境を構築する必要がある。特に、ハラスメントは、自衛隊員相互の信頼関係を失墜させ組織の根幹を揺るがす、決してあってはならないものである。

1 ハラスメント被害への対応

人事教育局服務管理官付には、隊員からの相談に対応するホットラインを設置している。その相談件数は、2016年度の常設当初、年間109件であったところ、2022年度が1,397件と増加傾向にある。
特に、相談件数の8割を占めるパワー・ハラスメントは、隊員の人格・人権を損ない、自殺事故にもつながる行為であり、周囲の勤務環境にも影響を及ぼす大きな問題である。パワー・ハラスメントは、隊員の認識不足や上司と部下との間のコミュニケーション・ギャップなどの問題に起因しており、それらの問題を解消していくため、①隊員の啓発・意識の向上のための集合教育・e-ラーニング、②隊員(特に管理職)の理解促進・指導能力向上のための教育、③相談体制の改善・強化などの施策を行ってきた。
また、暴行、傷害及びパワー・ハラスメントなどの規律違反の根絶を図るため、2020年3月から懲戒処分の基準を厳罰化した。2021年度中に、ハラスメントで処分した件数は、173件であった。なお、厳罰化以降、2021年度までにハラスメントを事由とする懲戒処分者数は、372人であった。この内、最も重い「免職」が15件(全てセクシュアル・ハラスメント)であった。
さらに、ハラスメントに関する悩みを抱えている隊員の中には、部内の相談窓口では、相談がしにくいと感じている者がいることから、弁護士が対応する相談窓口に加え、部外の心理カウンセラーなどが休日や勤務時間外に対応する相談窓口を設置することとしている。
しかしながら、これまで様々なハラスメント防止対策を講じてきたにもかかわらず、相談しても十分に対応してもらえなかったというケースが存在した。
例えば、元陸上自衛官が訓練中や日常的にセクシュアル・ハラスメントを受けたとして、所属部隊において被害を訴えたにもかかわらず、上官への報告や事実関係の調査などが適切に実施されなかった事案である。上級部隊による調査の結果、2022年9月に性暴力を含むセクシュアル・ハラスメント行為などが確認され、さらなる調査を踏まえ、同年12月、関係者の懲戒処分を実施した。この事案は、従来行ってきた、防衛省のハラスメント防止対策の効果が組織全体まで行き届いていなかったことの表れであり、極めて深刻で、誠に遺憾である。

図表IV-2-2-1 ハラスメントを事由とする処分者数
図表IV-2-2-2 防衛省ハラスメントホットライン相談件数の推移

2 ハラスメント根絶に向けた措置に関する防衛大臣指示

2022年9月6日、浜田防衛大臣はハラスメントの根絶に向けた措置に関する防衛大臣指示を発出し、全職員に対し、改めてハラスメントの相談窓口・相談員を周知徹底のうえ、相談・通報を指示すること、現在のハラスメント相談の対応状況を緊急点検し、全ての案件に適切に対応すること、全自衛隊を対象とした特別防衛監察の実施、ハラスメント防止対策の抜本的見直しのための有識者会議の設置を指示した。

防衛省ハラスメント防止対策有識者会議

3 ハラスメントに関する特別防衛監察

これを受け、防衛監察本部は、特別防衛監察として、ハラスメント被害に関する事例について、防衛省・自衛隊の職員から申出を受け付けることとした。
2022年11月末の期限までに、1,414件の申出があり、これらの申出について、防衛監察本部が申出者に対し、ハラスメント被害の基本的な事実関係を聞き取り、申出者の意向を踏まえつつ被害が発生した機関に通知し、細部具体的な調査を進めている。
また、本特別防衛監察の目的を達するために本特別防衛監察の中で事実関係を把握する必要があると認められる案件など一部の案件については、防衛監察本部が自ら具体的な調査を行うとともに、各機関に通知した案件についても、防衛監察本部が調査の進捗状況などをフォローアップしている。

4 ハラスメント防止対策の抜本的見直し

前述の防衛大臣指示に基づき、防衛省・自衛隊のハラスメント防止対策を白紙的かつ抜本的に見直すとともに、内部の意識改革を行い、ハラスメントを一切許容しない組織環境の構築に取り組むため、2022年11月1日、防衛省ハラスメント防止対策有識者会議を設置し、第1回を同年12月15日に、第2回を2023年2月6日に開催した。同会議からの新たなハラスメント防止対策に関する提言を受け、新たな対策を確立し、全ての自衛隊員に徹底させる。また、時代に即した対策が講じられるよう不断の見直しを行い、ハラスメントを一切許容しない組織環境を構築していく。

第3節 ワークライフバランス・女性の活躍のさらなる推進

わが国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境の中にあり、防衛省・自衛隊の対応が求められる事態が増加するとともに長期化しつつある。一方、人口減少と少子高齢化が急速に進展しており、防衛力の中核である自衛隊員を確保することがこれまで以上に重要となる中、社会構造の大きな変化により各種任務を担う防衛省の職員は、男女ともに、育児・介護などの事情のため時間や移動に制約のある者が増加することが想定される。
このような厳しい状況の中で、各種事態に持続的に対応できる態勢を確保するためには、職員が心身ともに健全な状態で、高い士気を保って、その能力を十分に発揮しうるような環境を整えることが必要である。
このため、防衛省・自衛隊は、安保戦略などに基づき、ワークライフバランスや女性職員の活躍を推進していく。
具体的には、ワークライフバランスと女性職員の採用・登用のさらなる拡大を一体的に推進するため、2015年に「防衛省における女性職員活躍とワークライフバランス推進のための取組計画」(以下「取組計画」という。)を策定し、2021年にはワークライフバランス推進及び女性の活躍推進の改革を柱とする新たな取組計画を策定した。2023年3月には①テレワークの推進、②ペーパーレス化の推進、③勤務時間管理の徹底、④男性育休の取得促進、⑤あらゆる職員が働きやすい職場環境の確立を重点的に進める旨の改定を行い、取組を一層推進している。

1 ワークライフバランス推進のための働き方改革

 1 価値観・意識の改革

働き方改革にあたっては、特に管理職員などの働き方に対する価値観や意識の改革を行う必要がある。防衛省・自衛隊においては、働き方改革やワークライフバランスに関する意識啓発のため、トップからのメッセージの発出、セミナーや講演会などを実施している。また、育児や介護などで時間や移動に制約がある隊員が増えていく中、全ての隊員が能力を十分に発揮して活躍できるよう、ワークライフバランス確保のため、長時間労働の是正や休暇の取得の促進などに努めている。
さらに、管理職のマネジメント能力の向上に向けた「マネジメント改革」のための取組も実施している。

 2 職場における働き方改革

ワークライフバランス推進に向けた取組は、職場の実情に合わせ、職員が自ら職場環境の改善策を考えることが実効性のある取組や風土作りにつながる。そのような考えから、「防衛省における働き方改革推進のための取組コンテスト」を実施し、特に優れた取組について表彰を行うとともに、防衛省内に紹介し、ほかの職員の働き方改革の一助としている。

 3 働く時間と場所の柔軟化

業務の繁閑の事情や個人の抱える時間制約などの事情を踏まえ、防衛省・自衛隊においては、早出遅出勤務やフレックスタイム制を導入し、柔軟に勤務時間を選択できるようにしてきた。2023年4月には、フレックスタイム制におけるコアタイムの短縮など、さらなる柔軟化を行った。
また、現在では一部の職員のテレワーク勤務が可能となっているが、引き続き端末の整備とともに資料の電子化などを含めたデジタル化を推進し、テレワークの実施環境を整備している。

 4 勤務時間管理の徹底

勤務時間管理のシステム化や超過勤務の実態調査などを通じ、隊員の心身の健康と福祉に害を及ぼすおそれがある、長時間労働の是正を推進している。

 5 育児・介護をしながら活躍できるための環境整備

防衛省・自衛隊においては、任期付の職員を採用し、育児休業などを取得する職員のための代替要員を確保するなど、職員が育児・介護などと仕事を両立するための様々な制度を整備している。特に男性職員の家庭生活への参画を推進するため、男性職員の育児休業などの取得促進に取り組んでおり、子どもが生まれた全ての男性職員が1ヶ月以上を目途に育児に伴う休暇・休業を取得できることを目指している。
また、育児や介護に関する制度の説明、ロールモデルの紹介、管理職員や人事担当部局がきめ細かく職員の育児にかかる状況を把握するため「育児シート」を作成するなどの取組により、職業生活と家庭生活を両立しやすい環境整備を進めている。なお、育児・介護により中途退職した自衛官を再度採用できる制度も整備されている。

 6 保育の場の確保

自衛隊員がこどもの保育などに不安を抱くことなく、任務に専念できる環境を整えておくことは、自衛隊の常時即応態勢を維持する上で重要である。防衛省・自衛隊においては、全国8か所の駐屯地などに庁内託児施設を整備してきた。また、災害派遣などの迅速な対応を求められる場面において、自衛隊の駐屯地などで隊員のこどもを一時的に預かる緊急登庁支援の施策を推進している。

2 女性の活躍推進のための改革

防衛省・自衛隊は、女性職員の採用・登用のさらなる拡大を図るため、取組計画において女性職員の採用・登用について具体的な目標を定めるなど、意欲と能力のある女性職員の活躍を推進するための様々な取組を行ってきている。

 1 女性自衛官の活躍推進に取り組む意義と人事管理の方針

自衛隊の任務が多様化・複雑化する中、自衛官には、これまで以上に高い知識・判断力・技術を備えた多面的な能力が求められるようになっている。また、少子化・高学歴化の進展などによる厳しい募集環境のもと、育児や介護などで時間や場所に制約のある隊員が大幅に増加することが想定される。
こうした環境の変化を踏まえれば、自衛隊としても、従来の均質性を重視した人的組成から多様な人材を柔軟に包摂できる組織へと進化することが求められている。
自衛隊において、現時点で必ずしも十分に活用できていない最大の人材源は、採用対象人口の半分を占める女性である。女性自衛官の活躍を推進することは、①有用な人材の確保、②多様な視点の活用、③わが国の価値観の反映、といった重要な意義がある。このため、防衛省・自衛隊として、意欲と能力、適性のある女性があらゆる分野にチャレンジする道を拓き、女性自衛官比率の倍増を目指している。
なお、女性自衛官の採用・登用に際しては、機会均等のさらなる徹底を図るとともに、本人の意欲と能力・適性に基づく適材適所の配置に努めることを、人事管理の方針としている。

戦闘機パイロットの女性自衛官

 2 女性自衛官の配置制限の解除

防衛省・自衛隊においては、「母性の保護」の観点から女性が配置できない部隊(陸自の特殊武器(化学)防護隊の一部及び坑道中隊)を除き、配置制限が全面的に解除されている。
これにより、戦闘機操縦者、空挺隊員、潜水艦の乗員などへの配置が進められている。

潜水艦乗員の女性自衛官

 3 女性職員の採用・登用の拡大

取組計画では、女性職員の採用・登用の数値目標を設定し、計画的な採用と登用の拡大を図ることとしている。

(1)女性自衛官

女性自衛官は、2023年3月末現在、約2.0万人(全自衛官の約8.7%)であり、10年前(2013年3月末時点で全自衛官の約5.5%)と比較すると、3.2ポイント増となっており、その比率は近年増加傾向にある。
女性自衛官の採用については、自衛官採用者に占める女性の割合を令和3(2021)年度以降17%以上とし、令和12(2030)年度までに全自衛官に占める女性の割合を12%以上とすることとした。また、女性自衛官の採用数の増加に合わせて、これにかかる教育・生活・勤務環境の基盤整備を推進する。
また、登用については、令和7(2025)年度末までに佐官以上に占める女性の割合を5%以上とすることを目指すこととしている。

図表IV-2-3-1 女性自衛官の在職者推移

(2)女性事務官、技官、教官など

女性事務官、技官、教官などは、2023年3月末現在、約5,400人(全事務官などの約26.9%)であり、10年前(2013年3月末時点で全事務官などの約23.5%)と比較すると、3.4ポイント増となっており、その比率は近年増加傾向にある。
採用については、令和3(2021)年度以降、政府目標と同様に、採用者に占める女性の割合を35%以上とすることを目標としている。また、登用については、令和7(2025)年度末までに、本省係長相当職に占める女性の割合を35%、地方機関課長・本省課長補佐相当職に占める女性の割合を10%、本省課室長相当職に占める女性の割合を6%、指定職相当に占める女性の割合を5%とすることを目標としている。

第4節 衛生機能の変革

防衛戦略においては、これまで自衛隊員の壮健性の維持を重視してきた自衛隊衛生は、持続性・強靱性の観点から、有事において危険を顧みずに任務を遂行する隊員の生命・身体を救う組織に変革することとしている。
加えて、自衛隊の任務が多様化・国際化する中で、災害派遣や国際平和協力活動における衛生支援や医療分野における能力構築支援など様々な衛生活動のニーズに的確に応えていくことが重要である。
このため、防衛省・自衛隊としては、各種事態への対処や国内外における多様な任務を適切に遂行できるよう衛生に関する機能の充実・強化を図っている。

1 シームレスな医療・後送態勢の確立

第一線で負傷した隊員の救命率を向上させるため、応急的な措置を講じる第一線救護、後送間救護、後送先となる病院それぞれの機能を強化していく必要がある。

図表IV-2-4-1 シームレスな医療・後送態勢のイメージ

 1 各種事態における衛生機能の強化

第一線において負傷した隊員に対しては、「第一線救護衛生員」が救急救命処置を行うとともに、野外手術システムなどを備えた医療拠点において、ダメージコントロール手術(DCS:Damage Control Surgery)を行う。さらに最終後送先である自衛隊病院などに安全かつ迅速に後送し、根治治療を行うこととしている。
このため、陸自・海自においては准看護師かつ救急救命士の免許を有する隊員が、任務遂行中に負傷した隊員に対し、負傷した現場付近において緊急救命行為を実施できるようにするため、教育・訓練を実施し、第一線救護衛生員としての指定・部隊配置を進めてきた。2022年度は新たに空自での養成が開始され、さらなる第一線救護能力の向上に取り組んでいる。
また、艦艇又は航空機上での戦傷医療など、各自衛隊の部隊や装備の特性に応じた教育訓練の充実を図るとともに、航空医療搬送訓練装置の整備、救急処置能力向上教材の整備などを推進している。また、戦傷医療教育に必要な各自衛隊共通の衛生訓練基盤の整備を推進することとしている。
これらに加え、新たに自衛隊において血液製剤を自律的に確保・備蓄する態勢の構築についても取り組んでいく。戦傷医療における死亡の多くは爆傷、銃創などによる失血死であり、これを防ぐためには輸血に使用する血液製剤の確保が極めて重要である。このため、まずは、令和5(2023)年度予算において、関連する機材などを自衛隊中央病院に設置し、必要な検討を進めていく予定である。

 2 自衛隊病院の機能強化・医療拠点の整備

自衛隊病院には、各種事態において、活動地域から後送された隊員などを収容・治療する病院としての役割がある。また、平素においては、隊員やその家族などの診療を行う病院としての役割を果たしている。このほか、医療従事者の技量の維持・向上及び養成のための教育機関としての役割も有している。
南西地域においては、多数の離島を抱える地理的特性から、医療拠点である那覇病院などの機能強化が必要である。

沖縄における医療拠点の開設・運営に関する訓練

2 衛生隊員の確保・育成

防衛省・自衛隊では、防衛医科大学校を中心とした卒後の臨床教育の充実や、医官の診療機会を確保するための各種取組の促進、感染症や救急医療をはじめとした専門的な知識・能力の取得・向上などにより、医官の確保・育成を図りつつ、医療技術の練度を維持・向上させている。
また、看護官についても、医官と同様、部内外病院などにおける実習など、知識・技術を維持・向上するための施策を講じている。
さらに、国際平和協力活動、大規模災害などを含む多様な任務や特殊な環境での任務を遂行するため、衛生科隊員及び診療放射線技師、臨床検査技師や救急救命士などの医療従事者を自衛隊の病院や学校などにおいて教育・養成している。

3 防衛医科大学校の機能強化

防衛医科大学校は、医師である幹部自衛官(医官)、保健師及び看護師である幹部自衛官(看護官)や技官を養成する防衛省・自衛隊の唯一の機関であり、主たる医療従事者を育成・輩出し、その技能を維持・向上させる役割を担っている。
整備計画では、防衛医科大学校は、戦傷医療対処能力向上をはじめとした教育研究の強化を進めることとしている。具体的には、医官・看護官に対する外傷外科治療などの教育強化や、外傷・熱傷医療分野、感染症対策、メンタルヘルスなどの自衛隊衛生の高度化に必要な防衛医学研究を推進することとしている。
特に、人工血小板の研究は、実用化できれば戦傷医療において有用なものとなる可能性がある。
さらに、自衛隊病院では対応困難な重症隊員を受け入れる役割を果たすため、防衛医科大学校病院における高度な先進医療を提供できる態勢を構築することとしている。
これらの戦傷医療対処にあたる医官などにとって臨床の現場となる防衛医科大学校病院の運営の抜本的改革を図ることとしている。

4 国際協力に必要な態勢の整備

防衛省・自衛隊は、これまで、国連三角パートナーシップ・プログラム(UNTPP:United Nations Triangular Partnership Programme)の枠組みにおける国連野外衛生救護補助員コースへの教官派遣(UNFMAC:United Nations Field Medical Assistant Course)、国際緊急援助活動として海外被災地での医療提供などに参加しているほか、インド太平洋地域を中心とする国々に対し、潜水医学、航空医学、災害医療など医療分野での能力構築支援や共同訓練を積極的に行っている。
また、感染症対応について、海外での活動に資する人材の育成や、感染症患者搬送用の機材整備、既知の感染症の中で最も危険性が高いとされる一類感染症の罹患患者に対する診療を行うため、部隊、防衛医科大学校病院及び自衛隊中央病院に所要の施設器材の整備を行うなど、能力の向上を図っている。
そのほか、海外での医療活動を行ううえで有効な移動式医療システムの更新、国際機関や米国防省などの衛生関係部局への要員派遣など、様々な国際協力に必要な態勢の整備を推進している。

5 新型コロナウイルス感染症対応

新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けた防衛省・自衛隊の取組として、自衛隊病院や防衛医科大学校病院においては、2020年2月1日から新型コロナウイルス感染症患者を受け入れている。これまでに自衛隊中央病院のほか札幌、大湊、三沢、仙台、舞鶴、入間、横須賀、富士、阪神、呉、福岡、佐世保、熊本、別府、那覇の各自衛隊地区病院及び防衛医科大学校病院において、4,821名の新型コロナウイルス感染症患者を受け入れた(2023年3月31日17時時点)。特に自衛隊中央病院及び防衛医科大学校病院は、各々東京都、埼玉県から第一種感染症指定医療機関(厚生労働大臣の定める基準に適合し、一類感染症6に対応できる陰圧室などを兼ね備えた病床を各々2床保有)の指定を受けており、患者数の増加に対応し患者の受入れを一般病床まで拡大した。
また、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種を加速するため、自衛隊は、2021年5月~11月、東京及び大阪において自衛隊大規模接種センターを設置・運営し、延べ196万回接種した。オミクロン株の流行拡大に際しては、2022年1月に東京、同年2月には大阪に大規模接種会場を設置し、それぞれ2023年3月に運営を終了した。この間、延べ52万回のワクチン接種を実施した。
新型コロナウイルス感染症対応では、平素の訓練の経験が活かされた。自衛隊中央病院及び防衛医科大学校病院は、感染症対応にかかる訓練を定期的に実施しており、一類感染症感染者が発生した際の患者受入や関係機関との連携要領の確立を図っている。
また、自衛隊中央病院では2022年7月、各種事態対処能力の向上及び関係部外医療機関との連携強化を目的とし、首都直下地震を想定した大量傷者受入訓練を実施した。陸上総隊、陸自東部方面隊や陸自衛生学校のほか、日本DMAT、東京消防庁などの参加を得て、関係機関との連携強化や災害拠点病院に準じた医療機関としての能力向上を図っている。

第5節 政策立案機能の強化

防衛戦略では、自衛隊が能力を十分に発揮し、厳しい戦略環境に対応するためには、宇宙・サイバー・電磁波の領域を含め、戦略的・機動的な防衛政策の企画立案が必要とされており、その機能を抜本的に強化していくとしている。また、関係省庁や民間の研究機関、防衛産業を中心とした企業との連携を強化するとともに、防衛研究所を中心とする防衛省・自衛隊の研究体制を見直し・強化し、知的基盤としての機能を強化することとしている。

1 政策立案機能の強化に向けた取組

防衛戦略を踏まえ、戦略的・機動的な防衛政策の企画立案を行う機能を抜本的に強化する必要があることから、有識者から政策的な助言を得るための会議体を設置することとしている。
また、自衛隊の将来の戦い方とそのために必要な先端技術の活用・育成・装備化について、関係省庁や民間の研究機関、防衛産業を中核とした企業との連携を強化しつつ、戦略的な観点から総合的に検討・推進する態勢を強化することとしている。
これに加え、防衛省の研究・教育機関においては、平素から研究の質をより高め、その成果をわが国の政策立案への反映に取り組んでいる。そうした研究成果を含め、わが国の安全保障政策に関する知識や情報について、国民の理解をより一層増進することが重要になっている。このため、防衛省・自衛隊の防衛研究所や各種学校などにおいては、
① 国内外の研究・教育機関や大学、シンクタンクなどとのネットワーク及び組織的な連携を通じた、防衛省・自衛隊の研究体制の強化
② 高度な専門知識と研究力に裏付けされた質の高い研究成果の政策立案部門などへの提供
③ 前述の研究成果などを基にした信頼性の高い情報発信
④ 教育機関などへの講師派遣や公開シンポジウムの開催などを通じた、安全保障教育の推進への寄与

など、知的基盤の強化に関する各種取組を進めている。

2 防衛研究所における取組

防衛研究所は、国立の安全保障に関する学術研究・教育機関という特色を活かし、主に安全保障及び戦史に関し政策指向の調査研究を行っている。また、自衛隊の高級幹部などの育成のための国防大学レベルの教育機関としての機能を果たしている。加えて、公文書管理法に基づく歴史資料等保有施設として、多数の戦史史料の管理及び公開を行っており、わが国最大の戦史研究センターとしての役割も担っている。
さらに、国際交流も重視しており、各国との信頼関係の増進による安全保障への貢献と調査研究及び教育の質的向上を主目的に、諸外国の国防大学・安全保障研究機関などとの研究交流などを行っている。防衛研究所創立70周年を迎えた2022年は、米中露を主体とした大国間競争の様相をテーマとして「安全保障国際シンポジウム」を開催したほか、戦争と情報をテーマとして「戦争史研究国際フォーラム」を開催するとともに、政策シミュレーション国際会議「コネクションズ・ジャパン」を初めて開催した。この会議は、将来の情勢見積りや政策の企画立案に際してのテスト手段などとして世界的に活用されている「政策シミュレーション」について、最先端の知見や国内外の取組を共有する機会として開催したものであり、今後も政策課題への対応や知的基盤強化に資するよう引き続き開催していくこととしている。

防衛研究所主催の国際会議「コネクションズ・ジャパン2022」

加えて、主な研究成果をホームページ上で公開するとともに、これまで毎年刊行してきた『中国安全保障レポート』や『安全保障戦略研究』を含む、各種刊行物を発行するなど、積極的に情報発信を行っている。このほか、防衛研究所の研究者は研究成果の一端を著書や論文、論考として多数発表しており、それらの中には優れた研究業績に与えられる賞を受賞したものもある。

3 その他の機関における取組

防衛大学校は、自衛隊の幹部となるべき者の教育訓練及び自衛官などに対するより高度な教育訓練とともに、これらに必要な研究を行う役割を担っている。
かかる役割のもと、防衛大学校では、一般学術研究や防衛政策に関連する研究を多数実施し、高度な研究水準を保持している。2022年度からは従来以上にデュアル・ユース技術を意識した防衛関連の基礎研究などを実施し、その研究成果を省内の他機関(防衛装備庁など)にフィードバックしている。
また、防衛大学校の研究成果については、グローバルセキュリティセンターが扱うテーマを中心に、防衛大学校が主催するセミナーやコロキアムでの発表、『セミナー叢書』や『研究叢書』といったオンライン媒体の発行などを通じ、広く部外に発信している。
自衛隊の幹部学校などにおいては、定期的に安全保障に関する各種のセミナーやシンポジウムを開催し、産(企業)・官(政府及び地方公共団体)・学(大学など)からの研究員などの参加を得て、様々な視点からの討議や意見交換を通じ、将来のわが国の安全保障などに関する調査研究の資としている。
また、客員研究員の受入れや、国内外の教育機関、研究機関などとの交流などにより、調査研究に必要な知見及び情報を得て、教育・研究の質の維持向上に努めている。また、主な研究成果をホームページ上で公開しているほか、各種刊行物を発行するなど、積極的に情報発信を行っている。

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